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木製の小舟は、揺れているのが分からないほど穏やかにたゆたう。
僕は舟の梁に腰かけ、手触りを得る。
すべすべとした表面がわずかに湿気を含んでいる。

無骨に横たわるその梁は、繊細に優しく磨かれつつ、水圧に抗うように棚板を支える芯の強さを併せ持っていた。

棚板は長年風雨にさらされ、とうに香りを失っているが、おそらく杉であることが見て取れた。
およそ15尺。
わずかな油分を含み、まるでもとから1枚の板であったような滑らかさ。
継ぎ目が織りなす消え入りそうな筋状の文様は、まるで竜が舟尾から一心不乱に舟首を目指した軌跡のように思えた。
その曲線は長弓のしなやかさに似て、水面をそっと外側へ追いやっていた。

唯一、主張しているように見えるのは舟首だった。
それは、竜が一本の脊髄となり、さらに空へ向かおうとする姿にも見える。
頑丈そうな底板は、下方の冷たく暗い深淵と舟上とを隔てている。
広くはない。だが、現世に留まるには十分な背中だった。

腰を上げ、舟首側に頭を向けて横たわった。
ぼろ布の上着を脱いで丸めたものを頭の下に敷いて見上げると、まるでゆりかごの底から、はぎつけに切り取られた空ばかりが見えた。

……

目を閉じる。
舟はふと揺れる。
どうやってここまでやってきたのか分からないけれど、誰かが乗り込んでくる気配がした。
舟尾の板子に腰かけ、しばしその古びた舟に想いを巡らす。
そしてある時は無言で、ある時は二言三言呟いてから、やってきた時と同じように、そっと去ってゆく。


僕は寝たふりを続けて、ただその気配だけを聞いている。

……

……






あとがき

これまでどんな記事を書いてきたのか、わからなくなった。
だから、とにかく舟を書いた。
書いている間、僕は掛け値なしに、一人で舟に揺られていたのだ。
読んでいる間だけでも、同じ舟に同乗してもらえたなら幸いです。


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