TMRの旅②:氷河歩行からまたまた山小屋@イタリア
8月4日、朝7時半過ぎ、山小屋をチェックアウト。
その際、前日もしたが、再度、山小屋スタッフさんに、氷河を渡って、イタリア側に行けるかを確認した。通常、この氷河はスキーコースでもあるのだが、熱波の影響か、昨日ぐらいからスキー禁止になっているのだ。
つまり、通常時より、氷河が溶けているって事よね・・・。
嫌な予感しかしない。
だが、山小屋スタッフ女性は、
「大丈夫よ〜。この山小屋の前のガレ場を通り抜けると氷河まで近いわよ。」
と、至って普通のことみたいな返事である。
その言葉を素直に信じ、相方と氷河に降りれる場所まで進むことにした。
だが、そのガレガレ岩場ルートそのものが、山小屋スタッフたちには、ヒョイヒョイ通れる道なのであろうが、我々には、命を掛けた道であった。
まず、昨日、山小屋まで辿ったルート以上に、超足場の悪いガレ場な上、どこが正規ルートなのか分からない。ペンキの印もほぼない状態で、それこそ相方の勘で進んでいる。
「あっちが氷河だろ。だけど、氷河に渡れる場所と渡れない場所があるんだよ。ほら、下を見て見ろよ。川が見えるだろ。あの川が太い場所は渡れないんだよ。川がないところからじゃないと、氷河まで行けないんだ。」
ガレ場の5、6メートルぐらい下だろうか、氷と砂利道のあいのこみたいな地面とガレ岩との間に隙間が見える。どうやら、それが川らしい。
え、それ、でっかいクレバスみたいなもんじゃない?
そこに水が流れているから川って呼んでいるけど、そこに落ちたら、奈落の底ってことだよね?氷河の藻屑と化すってことだよね?
頭の中に不安しかない疑問が湧くが、言葉にすると実現しそうなので、止めておく。
それにしても、このルートで大丈夫?
大きな岩の壁を伝って、下に降りているけど、でも、このまま下に降りても川幅広い場所そうだし、降りたら、上がってこれそうにない断崖絶壁系傾斜なんだけど・・・。
相方もどうやら同様に思ったらしく、
「ちょっとそこで待っていて。俺が、荷物をここに置いて、一旦、見てくる。」
と、身軽になって、下へ偵察に行った。
その姿は、ロッククライミングを降りる感じである。
まもなく、戻ってきて、荷物を背負いながら、こっちじゃないと合図をする相方。
再び、元来た場所へ戻ろうとするが、それこそ、ロッククライミング状態である。
そのまま、相方は斜め上へ進み続け、私に、再び、待つように指示。
岩場の陰に進んでいった。
何分ぐらい経っただろう。
段々と不安になる。
ちなみに、私がいる場所も決して、安全とはいえない足場である。
辛うじて、両足が同じ場所に置けているぐらいの幅。
良かった、今朝は風がなくって・・・。
それにしても、相方、戻ってくるの遅くない?
もしかして、バランス崩して、落ちた?
いや、でも、叫び声、聞こえてないし。
んー、でも、あっという間で、声を出す間もなかったとか?
で、岩に頭を強打し、失神してるとか?
いやーな妄想列車が次々に発車される。
頭の中に、YouTubeで聞いていた”山岳遭難解説”チャンネルが蘇り、
自分たちなら、”中年夫婦、無謀な挑戦。氷河に消える”なんてタイトルになるのだろうか?などが浮かぶ。
いや、こんな妄想しているより、まずは、確認作業じゃ。
大声で相方の名前に「大丈夫?」をつけて連呼。
返事なし。
うーむ、さて、どうすべきか?
助けに行くって言っても、私じゃ、二次災害になるだけじゃないだろうか。
ってことは、私は自力で山小屋まで引き返し、救助要請をするのが正解か。
あー、あそこまで戻るのもキツいなー。荷物背負ってだと、時間も掛かるし、、、、。荷物、ここで捨てるか。でも、このバッグパック、今回の為に買ったばかりなんだよなー。捨てるのは惜しいなぁ・・・。
そんなことを考えているうちに、相方が岩陰からひょこっと現れた。
どうやら、川が切れている場所まで降りて、荷物を下ろしてから、戻ってきたらしい。だから、時間が掛かったのか。
あー、良かった。
「そこで待っていて。俺が荷物、持ってやるから。」
相方がこちらに向かってこようとする。
だが、これぐらいなら、自力で上がれそうだ。
「大丈夫。上がれると思う。」
そう言って、右足を、右上の足幅の半分ぐらいは乗せられそう幅の岩に足を掛けて、身体を上に持ち上げようとした。
え、、、、。あ、上がらない。
どうやら、背負っている荷物が重過ぎて、上がらないのだ。体重の10%以上(6キロぐらい)あると、こんなにも違うのか。。
まぁ、思いっきり、右脚に力を入れたら、なんとかなるかもしれないが、バランス崩すと、後ろにひっくり返りそう。
つまり、例の奈落の底へ、サヨウナラである。
「やっぱり、荷物、お願い。身体だけなら、いけると思う。」
こんなところで意地を張っても仕方ない。相方にサポートを求めると、相方は慎重に私の側に移動。私もゆっくりと荷物を外し、受け渡した。
再び、挑戦。
慎重に、そして、集中し、岩に足を掛け、身体を持ち上げた。
やった。ひとまず、成功。
後から相方も私の荷物を背負い這い上がる。
二人で相方の見つけたルートを進み、なんとか、氷河まで渡れそうな場所まで到達。
山小屋から1キロ程度の距離に1時間以上が掛かっていた。
正直に言おう。
もう、私はここで相当うんざりであった。
だが、ここからが本番なのである。
まだ、本日の距離の10%ぐらいしか進んでいないのである。
気を取り直していくしかない。
運良く、氷河側から、2名のハイカーがこちらの方向に向かってきているのを発見。つまり、イタリア側から氷河を歩いて渡ってきた先人である。
明るい兆しである。
スキーヤーはいないが、歩行は可能。
良かった、大丈夫そう。
少し気持ちも明るくなり、今回、この氷河歩行用に用意したマイクロスパイクをシューズに装着し、ポールをピッケル代わりにして、いざ、氷河へ出陣。
ザクザクと氷を踏み締め、進んで行った。
氷河区間は1マイルぐらいらしい。

氷河を歩く体験は、まぁ、面白いと言えば面白いが、でも、正直、スケートリンクを歩くのと何が違うのだろう?クレバスリスクが高い分、氷河歩行の方が分が悪いのではないだろうか?
「おーい、こっちを振り返ってみろよ。マッターホルンが見えるぞー!」
後から進む相方に言われ、振り返る。

あー、なるほどね、この景色は確かにスケートリンクでは味わえないね。
相方が写真やビデオを撮ってくれる。
どうやら、相方、ご自慢の景色らしい。
これが相方の言うTMRの素晴らしさか。。。
なるほどね。
その感動、分からないでもないが、でも、私は、、、、感動より前に”ここにいては危険”アラートが発動するから、とにかく、さっさと、氷河は渡り切りたいわけよ。
テンション高い様子の相方を横目に、私は黙々と、進む前の場所をポールでコツコツと叩き、安全を確認しながら、進む事に集中した。
ようやく、ゴールが見えてきた。
あそこがイタリア側か。
ゴンドラ乗り場や、山小屋らしき建物も見えてくる。
「あれ?あのグループはなんであんなところにいるだろう。」
背後で相方が、私たちの10メートルぐらい横を指差しながら言った。
「ああ、あれは氷河歩行ツアーだな。」
6人ぐらいのグループは、ガイドらしき人が先導し、全員がロープで繋がっていた。
ロープで繋がっている。つまり、クレバスに誰かが落ちても支えられるようにということ?
うーむ、やっぱり、危ないってことじゃん。
私の危険アラートが更に強くなり、全集中モードへ。
こんなに緊張感のある50メートルを私は知らない。。。

氷のない砂利地面に到達した時の安堵感。
思わず、「やったー!」と叫んでしまった。
だが、しかし、今日の予定距離は22キロ。まだ、序盤中の序盤なのである。
大丈夫か、私?
という顔をしたいたのだろう。相方が言った。
「今日は、この後は、ほぼ水平移動と下り中心だから。」と。

その言葉でなんとか平常心を保ち、ひとまず、TMRの最高地点で、スイスとイタリアの国境、テオドゥール峠(Colle del Teodulo)のすぐそばに立つ標高 3,317 m の歴史ある山小屋Refuge de Theoduleで一旦休憩。

イタリア側の運営らしく、スタッフもイタリア語だし、カフェメニューもイタリアン。アップルタルトとエスプレッソで充電し、先へ進む。
確かに、水平移動区間は、ルンルンで進めた。
最初の頃の下りも、まぁ、軽いスリルを味わいつつ、楽しく感じた。
だが、何度も何度も続く、シングルトラック&足場の悪い直下型下りは、そのうち、絶景を楽しむどころか、神経をすり減らし、予想以上に疲弊した。
そうなのだ。山では、時として、登り以上に下りが難しく、時間がかかることも多いのだ。
朝7時半からずっと動き続けて7時間経過。午後2時過ぎぐらいから、昨日同様、急に天候悪化。ポツポツと雨が降り始め、降ったり、止んだりを繰り返す中、レインジャケット着用し、とにかく、早く宿に到着したくて、がむしゃらに前に進んだ。
平場地帯を進んでいる時、雷が鳴り始めた。
「光ったら教えて。近いってことだから。」
相方からそう告げられたが、どうせよっていうのだ。
ぐるりと見渡してもどこにも隠れられそうな場所がない。
っていうか、ここだと、自分たちに落ちそう。
相方の方が私より背が高いから、彼の方に直撃する確率高そうだけど、でも、貰い事故で私も逝きそう・・・。
「とにかく、急ごう。」
相方の意見に同意し、足早に進む。
小川を渡ったところで、分岐点があった。
右は川沿いを進むルート、左はシングルトラックの登り。
一瞬迷ったが、左のシングルトラックの登りを選択。
山小屋だから、もう一度、登ったところにあるはずだ。
30メートルぐらい登ったあたりで、後方から相方の声が聞こえた。
「ストップ。ちょっと、ストップ。」
相方が、少し前の道中に追い越したハイカーカップルの男性と話をしているのが見えた。
その後、「戻ってきて。」との指示。相方と男性は、お互いの携帯地図を見合わせ、話している。
どうやら、私たちは間違えたルートを行っており、このまま進むと、避難小屋しかない場所に辿り着いてしまっていたらしい。
マジか・・・。
もう、イヤー!と叫びたくなるのを必死に耐え、正しいルートを進み直した。
雨足がますます強くなる中、無言で進み続けた。
川沿いのルートを、下って、下って、山間の村らしき場所に辿り着き、そこからまた登って、登って、登って、、、。
もう、イヤー!から、2時間。
ようやく、その日の宿Refugio Ferraroに到着。
スイスの山小屋を出発してから、9時間36分が経過していた。
時刻は、午後5時を回っていた。

(追記)スイスの山小屋から氷河までと、雷雨中の写真はありません。写真撮ってる余裕なしでした・・・。
(つづく)
