芋出し画像

新宿むオナズン

幞せずいうものはすぐ近くにある。それも思っおいるよりもずっず近くに。だから我々は芋倱っおしたう。近すぎおよく芋えないのだ。
小孊䞀幎生の嚘が「パパ、絵を描いたから芋お」ず玙を持っおきたはいいが、よく芋お欲しい気持ちが溢れすぎお、僕の県球たで数ミリずいった距離に近づけおくるアレだ。近すぎお党然芋えないし、県球に䜕かしらが急接近しおくるあの恐怖は筆舌にしがたい。かわいいけど本圓にやめおほしい。
なんだか冒頭から䟋えを間違えたような気がする。
違う違う。そういう物理的な距離が近いっお話ではない。そうじゃなくお、䟋えば颚邪なんかをひいたずきに、普段なんずも思わずに過ごしおいた健康な日垞ずいうものがいかに幞せだったかに気づくアレだ。
その床に「嗚呌、僕は幞せな日々を送っおいたのだな」ずようやく気づくのだ。そしお元に戻っお日々を過ごしおいくうちに、たた僕たちはそれをあっさり忘れおいく。

これから蚘すのは、
幞せな日々ず、喪倱の痛みず、過ぎ去った青春の残像である。





事態は深刻だった。
千葉駅から総歊線に乗り、銬喰町駅から郜営新宿線ぞ乗り継いで新宿駅ぞず向かう電車の䞭。僕は、呑気な衚情で電車に揺られおいる他の乗客に苛立ちを芚えおいた。「人の気持ちも知らないで  」ず逆恚みに近いその感情はずどたるこずを知らない。そしお、それよりも曎に深刻で、今にも飛び出しそうな、はち切れそうな苊しみを抑えおじっず堪え忍んでいた。

人はそれを“䟿意”ず呌んだ。

先皋たで䌚っおいた圌女のちに嫁ずなるからメヌルが受信される。「お腹倧䞈倫」ず心配する顔文字ず共に文面が蚘されおいる。倧䞈倫じゃない。党然倧䞈倫じゃない。原因はわかっおいる。倕食ずしお食べた激蟛担々麺だ。あんなに蟛くお矎味しかったのに。あんなに幞せなひずずきだったのに。こんなのっおない。あたりに酷い話だ。隙されたず蚀っおも過蚀ではない。返信する気力をそちらに回すず今すぐにでも悪魔が召喚されおしたう。そうするず車内は混迷を極めるだろう。どうしおこうなった。この䞖に生を受けたのが間違いだったのだろうか。いや、激蟛担々麺を食べたのが間違いだ。
途䞭䞋車をするか悩んだが、京王線ぞの乗り継ぎの関係でこれを逃すず家に垰れなくなっおしたう。明日も仕事がある以䞊それは避けたかった。僕に今できるのは新宿に到着するたで粟々思考を䟿意からそらすこずしかできない。
そうだ、䞖界平和だ。䞖界平和を考えよう。䞖界が平和になるず超いいよね。やっぱ平和が䞀番だよね。あれ平和屁ぇわあっ、いかんいかん。䞀瞬の気の緩みが瀟䌚的な死に繋がる。そっち方面を連想しおはダメだ。やり盎しだ。䞖界平和ずかどうでもいい。そんなもんは埌回しだ。
電車だ。電車の揺れず呌吞を合わせるのだ。今ひず぀になるのだ。頌むから今だけは人身事故やドアの故障や急病人うんぬんはやめおくれ。通垞の時間通りでいいから運行を続け  運行あっ。今、䞀瞬、ちょっず、いや、なんでもない。ホント。党郚終わったら、あの、確かめるから  。

そうこうしおいるず電車がようやく新宿に到着した。端から芋おも、息も絶え絶えずいった様子でなんずか電車から降り、歩幅を小さく小さくしながらも、出来る限りの最高速床でトむレぞず向かう。もはや限界はずっくに過ぎおいる。
やっずのこずで蟿り着いた男子トむレはそれなりに人がいたが、䞀番奥の個宀が空いおいた。しめた。僕は秒速センチメヌトルで、桜の花びらが舞い降りる速床で個宀ぞず飛び蟌んだ。

内偎から鍵を閉め迅速に、しかしこれ以䞊ないほど慎重にズボンずパンツを同時に䞋ろす。ここが肝心だ。玠人はここで倱敗する。ここが䞀番の萜ずし穎だ。最埌の瞬間たで気は抜けない。ここで掻躍しないで䜕が肛門括玄筋だ。しくじるず逆䜐亭門倖の倉が勃発しおしたう。倧䞈倫、もう少しだ。最埌たで信じるんだ。僕は乗りきった。数々の困難を乗り越えた勇者だ。きっずこの瞬間の為に生たれおきたのだ。僕はゆっくりず䟿座ぞ腰を萜ずし気を緩めた。

新宿駅構内の男子トむレに爆発音が朚霊した。

倧袈裟でもなんでもなく「バンッ」ずいう音が響いた。
自分で発したくせに
「あれ銃声」
ず思わず勘違いしおしたう皋に明確な「バンッ」だった。蚀うならば宇宙誕生。ビッグバン。無から有を創造する。すべおのはじたりである。ここからはじたるのだ。
元々静かなトむレの空気が䞀瞬だけ止たり、そしおその盎埌、ドアの倖で「ふふっ」ず誰かが笑った。その笑い声が䌝染したのか男子トむレ内に少し笑い声が起きる。殺䌐ずしおいた空気が僕ずいう勇者の功瞟によっお明るく柔らかいものに倉わっおいく。
ああ、そうか。䞖界平和はここに圚った。ここに圚ったのだ。
心の底からそう思いながら──


勇者は、ひどく赀面した。



いいなず思ったら応揎しよう

逆䜐亭 裕らく お金は奜きです。