牛さん、ありがとうね。
関東に住む友人Cちゃんから連絡があった。
バレーボールネーションズリーグを観戦しに大阪にやって来て、次の日は神戸に宿泊するという。
Cちゃんとは兵庫県内の大学で知り合った仲。
せっかくだから当時の同級生も誘って4人で晩御飯に行こうとなり、せっかくだから「神戸ビーフ」を食べに行こうということになった。
神戸ビーフ。
兵庫に住んでいるがそんな高級食材を食べる機会は基本的にない。
みんな50代になり、めったに集まれない仲間と「ほんとに美味しいものをちょこっと」いただくものとして、とてもよい選択だと思った。
高級であることは知っているが、いったいどんなお肉なのかわかってなかったので、Wikipediaで調べてみた。
「神戸ビーフ」というのは神戸で育てた牛ではなく、兵庫県の但馬地方で飼育される「但馬牛」の中で、いくつかの厳しい条件をクリアしたものだけが名乗ることができるらしい。
兵庫県産(但馬牛)のうち、歩留等級が「A」または「B」等級ならば「但馬牛(たじまぎゅう)」「但馬ビーフ」「TAJIMA BEEF」と呼称される牛肉となる。
このうち、以下の全ての基準を満たした牛肉は、「神戸ビーフ」、「神戸肉」(以上は正式名称)、「神戸牛(こうべうし)」、「神戸牛(こうべぎゅう)」、「KOBE BEEF」との呼称を用いることもできる。
・メスでは未経産牛、オスでは去勢牛
・脂肪交雑の牛脂肪交雑基準(BMS)値No.6以上
・枝肉重量がメスでは270〜499.9 kg、オスでは300〜499.9 kg
霜降りの度合いだけでなく未経産とか去勢であることなどの条件もあった。
Wikiのページには黒い但馬牛の写真が載っており、その牛がまっすぐこちらを見ていて、食べられるために調整して育てられる牛のことを考えたら、少し辛くなってしまった。
この辛いという気持ちは勝手だな、と思った。
わたしは、生きていた動物のお肉を食べて生きている。
しかも自分ではできないことを誰かにしてもらって、食べられる形になったものをスーパーで手に入れている。
それを受け入れることにしばらく時間がかかった。
というより結局受け入れずに気にしないようにしてしまった、といったほうがいいかもしれない。
約束当日。目指すは神戸元町の中華街にある「吉祥吉」というお店。
わたしとCちゃんは年1で会っているが他のメンバーどおしは20年以上会っていない。大丸神戸店で待ち合わせをし、変わってないねーだのなんだの、キャーキャー(ぎゃーぎゃー?)言いながら中華街へ向かった。
長安門をくぐると景色が一変する。
赤と青と金色。意志の強い色通しが生み出す調和。蒸籠からあがる湯気と人々の熱気。いろんなものが混じりに混じって自分もその喧噪の一部になる。
お店に入り2階の予約席へ座る。
メニューを見るとシャトーブリアンという名前だけ聞いたことあるお肉は100グラム食べるとどえらい金額だった(ウン万円)。
「サーロインとかきっとおいしいけど100グラムも食べると脂が多くてウっとなるよ」とか言いあいながら、2種を50グラムずつ食べ比べできるという比較的お値段手頃なセットにすることした。
わたしが選んだ2種は極上赤身と別格希少部位だ。
まずはお酒で乾杯。しばらくして運ばれてきたお肉を「わあ~」といいながら、みんなでまじまじと見つめた。

まずは赤身をいただく。
硬さがちょうどよくて歯ごたえが気持ち良い。噛むたびに広がるお肉の甘みにほんわりとして、みんな口々に「おいしいねえ」と言った。
希少部位は程よくサシが入ったもの。柔らかくジューシーで赤身の甘みもある。
ふと黒い牛の顔が浮かんだ。
「牛さん、ありがとうね」
呟くと、みんなが変な顔をした。
お酒を飲みながら20年という歳月を埋めていく。
みんな子どもが大きくなり自由時間は増えたけど、体や頭が少しばかり老いつつあって、今何かしておかなければ後悔するかもしれないけど何をしたらいいかわからないという話になった。
いろいろ話していくうちに「わたしユニバーサルスタジオの年パス買っててたまにひとりで行くねん。めっちゃ楽しい~。」「運動しないとと思ってテニスは週1やってる。」「メルカリ始めた。家にあるものを片っ端から売っていくの、結構楽しいよ。」「noteで週1回文章を書くように頑張ってる。」と、それぞれのペースで毎日を楽しもうとしていることに気がついた。
同級の友人の中には病気で亡くなった人もいる。
日々お肉やお野菜をいただき、こうやって健康でいて、自分の足で出かけて友人に会えること。どれも当たり前ではないのだ。
忘れてしまいそうな感謝の気持ちを思い起こした日だった。
