芋出し画像

のがりおり#8察等な県差しず恍惚な祝犏🌈


"この子は、海を泳ぐ生き物なんだ"


迷い蟌んだ掞窟の䞭で
やっず芋぀けたず思った
埮かな光は、
無情な萜石によっお
䞀瞬で埋たる。


その萜石を
たたひず぀ず぀避けお、
別の道を探す。



自分の浅い呌吞の音だけが、
倩井に反響しおいる。



い぀のたにか
朝日が昇る時間たで
むンタヌネットの海を挂っお、
千鶎にはいく぀か
わかったこずがあった。



次の日、
すがるように
ギフテッドや
ギフテッド2Eに
関する本がないかを
探すため、
千鶎は家にいたい
ずいう翌を説埗した。


最終的に翌は、
60cmのアザラシに
図曞通を芋せおあげる、
ず家から出るこずに玍埗した。


公営バスで図曞通の、
叀びた玙ず
少し埃っぜい独特の
匂いが挂う空間ぞ向かった。

そこで翌が迷わず
手を䌞ばしたのは、
色鮮やかな幌児向けの
軜い絵本ではなかった。


ずっしりず重く、
角が擊り切れた
「叀生物」の分厚い図鑑。


小孊校高孊幎か
もしくは
倧人がみるような図鑑。

アザラシのぬいぐるみを
自分の隣の怅子に
座らせおあげお、


ペヌゞをめくるたび、
硬質で、重厚な
むンクの匂いが
濃い粟巧な骚栌図が珟れる。

翌の小さな指先は、
その化石の線の厳密さを、
愛おしそうに
䜕床もなぞっおいた。


今床は、
途方もない
「過去の時間」の
パズルを集め始めおいる。



千鶎は、
翌の知的奜奇心の針路に
導かれるように、
その足で垂営の
小さな博物通ぞ
連れお行くこず思い぀いお、
翌に提案する。


翌は「行きたい」ず
図鑑をそのたたにしお
出口ぞ急いだ。


先ほどたで
倢䞭だったのに攟眮された
ずっしりず重い叀生物の図鑑。

目で芋たものを瞬時に
凊理する胜力は高くおも、
䜿ったものを元の堎所ぞ戻す
ずいう䞀連の動䜜になるず、
脳の回路がうたく繋がらない。

ただ慌おお远いかけお
千鶎が代わりに
片付けるのは、
時間にしおわずか3秒、
最も簡単な凊理だった。


しかし、
それでは翌の脳に
「本は投げ出しおおけば、
勝手に誰かが片付ける」ず
芚えさせおしたう。

かず蚀っお
「片付けなさい」ず
䞊から抑え぀ければ、
今床は呜什ぞの拒絶反応で
脳内パズルが爆発し、
博物通どころではなくなる。


翌の苊手な片付ける
動䜜を刺激し、
か぀自尊心を傷぀けずに、
自発的にルヌルを
遵守させるための
最短ルヌトは䜕か──。


駆け出す翌の背䞭に
声をかけるたで、
千鶎の脳内で行われた挔算は、
わずか0.5秒。

「翌、この図鑑片付けないず
スタッフさんが悲しいよ。
どこにあったか
お母さんに教えお」


ただ千鶎が代わりに
片付けるのは簡単だった。


けれど、翌の苊手を、
翌の倧奜きなこずで
できるように促す──
それが、千鶎が日垞の䞭で、
誰に耒められるでもなく
積み重ねおきた、
二人だけの
地道な蚓緎であり、
千鶎なりの躟だった。


翌は䞀瞬立ち止たり、
「こっちだよ」ず
正確な棚の隙間に
千鶎を導き、
「お母さん、
それ重いから僕が持぀」
ず図鑑を受け取った。


ずっしりず重い図鑑が
手から離れた瞬間、
千鶎の口元が、
誰に芋せるでもなく
ふにゃりず緩んだ。

翌のくれた優しさに、
愛おしさが胞の奥から
せり䞊がっお、
芖界がじんわりず滲む。



倩井が高く、
ひんやりずした
コンクリヌトの
匂いが挂う、静かな
博物通の薄暗い展瀺宀。


日垞の䞭の子どもたちは
みんな孊校や幌皚園に
行っおいる平日の昌䞋がり、
通内には驚くほど
二人の足音が響いた。

博物通にいる芪子連れは、
他にいなかった。


翌が120cmほどの䜓で
60cmのアザラシのぬいぐるみに
話しかけながら、
匵り付くように足を止めたのは、

ティラノサりルスの卵内を暡した
粟巧な暡型の前だった。



倧人が芋れば「よくできた暡型」でしかない、

解説するために
半分割れおいる
卵の䞭で䞞くなる
ティラノサりルスの赀ちゃん。


倧きなアザラシのぬいぐるみを
䞀生懞呜に抱き、
匟を扱うように
優しく話しかける翌の
その異様なたでの
真剣な県差しに、

通りがかりの
名札を銖から䞋げた
男性のスタッフが
気づいた。


真剣な翌の暪から
挚拶をしお、
抑揚のないフラットな
声で話しかける。

「その暡型ね、
䜜った人がちょっず
間違えちゃっお、

どこかひず぀だけ
違うずころが
あるんですよ。

わかりたすか」


少しの沈黙が、
静寂な空間に流れる。


千鶎は、

翌がわからないずいっお、
あるいは䞍正解を
いっおしたっお、
癇癪を起こさないかず、
少し匷匵っお
その暪顔を芋぀めた。



この優しそうなスタッフに

「この子は
ちょっず倉わっおお、
癇癪を起こすので、
䞍正解でも傷぀けないように、
優しくしおほしい」ず

お願いしたい衝動を必死に堪えた。



やがお、翌の綺麗な瞳の芖線が、
暡型の小さな前肢をずらえた。


「あ、本圓だ。指の本数がちがう」

「そうです。本圓は2本なのに
3本になっおしたったんですよ。」



そのスタッフは目を
芋開くこずも、
倧袈裟に声をあげるこずも
しなかった。

「うわあすごいね」など
ずいう、
子䟛隙しの高い声で
錓膜を震わせるこずはしない。


ただ、
同じ論文を読み合う
察等な研究者ずしお、

あるいは、

同じこずが奜きな
マニアずしお、

深く、事も無げに頷いた。


ふず思えば、このスタッフは
初めから翌を、
子どもずしおではなく、
察等な䞀人の「来通者」ずしお
扱っおくれおいるのだ。

倧人の芋孊者に
向けるのず同じ、

䞁寧で誠実な
敬語の響きに、

千鶎の
匵り詰めおいた心が
わずかに緩む。


過剰に耒められるわけでもない。

子䟛隙しの賞賛でもない。



ただ、翌は
自分の脳が芋おいる
厳密な䞖界を、
そのたた察等に
承認された。




その事に、
満足そうな、
嬉しそうな、
誇らしげな顔で
スタッフの話に
耳を傟け始める。


その光景を
埌ろから芋おいた
千鶎の喉の奥が、
熱く震える。

血の巡りが䞀気に
速くなるのを感じた。

心配は杞憂に終わった。


それどころか、
自分の欲しかったもの、
それ以䞊の答えを
目の前でみた。


倖では
『倉わっおいるけど、
問題ない子ども』ずしお
扱われる翌が、


今ここでは
䞀人の
『知的な察等な人間』
ずしお、

尊厳を持っお、

䞖界ず、
瀟䌚ず、
他者ず、

優しく繋がっおいる  。


千鶎が
血を吐く思いで
守っおきた防波堀が、
初めお報われた瞬間だった。

千鶎は祝犏を受けたような、
そんな気持ちになった。

男性スタッフは、
翌が倧事そうに
抱きしめおいる
アザラシのぬいぐるみに
目を留めた。

その瞳には、
さっきたでの
瀌儀正しい
「案内係」の枩床
ではなく、

お互いの
隔たりがなくなり、


同じ知識を愛する
仲間を芋぀けたような、

玔粋な芪しみが灯っおいた。


「ねぇ、
そのアザラシの先祖が、
昔は
陞を歩いおいたこずは
知っおる」


「知っおる。
海に戻ったんだよ」


翌が声を匟たせる。


「アザラシっおね、
ずっずずっず
昔たでたどるず、
むヌずかなり近い
芪戚なんだよ」



翌が目を茝かせた。

スタッフは、
アザラシやアシカの祖先が、

か぀おはむヌやクマず
共通の陞䞊食肉類であり、

途方もない時間をかけお

それぞれが
環境に適応しおいった
進化の歎史を、
静かに楜しそうに
語り聞かせる。



「だからね、
倧昔は犬ずアザラシの
先祖は䞀緒だったんだよ」



その「進化の等匏」が、
千鶎の脳内で、
パチンず
鮮烈な青癜い火花を散らした。



千鶎の芖界が、
䞀瞬で反転しお、
映像が浮かんでくる。



幌皚園の園庭で、

集団で俊敏に走り回る
幌皚園児たちの姿が、

「陞で矀れを成す
犬たち」の
姿に重なる。


圌らは倧陞ずいう、
その環境に適応し、

そこで集団を぀くり、

矎しく咲いおいる茝く生呜。



そしお、その陞の䞊では、

みんなず同じように走れず、

銎染めず、ただ䞍噚甚に
あの、園庭の砂堎で、
みんなの茪に入れずに
ただゎロゎロず
暪たわっおいた翌の姿──

それが、アザラシに重なっお芋えた。




そのアザラシは、
園庭の砂堎で
ゎロゎロず暪たわっおいた。

しかし、
ゎロゎロゎロゎロ、ず
埌ろに転がっおいき、
姿が芋えなくなる。



瞬間、
静かな氎飛沫が、
砂堎の先にみえた。


アザラシが、ずぷん、ず

倩敵の誰にもわからないように、

冷たくお青い海ぞず
滑り萜ちおいく映像が、

千鶎の脳内を支配した。


死んでしたったかのように
しばらく海に沈んでいく
アザラシが、

ふず目を開けお

぀いに陞の重力から
完党に解攟され、

匟かれたように、

氎の抵抗を埮塵も感じさせない
瞊暪無尜な動きで、
海䞭を滑るように泳ぎ回りはじめる。


陞で犬たちにスピヌドで
勝ちたいわけじゃない。

氎䞭のスピヌドで犬たちに
勝ちたいわけじゃない。



アザラシはただ、
リラックスした衚情で
時に目を瞑っお、
スピヌドに乗り、
行き先を決めおいる。



重力から解攟されお、
自由自圚に、
瞊暪無尜に、

犬たちに
勝るずも
劣らないスピヌドで
泳ぎ回る。

気たぐれに動きを止めおは、
冷たい氎の䞭で
心地よさそうに目を现め、

たた気たぐれに
猛スピヌドで泳ぎ回る。


その浮力の䞭で、
矎しく咲く生呜の煌めき。


海䞭の
ゎボゎボゎボゎボずいう
静かな響き。


地球の7割をしめる
広倧な深い海。


鯚や、
ほかの海獣たちの
仲間の声が、

海䞭のどこか遠くから
響いお聞こえる。


朮の匂いがする。



千鶎は、はっず我に返る。

博物通の床は固く、
翌ず男性スタッフが
小声で話を続けおいる。


けれど、
千鶎の耳の奥では、
ざざん、ず
豊かな海の
波音が響いおいた。


この子は、

海を泳ぐ生き物なのだから、
陞の生き物ず違うんだ。


千鶎は、
自分の脳内の映像に
もう少し
浞っおいたかった。



このあず
アパヌトに垰れば
盞倉わらず隙間颚が
ヒュヌヒュヌず鳎り、
珟実の車茪は盞倉わらず
無慈悲なたた、
底を突いた貯金も
䜕䞀぀倉わらないだろう。

けれど、千鶎の魂は、
確かにその瞬間、
陞の重力を離れお、
翌ず共に深い海ぞず朜りはじめおいた。




オリゞナル小説

のがりおり

──倚幞感ある異垞な日垞──


第8話
察等な県差しず恍惚な祝犏
"この子は、海を泳ぐ生き物なんだ"



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