「えぇぇぇ、それはまずいですよ」と言ってからの、支店長の話
配属された支店には、個性的な先輩が二人いた。
チーフは、主に電話コールで当たりをつけ、客先に行っていろいろな話をしながら見込みにしていくタイプだった。営業車の中にはロングコートが入っていた。「これって?」と聞くと、「冬場に暖房かけて寝ると、喉やられちゃうじゃん」と言っていた。身体を大事にする人だった。
サブチーフは、お客さんの言葉に対する切り返しで見込みにしていくタイプだった。夕方「ただいまぁ」と言いながら寝癖でタイムカードを押す、あの先輩だ。
二人とも、いつ仕事をしているんだろうと思っていた。でも、この二人が支店の売上を支えていた。
ただ、この二人よりも営業力が半端なかったのが、支店長だった。
普段は表に出てこない。チーフとサブチーフが売上の中心になっていた。しかしこの人が動くのは、商談で負けそうになったときだけだった。
お客さんが「今回は、他社にするよ」と言った瞬間。
支店長はゆっくりとタバコを一本取り出した。そのタバコをくるりとひねってから、静かに火をつけた。大きく煙を吐き出してから、おもむろに口を開いた。
「えぇぇぇ、それはまずいですよ」
それだけで、決定まで持っていってしまうのだった。
同行していた先輩が、帰り道にぽつりと言った。
「他社にするって言ったのを、それはまずいって言ってひっくり返しちゃった。社内で決めたことをまずいって言える人、なかなかいないよ。あの人、半端ないね」
まったく、そのとおりだった。
相撲で例えるなら、土俵際まで追い詰められ、俵に足がかかっているところから、反対側の土俵まで押し返して叩きつけるような営業だった。
うっちゃりではない。完全な逆転だった。
チーフ、サブチーフ、そして支店長。個性も、やり方も、まるで違う三人だった。
今考えると、新人時代にこの人たちと仕事をしていたのは、本当に貴重な体験だったと思う。
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