何者でもない21歳。#06|初めてリングに立った日。
東京へ来て、格闘技を始めた。
高校卒業のとき、85kgあった体は65kgになった。
昼は働いて、夜はジムへ向かう。
毎日同じことの繰り返しだった。
でも、その毎日には目標があった。
「いつかリングに立ちたい。」
YouTubeで見て憧れた景色。
その夢が、少しずつ現実になろうとしていた。
初めてのアマチュアデビュー戦
格闘技を始めてから、
少しずつ練習にも慣れてきた。
ミット打ち。
マススパーリング。
毎日少しずつできることが増えていく。
そんな中で、
「一度、試合に出てみたい。」
という気持ちがどんどん大きくなっていった。
YouTubeで見ていたリング。
画面の向こう側だった世界。
今度は、自分がそこへ立ちたい。
そう思うようになった。
そして、
アマチュアの試合に出ることを決めた。
試合が決まってからは、
楽しみよりも緊張の方が大きかった。
「本当に俺がリングに立つんだ。」
そう考えるだけで胸がいっぱいになった。
練習とは違う空気
試合当日。
会場へ向かう。
いろんなジムの選手がアップをしている。
リングが見える。
観客がいる。
独特の緊張感が会場に流れていた。
ジムでの練習とは、まったく違う空気だった。
ここでは誰も手加減してくれない。
勝つために来ている。
相手も同じ気持ちだ。
その瞬間、
「逃げたい」
そんな気持ちが少しだけ頭をよぎった。
でも、
ここまで積み重ねてきた時間を思い出した。
東京へ来たこと。
85kgから65kgまで減量したこと。
仕事をしながら毎日練習してきたこと。
全部、この日のためだった。
リングの上
自分の名前が呼ばれる。
リングへ上がる。
ロープをまたぐ。
レフェリーの説明を聞く。
赤コーナー。
青コーナー。
会場の音が少しずつ遠くなっていく。
そして、
ゴングが鳴った。
その瞬間、不思議と緊張は消えた。
目の前の相手だけを見る。
練習してきたことを信じるしかなかった。
パンチを出す。
蹴る。
距離を取る。
必死だった。
何を考えていたのか、正直あまり覚えていない。
ただ、
目の前の一瞬一瞬に集中していた。
初勝利
試合終了。
判定の時間。
リングの真ん中に立つ。
心臓の音が聞こえる。
そして、
レフェリーが俺の手を上げた。
勝った。
アマチュアの一勝。
世の中から見れば、小さな一勝かもしれない。
でも俺にとっては、
人生で一番大きな一勝だった。
あの日、
東京へ来る決断をした自分。
先生や親の言葉を聞きながらも、自分の気持ちを信じた自分。
85kgだった自分。
毎日働きながら練習を続けた自分。
全部が報われた気がした。
勝ったことで分かったこと
勝ったから嬉しかった。
もちろん、それもある。
でも一番嬉しかったのは、
「自分にもできるんだ。」
そう思えたことだった。
昔の俺は、
高校受験に落ちた。
高校野球では肩を怪我した。
何度も思い通りにならない経験をしてきた。
だからどこかで、
自分に自信が持てなかった。
でも、この一勝が教えてくれた。
才能よりも、
環境よりも、
続けることの方が大事なんだ。
リングは、自分を誤魔化せない
格闘技を始めて気付いたことがある。
リングの上では、
言い訳は通用しない。
練習してきたことしか出ない。
努力した分だけ、自分に返ってくる。
逆に、
サボったことも全部返ってくる。
だから格闘技が好きになった。
相手と闘っているようで、
本当に闘っているのは昨日までの自分だった。
この一勝は、人生の始まり
初勝利。
本当に嬉しかった。
でも、その一勝で満足する自分はいなかった。
もっと強くなりたい。
もっと成長したい。
もっと自分を試したい。
そしていつか、
リングの上だけじゃなく、
人生でも勝負できる人間になりたい。
あの日のリングが教えてくれたこと
18歳で東京へ来た。
格闘技を始めた。
85kgから65kgまで体を変えた。
そして、
初めてアマチュアのリングに立ち、勝つことができた。
もしあのとき、
「やっぱり東京はやめよう。」
そう思っていたら、この景色は見ることができなかった。
だから今、胸を張って言える。
人生は、行動で変えられる。
環境は選べなくても、
未来は選べる。
挑戦するかどうかは、自分で決められる。
この一勝は、
格闘技の一勝じゃない。
何者でもなかった19歳の俺が、自分の人生で初めて掴んだ勝利だった。
⸻
次回
#07 |初めての敗北。
勝って終わりなら、物語はここで終わる。
でも人生は、そんなに甘くなかった。
初勝利のあと、
俺は初めて大きな壁にぶつかる。
その敗北が、今の俺を作ることになる。

