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ナナハン物語猫殺し第䞀話 1970幎代を生きる少幎達、ナナハンは少幎の唯䞀の力だった

2017幎5月の高朚
 街が再開発されるず、その堎所に長幎䜏んでいおも、昔の景色がなかなか思い出せなくなる。同じように自分達の生きた時代も次第に忘れおいく。

日曜の朝、そんなこずを思いながら、犬の散歩をしおいた。散歩の途䞭にあるコンクリヌトの板塀。その塀䞀面に文字ずむラストが描かれおいた。長幎の颚雚で消え぀぀ある。
そこには懐かしい名前があった。
「SPECTOR CRS連合」 ドクロのマヌクも残っおいた。これは、昭和50幎代のものだ。

気づくず塀の向こうの桜の朚は葉桜になっおいた。もうすぐ倏が来る。この歳でもただ胞隒ぎが起こる。あの時代の倏は倢の時間だった。でも现かい事は思い出せない。

ただ楜しかった。今はない䞖界がそこにはあった。スマホもネットもない。高校生達の毎日はたわいないおしゃべりず噂ず劄想で䜜り出されおいた。

犬の散歩も終わり、家のポストを芗くず封曞があった。封曞ずは今時珍しい。ダむニングの怅子に座っお封曞を芋る。
差出人には「猫殺し」ずあった。

1974幎7月倏䌑み前
 梅雚も明けお季節は倏に突入しおいた。その日は高校幎の孊期の期末詊隓、それも最終日だった。午前䞭だけの詊隓が終わるず匷い日差しの䞭、早足に孊校の裏問から出た高朚は、隣接する公団団地に向った。

ロックギタヌリストのように、肩たで䌞ばした長い髪、リヌバむスのスリムのゞヌパン、カヌキ色のTシャツの䞊に脱色したゞヌゞャンを着おいた。
ビヌサンを履いおいたので、ぺたぺた音を立おおいた。
うるさいなぁず思いながら高朚は走っおいた。

この団地内には小さな公園があり、高朚はその公園脇の道にオヌトバむを止めおいた。オヌトバむはHONDA CB7504サむクル4気筒 排気量750ccの囜内最倧のバむク 䞖界を驚かせたスペック、通称ナナハンず蚀われおいる。
倏の日差しの䞭でメタリックブルヌのタンクが茝いおいた。3幎萜ちの䞭叀のナナハンだ。乗り出しおからただ週間しかたっおない。高朚が1幎間バむトし、芪に借金たでしお買ったバむクだ。

ナナハンで通孊する
 高朚の通っおいる郜立の工業高校は、䞖田谷の成城孊園の隅っこにあり、工堎棟、サッカヌ堎、野球堎などもあり、広倧な敷地を持぀孊校だ。
孊校の呚りは空き地や畑、特に芝の畑が倚く、ゎルフ䞊みたいな所にある孊校だった。屋䞊からの芋晎らしはよく、遠くには富士山、近くには千歳烏山の䞞いガスタンクも芋えた。

バむク通孊は3幎前で蚱可されおいたが、宅地が増え、近隣からの隒音の苊情があり犁止された。犁止されおはいるけど、高朚はかたわずナナハンで通っおいた。

工業高校なのでそんな茩は沢山いた。生埒の殆どが倧なり小なりバむクを持っおいた。しかも孊生運動のおかげで、私服通孊が可胜ずなっおいる。だから孊校の門を出おしたえば、孊校ずいう瞛りが消え自由な気分になれた。
 
斉藀くんが来る
 高朚が少しの間ナナハンに芋ずれおいるず、オヌトバむの゚ンゞン音が聞こえおきた。4サむクル2気筒の゚ンゞン音。HONDA CB3504サむクル2気筒 本田ドリヌムの䌝統的な排気量350ccのバむク、通称サンパンの゚ンゞン音だ。乗っおいるのは。おそらくダブりの斉藀くんだろう。幎䞊なので斉藀くんず高朚はくんづけしおいる。

斉藀くんは高の時バンド掻動をやり過ぎお、党く孊校ぞ来なかった。
結果ずしお、ただ幎生を継続しおいる。
長い髪ずむヌゞヌラむダヌのピヌタヌ・フォンダ颚のもみあげを生やしおいる。ベルボトムゞヌパンに長袖のボヌダヌシャツ。その䞊にゞヌゞャンを矜織っおいる。靎はコンバヌス。圓然ノヌヘル(ヘルメットを被っおない)だ。青いタンクのサンパンを高朚の暪に止めた。

「孊校は終わったかい」今日もサボっおいる斉藀くんが蚀う。
「斉藀くん、今日は期末詊隓の最終日だよ」
「そうだっけ、それより高朚、今日行くだろう」
倧芏暡な暎走族の集䌚が今倜あるこずは高朚も知っおいた。
やはり斉藀くんは来幎も高校3幎を続ける気のようだ。

「行くよ」高朚は圓然ずいう顔で答えた。
「そうか、ほんじゃ䜕時のも堎所で埅っおいる」
そう蚀うず斉藀くんは4サむクル2気筒のバスドラのような゚ンゞン音を響かせ団地の出口に向かった。
 
少幎達の䞖界が始たる
 ゚ンゞン音が聞こえなくなるず、団地内の朚々にしがみ぀くアブラれミの鳎き声が倧きくなった。䜕かの呪文の様に聞こえる。高朚は額の汗をぬぐい高い䜍眮にある倪陜を眺めた。
眩しさに目を぀ぶるずたぶたの裏が真っ赀になる。暫く目を閉じたたたにした。
目をあける。
呚りが癜く光り茝いおいた。そしお埐々に景色に色が戻っおきた。そこには違う䞖界が広がっおいた。

高朚はナナハンを跚ぎ、セルを回し゚ンゞンを始動た。
サンパンずは違う、4サむクル4気筒のゞェット機のような゚ンゞン音が響いた。ヘルメットはもちろん持っお無い。でもガ゜リンは満タン。そしお今日は土曜だ。
これから俺達の䞖界が始たる

・土曜の倜
 倜11時を過ぎたルヌト20囜道20号線、この時間になるずタクシヌしか走っおいない。斉藀くんのサンパンは高朚の右暪を走っおいる。
前面に広がる黒い空間、ヘッドラむトに照らされた癜線が玠早く埌ろに飛んでいく。

高朚ず斉藀くんは環八通りぞ入り、東名高速の甚賀むンタヌ脇の道から砧のファミリヌパヌクに向かっおいた。砧のファミリヌパヌクは環八沿いにある倧きな公園だ。この蟺りでは駒沢公園ずずもに暎走族の集䌚堎ずしおのメッカずなっおいた。

その日は倧芏暡な集䌚だった。「錠小僧」「ルヌト」「スペクタヌ」など枋谷、䞖田谷、狛江、調垃、府䞭を䞭心ずする有名なチヌムが倧挙しお集たっおいる。
高朚は斉藀くんず䞀緒に公園の駐車堎にバむクを乗りいれた。

広い駐車堎がバむクや車で埋たっおいた。゚ンゞンの空吹かし音、䞉連ホヌンの音が鳎り響いおいた。バむクだけでも100台以䞊はある。
高朚は集たったバむクの迫力に圧倒されおいた。改造の限りを尜くしたバむクが氎銀灯の䞋で茝いおいる。その呚りには掟手な服装の男女がたむろしおいた。

高朚ず斉藀くんは隅っこに目立たないようにバむクを止めた。さすがに二人ずもびびり気味だ。駐車堎は満杯だ。それでもバむクや車がただただ集たっおくる。

猫殺しず出䌚う 
 激しい爆音が響いた。芋るず駐車堎の入り口前の盎線路では、バむクでのりィリヌ走行が始たっおいた。マフラヌが路面に擊っお火花が散っおいる。
斉藀くんが隒音に負けたいず、倧声で高朚に話しかけおきた。
「すげヌな、ちょっずバむクを芋おみようぜ」

高朚も、こんなに沢山の改造バむクを芋るのは初めおだった。
䜕台か芋る䞭で高朚はKAWASAKI W1(メグロの倧型バむク その䌝統を受け継ぐ排気量650ccのバむク通称ダブワンが栌奜いいず思った。タンクをメッキ塗装にしお、マフラヌをカッタヌタむプにしおいる。音が凄い、たるで地響きだ。
  
色々ずチェックを入れながら歩いおいるず、黄金色のKAWSAKI 500SS MACH III (2サむクル3気筒の排気量500ccのバむク 囜内最速の加速を誇る暎れ銬が高朚の目に入った。「猫殺し」のマッハ(スリヌだ。
猫殺し本人もいる。奎は猫を芋぀けるず捕たえお銖をしめお殺すずいう、かなり倉態的な噂のある男だ。

高朚はその噂を同玚生達から聞いおおり、出来れば近づきたくなかった。斉藀くんも猫殺しの話は知っおいた。
それでも垞に恐怖より興味が勝る斉藀くんが話かけた。
「どうだよ、調子は」

猫殺しは぀り目で狐顔。さらさらの長髪をかきあげながら答えた。
「うヌん、たぁたぁだよ。さっきねぇ、なんか今日ぱンゞンの調子が悪ぃず思っおいたら、その原因が分かったよ」
「ほら、これさぁ」猫殺しは、いきなりかじりかけのフランスパンを高朚の目の前に差し出した。
「マフラヌの䞭に突っ蟌んでいたのを忘れおいた。いい焌き具合だろう」ずそう蚀うず现い目を぀り䞊げお笑った。
 
高朚は静かに、その堎からゆっくりず歩きだした。その埌を远っおきた斉藀くんが蚀う。
「あい぀さぁ、絶察になんかやっおいる」斉藀くんは猫の様に顔をゆがめた。
「シンナヌ」ず高朚が蚊くず。
「いや、もっずやばいや぀」
「やばいっおなんだよ、マリファナ」
「おお、それだ、やばいぜぇ」
高朚は斉藀くんも同じ皋床にやばいだろうず思ったが、黙っおバむク芋孊に戻った。
 
駐車堎内は、暎走族ず蚀われる茩がほずんどなので、圓然パンチパヌマやリヌれントの突っ匵りの装いの男が倚い。仲間内では、バミュヌダパンツの䞊に原色のトレヌナヌを半袖にしお裏返しで着るのが流行っおいた。
その䞭で高朚も斉藀くんもヒッピヌ颚の長髪で、ゞヌゞャン。どちらかず蚀えば浮いおいる。そう蚀えば猫殺しも長髪だ。

斉藀くんは高校生掻をほがドロップアりトした状態だ。
あの猫殺しは倧孊をドロップアりトしたずいう噂を高朚は聞いおいた。もしかするず圌はむンテリなのではず高朚は思っおいた。
䞀方斉藀くんはうちの高校で萜第しおいる。圌は本圓の阿呆だず思った。
  
暎走開始
 深倜0時を過ぎるずさらにバむクが集っおきた。もの凄い台数だ。ちなみに集たった暎走族達、党員が仲良しではない。些现な事で喧嘩する。このたたじゃ倧隒ぎになるだろう。すでに駐車堎のゞュヌスの自販機に激しく蹎りをいれお、ピヌピヌ譊告音を鳎らしおいる銬鹿もいる。
このたたでは譊察が来お、駐車堎の出口を塞がれお党員怜挙されるのも時間の問題だった。

各チヌムのヘッド達暎走族のチヌムの芪分が盞談を始めた。
その結果、グルヌプに分かれお譊察を撹乱しながら流すあたり飛ばさないで走るようにず䌝達が来た。ずもかく集団で走る。流れを切らずに信号など絶察に止たらずに走れずいうこずだ。止たっおいるず譊察に捕たる率が高たる。
 
高朚は倕飯抜きだったので、腹が枛っおいた。このたた垰ろうかずも思ったが、折角だから少し走っおから垰るこずにした。斉藀くんも同じく腹枛りで垰る気満々だったが、高朚に付き合うようだ。

どのグルヌプで走ろうかず考えおいるず青山通りを走るグルヌプにアフロヘアヌの青井の乗る黒タンクのHONDA CB5004サむクル4気筒の500ccのバむク、暎走族人気No,1のバむクを芋぀けた。青井は高朚ず同じ電気科の同玚生だ。
高朚は青井に手を振っおから、そのグルヌプの䞀番埌ろに぀いた。
青井のCB500に取り付けた自慢の䞉連ホヌンから、ゎッドファヌザヌのテヌマ曲が鳎り響く。
バむクの矀れがヘビのように、うねりながら動いた。
 
カストロヌルオむルの匂い
 高朚のナナハンはキャブレタヌ系をカスタムチュヌンングしおおり調子はいい。でも、ゆっくりず隊列の埌ろを斉藀くんず走る。
暑さの䞭、排ガスの匂う道路でも気分は䞊々だった。
目の前の道路には、おそらくスペクタヌのヘッドの野村さんのマッハが残したず思うカストロヌルオむルの焌けた匂いが挂っおいた。

圓時は2サむクルの倧型バむクが販売されおおり、燃料のガ゜リンにオむル混合しなくおいけなかった。普通は分離匏タンクでオむルは補絊するが、圓時はレヌサヌず同様にタンクで盎接ガ゜リンず混合させおいた茩も倚かった。圌らが奜んで䜿うのがカストロヌルの怍物性オむルで、排煙が真っ癜になり、独特の甘い匂いがした。

高朚は久しぶりに高揚感を感じた。前に50台以䞊のバむクが走っおいる。凄い迫力だ。この台数で走る魅力はなにものにも代えがたい。
タクシヌだらけの囜道246ニむペンロクを䜕台ものバむクがゞグザクに走り抜けた。タクシヌは動くパむロンみたいだった。

時折タクシヌの運ちゃんの幅寄せに、「銬鹿野郎」ず怒鳎りながら、高朚はナナハンを飛ばした。
 
斉藀くんのゞンクス
 祭には事故は぀きものだった。
目の前で火花を散らしながら猫殺しの黄金色のマッハが転がった。バむクは50くらい道路を滑っおガヌドレヌルにぶ぀かり止たった。

246が青山通りず呌ばれる手前、䞉軒茶屋を過ぎたあたりから銖郜高速が䜵走しお立䜓亀差になっおいる。そのアップダりンするロヌラヌコヌスタヌのような道路をちょうど䞋りきった所で、道路の窪みか䜕かで突然匟かれたマッハはバランスを倱い、右偎面をアスファルトに擊り付け火花を散らした。

その事故を芋た高朚の頭に「斉藀くんのゞンクス」が頭に思い浮かんだ。
「斉藀くんず走るず必ず誰かが事故る」先茩達がよくその話をしおいた。半信半疑だったが、そのゞンクスは本物だったようだ。
  
猫ごろしは、スピヌドが出おいたわりには、フルフェヌスヘルメットも被っおいるし、い぀も着おいる皮の぀なぎのおかげで、怪我はほずんどなかった。悪運の匷いや぀だず高朚は思った。

マッハはハンドルが極端に曲がっおしたい自走はむりだった。仕方がないので、青井の知り合いがバむトしおいる近くのガ゜リンスタンドにバむクを預けた。猫ごろしはダチのリアシヌトに乗った。
これで䜕䞇円かのバむク郚品がおしゃかになったわけだが、リアシヌトの猫殺しはぞらぞら笑っおいた。

斉藀くんがサンパンを高朚のナナハンの右に近づけた。
「猫のたたりじゃねぇヌの」斉藀くんが倧声で叫ぶ。
高朚は斉藀くんのゞンクスのせいだず思っおいたので返事をしなかった。さらに斉藀くんが叫ぶ。
「高朚、パックれようぜ」

斉藀くんのサンパンが急に隊列を離れ脇道に入っおいた。高朚もあわおお埌を远った。
「䜕凊ぞ行くの」高朚は倧声で問うず、斉藀くんは蚀った。
「俺んちだ。飯食おう、腹ぺこだ」 

斉藀クリヌニング店
 斉藀くんの家は目黒のクリヌニング屋だ。呚りを銖郜高ずビルディングに囲たれおいる䞀軒家だ。目黒通りに面しおいる倖階段から広いがボロボロの朚造ベランダに出るず、霋藀くんは自分の郚屋に窓から入った。
そこは畳の郚屋で、壁にはロヌリング・ストヌンズずゞョニヌ・りむンタヌ(100䞇ドルのブルヌスギタヌリストのポスタヌが貌っおある。

「高朚、ラヌメンでいいか」
「䜕でもいいよ」
「よし、埅っおいろ、ラヌメンを䜜っおやるよ」そう蚀っお、郚屋から出お行った。

10分埌には斉藀くんがお盆にサッポロ䞀番味噌ラヌメンに生卵を远加したスペシャルラヌメンを持っお珟れた。むンスタントラヌメンは玠早く䜜るこずが圌のポリシヌになっおいる。
「卵぀きだぜぇ」
「いいねヌ」

テキサスの100䞇ドルのブルヌスギタヌリスト
 玠早く食べるこずは二人のポリシヌ、圌らは分で食べ終わった。
食埌の䞀服。高朚はハむラむトを吞った、斉藀くんは喉に悪いずいい、煙草は吞わなかった。

「レコヌドでも聎く」タバコの煙を窓から倖に吐き出しおいる高朚に斉藀くんが蚊いた。
「うん、ゞョニヌ・りむンタヌがいい」

深倜の2時過ぎに、開けっ攟しの窓から、ゞョニヌ・りむンタヌの絡み぀くようなブルヌスギタヌのフレヌズが流れ出した。
8月生たれの高朚はこの倏で18才なる。圌女もいない。色々ず諞事情があり高2の冬、サッカヌ郚を蟞めた。勉匷も今は䜎空飛行だ。

それでも高朚はナナハンラむダヌだった。圓時の高校生にずっお、この恐ろしく暎力的なスモヌルワヌルドを生き抜くための唯䞀の力だった。

亜子さん登堎
 昚日はレコヌドをかけ攟しで、寝蟌んでしたった。タヌンテヌブルの䞊でレコヌド針がぶ぀ぶ぀蚀っおいった。斉藀くんも暪で寝おいたが、飛び起きお針を戻し、乱暎に高朚を叩く。

「おい、高朚、起きろ、飯に行こう」
「わかった、了解だ」面倒くさいが、そう答えた高朚は立ち䞊った。しわしわのゞヌパンずシャツ。そこにはかすかにカストロヌルオむルの匂がしみこんでいた。

時間はすでに11時、近所の喫茶店「ガロ」にバむクで行く。
高朚は斉藀くんず䞀緒に遅いモヌニングサヌビスを食べた。
タバコの吞い過ぎかコヌヒヌが泥氎の味だ。たさにマディりオヌタヌブルヌスギタヌリストだ。

「野音日比谷の野倖音楜堂で今日、日本のロックバンドのラむブがある。知っおいた」犁煙者の霋藀くんが蚀う。
「そうなの」
「なぁ、行かないか」

高朚はただ寝がけおいたので無反応だった。そこに女の子の声がした。
「えっ、行きたい、行きたい」
声の方を芋るずここでアルバむトをしおいる亜子さんだった。
「で、チケットはあるの」
亜子さんが疑わしそうに斉藀くんを芋た。
 
亜子さんは斉藀くんの䞭孊校の頃の同玚生だ。今幎地元の郜立の進孊校を卒業し、今は青孊ぞ通っおいる。背が高くストレヌトのロングヘアヌが䌌合う子だ。そんなに可愛くっお優秀な女の子が、䜕故だか高校留幎䞭の斉藀くんのバンドで、キヌボヌドずボヌカルを担圓しおいる。
䞖界の、いや目黒の䞃䞍思議の䞀぀だず高朚は思っおいた。

「うんにゃ、チケットなんかないよ」ゆで卵を頬匵りながら阿呆面をした斉藀くんが蚀う。
「なヌんだ、喜んで損した」
「倧䞈倫だよ、毛垃ずかがあれば、䜕ずかなるよ」
「毛垃」高朚が蚀う。
「そう、玠手だず怪我するから」なんだかわからないが、斉藀くんが気軜に蚀った。
「で、いく」
「いくいく」高朚ず亜子さんが同時に返事をした。
  
日比谷の野倖音楜堂 
 高朚は午4時たで斉藀くんの家で過ごし野音ぞ出発した。亜子さんは斉藀くんのサンパンの埌ろに乗った3人ずもノヌヘルだ。颚に亜子さんの髪が激しくなびいおいた。倕刻ずは蚀え、ただ倏の倪陜は容赊なく道路を照り぀けおいた。

野音の裏の歩道にバむクを止め、鬱蒌ずした朚々の䞭を歩く。ダブ蚊が寄っおくる。手で蚊を払いながら3人は歩く。するず゚フェクタヌで歪んだギタヌの音が跳びこんできた。すでにラむブは始たっおいた。

「霋藀くん、裏口から入るの 知り合いずかいるわけ」高朚は心配になっお聞いた。
「いないよ」ず䜕時もの軜い調子で斉藀くんは答える。
「じゃ、どうするの」
「うヌん、人目に぀かない所がある」ず歩き出した。

高朚達のやりずりを暪で聞いおいた亜子さんは気づいた。
「もしかしおフェンスを乗り越える぀もり、銬鹿じゃないの、䞀番䞊は鉄条網だよ、怪我するよ」
「倧䞈倫だよ、亜子もゞヌパンだろう、それずこれがある」ず斉藀くんが片腕に抱えおいる毛垃を指さした。

「そう蚀う問題じゃないでしょう、私にそんな銬鹿げた事をやらせる぀もり、斉藀のアホ」
亜子さんは怒っお反察方向に歩き出した。
「高朚、行こうぜ」斉藀くんは亜子さんを無芖しお歩き出した。
どちらぞ行こうか高朚は悩んだが、ラむブの音を聎くずどうしようもない。斉藀くんの埌を远った。
 
野音を囲むフェンスの前に着くず斉藀くんが蚀った。 
「高朚、ここ、ここだよ、ここを乗り越えおトむレの屋根に飛び降りる」
芋るず、フェンスは線み目なので手がかりがあり簡単に登れそうだった。

ただフェンスの䞀番䞊は凶悪な有刺鉄線が匵り巡らされおおり、これが手匷そうだ。䞋りる偎はトむレの小屋があり、屋根たでは1mくいらで、これはなんずか飛び移れそうだ。

「よし、行こうぜぇ」お気楜な調子で斉藀くんはフェンスに飛び぀いた。
高朚も慌おお走り、倧きくゞャンプしおフェンスに飛び぀いた。

斉藀くんは長髪で、芋かけはなよなよしおいるが、運動神経はいい、玠早く䞊に昇り぀き、毛垃を鉄線にかけおフェンスを跳び越えた。高朚も続いお飛び越え、トむレの屋根に降り立った。
 
このトむレだが、トむレ内の通路には屋根がないので、高朚はトむレの倖偎ではなく通路偎に飛び降りた。気づくず斉藀くんがいない、その時、隣の女子トむレの方で、悲鳎があがった。

斉藀くんは女子トむレの通路ぞ飛び降りたようだ。高朚は走り出した。盎ぐに斉藀くんが埌ろから远い぀いおきた。
「やべヌっ、女子トむレに䞋りちたったよ」
「わざずだろう」
 
チャヌず金子マリずバックスバニヌ
ベンチが半円に䞊ぶロヌマのコロシアムみたいな䌚堎に入るず満杯だった。ほずんどの客がスタンディングしおいた。

耳には切れの良いドラムず腹に響くベヌスに合わせお、ギタヌのカッティングが響いおいた。バックス・バニヌだ。
フェンダヌムスタングを抱えるチャヌが、ボヌカルの金子マリずタむミングを図っおいた。

突然、金子マリのゞャニス・ゞョップリンのような歌声が、野音の䞊に広がる倕焌け空を突き抜けた。
「最高だねぇ」斉藀くんが高朚の耳元で蚀う。
うなずく高朚の前で、「チャヌ」ずいう倧声が脳みそを揺さぶった。

なんず亜子さんがいた。振り向いお高朚達の顔をみるず
「最高」ずたた叫ぶ。
「あのさぁ、どうやっお入ったの」斉藀くんが蚊く。
「あの人に蚀ったら、入れおくれたの」
 指さす方をみるず、小豆色のむタリアンスヌツを着たゞョヌがフェンスの脇に立っおいった。煙草を吞っおいる。

「おっ、ゞョヌだ」斉藀くんが蚀う。
ゞョヌは日本のロック界のカリスマ的ボヌカリストだ。黒人ずのハヌフなので䜓もデカいし芋た目も怖い。

ゞョヌに盎蚎ずはやっぱ女の子は凄いやず高朚は思った。
高朚はそんなストレヌトな性栌の亜子さんが隣にいるこずが嬉しかった。高朚が芋おいるのに気づくず亜子さんは笑いながら蚀った。
「あのさぁ、女子トむレから悲鳎が䞊がっお、君達が走っおくるのが芋えたよ」
「うるせヌよ」斉藀くんが䞍機嫌に答えた。
「あれ、Tシャツが砎れおいる、くっそ、ひかけちたった」斉藀くんは脳倩気にうるさかった。
 
蟺りはようやく倜の垳がおり暗くなっおきた。ステヌゞはラむトアップされた。䌚堎はさらにヒヌトアップしおいる。今床はキャロルの登堎だ。このくそ暑いのに、皮のズボンに革ゞャンを玠肌に着おいる。

おきたりのロックンロヌルのリフで始たった。軜快なリズムに合わせお、ボヌカルの矢沢が唟を飛ばすように歌う。
「君はファンキヌ・モンキヌ・ベビヌ」野音がヒヌトアップする。

倜のバむト
 䌚堎はノリノリだ。でも高朚ず斉藀くんは今䞀乗れおいない。チャヌず金子たりの本栌的なロックを聎いた埌、売れ筋のポップなロックにやや醒めた感じであった。
亜子さんも同じような気持ちらしい。ずいうこずで、3人は早々ず䌚堎をパックれるこずになった。

「ありがずう」亜子さんが䌚堎の裏口から出る時に、タバコを吞っおいるゞョヌに声をかけた。ゞョヌはタバコを持った手を振った。
「あれ、タバコじゃないぜ、きっず葉っぱマリファナだよ」斉藀くんが暪で蚀う。
「聞こえるよ」高朚がうるさそうに蚀う。

3人が林間の小道を抜けお、バむクに戻るず爆匟の様な音の固たりが明るい束明のような野音の䞊に響いおいた。
「高朚、俺、これからバむトだから」バむクに跚がっお斉藀くんが蚀う。
「倜のバむト」
「そう、倜のバむト。だからさぁ、亜子を送っおやっお」
「えっ」
「おねがいしたヌす」ず亜子さん。
「あぁ、はい」

高朚は少し緊匵した。女の子ずの二人乗りするバむクタンデムなんお初めおだ。それに二人乗りは埗意じゃなかった。
「じゃヌね」ず蚀うず斉藀くんはサンパンの゚ンゞンをかけ、玠早く倜の道路に走り出した。 

真倜䞭のタンデム
 遠ざかる斉藀くんのサンパンのテヌルランプを芋おいた高朚。暪には亜子さんがいた。
どうするか悩む、高朚は奥手だ。助け船を亜子さんがだした。
「どこかで、ご飯食べようよ、おごるよ、行こう」

亜子さんは高朚のナナハンのリアシヌトに乗るず、小銖をかしげた。
高朚も実はかなり腹が枛っおいたので同意した。
「はい、どこがいいですか」
「プロペラカフェ」

プロペラカフェは調垃飛行堎に隣接するレストランだ。
調垃に向かうにはたずルヌト20に出る必芁がある。高朚はナナハンを跚ぐず、セルで゚ンゞンをかけた。

「亜子さん、行きたす」そう高朚が蚀うず、亜子さんは腕を高朚の胎に回しお手を組んだ。背䞭に感じる熱さに緊匵した。その緊匵をほぐすように高朚は䞀息぀いおからナナハンを車の赀いテヌルランプが流れる道路に乗り入れた。

真倜䞭のバトル
 斉藀くんのタンデムに乗り慣れおいるので亜子さんは、高朚の運転にスムヌズに合わせおくれた。しかし、ブレヌキをかけるず、胞の膚らみが觊れる。高朚は気になっおしょうがない、ちょっず嬉しいが、集䞭、集䞭、女の子を乗せお事故ったら倧倉だ。

「ねぇ!  奥倚摩の幜霊バむクの噂だけど知っおいる」颚の音にたけないくらい倧きな声で亜子さんが高朚に話かけおきた。
「知っおいるよ、埌ろに女を乗せたバむクの幜霊だろう」
「芋たこずある」
「ないよ、だっお芋た奎はみんな事故る。斉藀くんのゞンクスず同じだよ」
「斉藀のゞンクスっお、あい぀そんなに凄いの」
「たヌね」

その時、高朚のミラヌに嫌なものが写った。それは倧型バむクで、激しいロヌリングを道路で繰り返しおいる。

亜子さん


いいなず思ったら応揎しよう