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銅は足りている、なのに18ヶ月で51%上がった ― 価格を動かす本当の動因

銅が高い。2026年7月21日、COMEX銅は一時1ポンド6.48ドルと5週間ぶりの高値をつけ、銅大手サザン・カッパー(SCCO)は1営業日で7%超上げた。この上昇の理由として、見出しで最もよく持ち出されるのが「供給不足」だ。

だが、実測データはこの説明を裏切る。

国際銅研究会(ICSG)は毎月、世界の精錬銅の生産量と消費量の実測値を公表している。これを2025年1月から2026年6月まで18ヶ月並べると、需給バランス(生産マイナス消費)はゼロ近辺を往復しているだけだった。振れ幅が最大の月でも過剰・不足は±265千トン、月およそ2,400千トンの市場に対して1割強にすぎない。年間で見ても2025年は約47万トンの過剰、2026年の最新公式見通し(2026年4月改定)も9.6万トンの過剰である。不足ではない。

その同じ18ヶ月間に、LME現物銅は1トン8,988ドルから13,574ドルへ、51%上がった。

需給はほぼ均衡のまま横ばい、価格だけが一本調子で上昇した。この二つを同じ時間軸に重ねると、避けようのない事実が残る。銅価格は、月次の需給バランスでは動いていない。


【図】2025年1月〜2026年6月 世界精錬銅の需給バランス(棒)とLME銅価格(線)。濃い棒=ICSG公表値、薄い棒=算出・推定値。出典:ICSG Copper Bulletin、LME。

■ 「供給不足」という説明の出どころ

なぜ「不足だから上がる」が広まるのか。理由は二つある。

一つは、古い数字の使い回しだ。ICSGは2025年10月に「2026年は15万トンの不足」と見通した。ところが半年後の2026年4月、同じICSGがこれを9.6万トンの過剰へ反転させている。需要の伸びを2.1%から1.6%へ下方修正し、リサイクル由来の供給増を織り込んだためだ。それでも市場解説の多くは、いまだに半年前の「不足」を引用し続けている。

もう一つは、時間軸と場所の混同だ。「1年を通した過不足」と「今その場で銅が手に入るか」は別の問いである。実際、2026年は関税を避けようと銅が米国へ大量に運ばれ、ロンドンの在庫が枯れた。世界全体では足りていても、必要な場所から金属が消えれば現物は品薄になる。年間の帳尻が合うことと、足元で品薄になることは、矛盾なく同時に起きる。報道はこの二つをひとまとめに「不足」と呼ぶ。

■ 需給表が価格を説明しない理由

構造を見れば当然の帰結だ。

銅の生産も消費も、毎月およそ2,400千トンで動く。この二つはほぼ同じ大きさで並走する。過剰・不足と呼ばれるのは、その巨大な二つの差にすぎない。差は市場全体の1%にも満たない量で、しかも符号が月ごとに入れ替わる。実際、2026年4月は145千トンの不足、翌5月は18千トンの過剰と、隣り合う月で正負が反転している。

これほど小さく、これほど不安定な残差が、50%もの価格上昇を生むはずがない。価格を動かしている力は、需給表の外にある。

■ 銅価格を動かす五つの動因

では何が動かすのか。18ヶ月の値動きを説明する要因は、五つに整理できる。

第一に、ドルと金利だ。銅はドル建てで取引され、世界の景気動向を映す指標として買われる。ドル安と利下げ観測は銅を押し上げ、ドル高とタカ派の金融政策は抑える。2026年7月時点でFRBは利下げどころか利上げの可能性さえ市場に織り込ませており、これは銅にとって逆風だ。

第二に、関税だ。米国のセクション232関税を巡り、COMEXの銅はLMEに対して一時1トン500ドルを超えるプレミアムをつけた。同じ銅の値段が二つの取引所で大きく割れること自体が、需給ではなく通商政策が価格を作っている証拠だ。この歪みが相場全体を押し上げた。

第三に、取引所在庫の偏りだ。LME在庫は3月以来の低水準まで取り崩され、すぐに引き出せる分(キャンセル済み在庫)は4割超に達した。総量ではなく「使える在庫」が薄くなると、年間需給が均衡でも現物価格は跳ねる。

第四に、供給ショックだ。チリの生産は2026年3月に前年比9%減、インドネシアのグラスバーグ鉱山は約31万トン、パナマのコブレ・パナマは年約35万トンを失った。これらは需給の年間バランスを動かす前に、まず市場心理を動かす。

第五に、投機と中国だ。ヘッジファンドの買い越しは5月中旬時点で20週ぶりの高水準まで積み上がり、中国の輸入プレミアムは約1年ぶりの高さにある。足元の上昇の一部は現物の逼迫ではなく、関税裁定と投機ポジションが作っている。

■ 加工賃がゼロでも製錬所が回る理由 ― ほとんど知られていない裏側

ここで供給を二つの層に分けておく。地金になった精錬銅の需給と、その原料である鉱石(精鉱)の需給だ。前者はここまで見たとおりほぼ均衡だが、後者は極端に逼迫している。この鉱石の逼迫を最も生々しく映す数字が、製錬加工賃(TC/RC)だ。銅鉱石を地金へ加工する手間賃で、鉱山会社が製錬所に支払う。2025年の年間ベンチマークは1トン21.25ドルだったが、2026年はゼロで妥結した。年間交渉としては史上最低である。都度取引ではマイナス78.50ドルまで沈み、製錬所が鉱山に金を払って鉱石を引き取る事態まで起きている。

加工賃がゼロなら、製錬所は何で稼ぐのか。答えは、加工賃が製錬所の主な稼ぎではないという点にある。収入源は三つある。一つは加工賃。二つ目が副産物で、銅鉱石に混じる金と銀、そして製錬の過程で出る硫酸を売る。三つ目が回収益で、鉱山に支払う量より多く取り出せる銅の差分だ。2026年は金と銀が記録的な高値にあり、この副産物が加工賃の落ち込みを埋めている。だから製錬所は、加工賃ゼロという一見割に合わない条件を飲める。

それでも埋めきれない。中国の製錬所は2026年の減産を10%超で合意し、中国の業界団体はゼロやマイナスの加工賃に強く反対する姿勢を示した。採算割れが、現実に製錬所を追い込んでいる。

そして製錬所が減産すれば、地金の生産そのものが細る。鉱石の不足が、加工の段階を経て精錬銅の供給まで絞り込む。加工賃という一つの数字が、鉱山から地金までの逼迫を連鎖で映している。これは月次の需給表には表れない、価格を動かす現場の逼迫だ。

■ 需給表ではなく、この五つを見る

銅の値動きを読みたいなら、毎月の生産と消費の差を追っても徒労に終わる。18ヶ月の実データがそれを示している。

見るべきは、ドルと金利の向き、COMEXとLMEのプレミアムの拡大・縮小、取引所在庫の増減、鉱山の稼働、そして投機ポジションの傾きだ。この五つが、需給表よりはるかに正確に銅価格の圧力を映す。「供給不足だから上がる」の一言で片づけた瞬間、値動きの本当の駆動軸を見失う。

あなたが銅、あるいは銅関連株を保有・検討しているなら、その判断根拠が「年間の供給不足」なのか、それとも「足元の現物逼迫と、関税・在庫・投機」なのかを、一度言い分けてみてほしい。同じ「上がる」でも、根拠が違えば崩れる引き金も違う。

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本記事は特定の銘柄・商品の売買を推奨するものではありません。投資判断は自己責任で。数値は執筆時点で入手可能な実測値・公表値に基づきます。

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