映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』@銀座メゾンエルメス
私たちを苦しめる構造を変える革命
おなじみエルメスの無料映画。今回は、キューバ革命の原体験を描いた『モーターサイクル・ダイアリーズ』。
理学生のカストロと医学生のゲバラは、おんぼろバイク二人乗りで南米縦断の旅に出る。
口が上手く明るい三枚目のカストロと、真面目な二枚目のゲバラは医学の知識を活かして人の役に立ちつつ旅を続ける。
旅は楽しいだけでなく、南米のかかえる矛盾や問題点を目の当たりにする。
先進国に良いように使われる労働者、開拓者達による文化の破壊、思想や病気による差別…。
彼らは、これらの根底にあるのは先進国による南米の搾取構造だと気づき、やがてそれは革命へとつながる。
『オールド・オーク』でも『急に具合が悪くなる』でも描かれていた、構造を変えなきゃということ。
この時代から言われているたけれど変わっていないんですね。
そろそろ革命が起きてもおかしくないのかも。
チェ・ゲバラになる前のチェ・ゲバラー、それが『モーターサイクル・ダイアリーズ」にふさわしい調題かもしれない。本作で描かれるのは、キューバ革命のシンボルとなる以前の青年エルネスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナである。医学生のエルネストは、 親友アルベルトとともに「ボデローサ(怪力号)」という勇ましい名前とは裏腹のおんぼろバイクにまたがり、南米大陸を縦断する旅に出る。全行程1万キロを超えるこの旅が、後年のゲバラを形づくる原点となった。安定した未来を約束されていた青年が、この旅を境に、まったく異なる人生へと歩み始めるのである。
ロードムービーであり、青春の成長物語であり、政治的な省察でもある本作は、エルネスト自身の旅日記に記された「これは目覚ましい冒険譚ではない」という一文から始まる、その言葉どおり、ウォルター・サレス監督は淡々と旅の記録をつむいでいく。カメラは、南米大陸の雄大な風景とそこに生きるひとびとの多様性を讃え、同時に、彼らが置かれた苛酷な現実にも光をあてる。その現実は、エルネストの視線をとおして少しずつ浮びあがってくる。陽気でおしゃべりなアルベルトとは対照的に、 エルネストは寡黙で内省的な青年である。彼は多くを語らず、 ただ見つめる。もちろん、そのまなざしはサレス監督のまなざしでもある、劇中、エルネスト自身が撮影したかのように挿入されるモノクロ写真が、彼の静かなを表している。
エルネストは、社会によこたわる不正や格差を、ほとんど言葉を発することなく見つめつづける。その胸には、革命家チェ・ゲバラを導いた使命感がすでに芽生え始めていただろうか。しかし、 寡黙であっても無力であるとはかぎらない。エルネストは、生活に困って鉱山ではたらく夫婦にひとしれず手を差し伸べ、社会から隔離されたハンセン病患者たちに公然と歩みよる。その姿をとおして語られるのは、ウォルター・サレス監督が一貫して描いてきた世界観でもある、勇気とヒューマニズムこそが、人間を救い、その尊厳を取りもどす力になるという揺るぎない信念である。
映画のラストには、農民や労働者たちが身じろぎもせずにカメラを見つめる印象的なショットが映しだされる。彼らのまっすぐな視線は、スクリーンのこちら側にいる私たちに問いを投げかけているかのようだ。その映像は、本作のドキュメンタリー的な性格をいっそう際立たせる。そして最後に、この旅に関わった最後の生存者が画面にあらわれ、驚きと深い余韻をのこして作品は幕を閉じる。
アレキサンドル・ティケニス
(助川晃自・訳)
