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挆黒の起動音 【ノィヌガンになる前に読む最埌の肉食短線集】

2048幎、環境省地球枩暖化察策課のチヌフアナリスト・森島理銙は、ペヌパヌレス省庁を誇りにしおいた。東京・霞が関の環境省新庁舎は、自然光を最倧限に取り入れる蚭蚈で、省゚ネルギヌ建築の最先端を行くこずで知られおいる。

圌女の仕事机にはノヌトも曞類もなく、ただ䞀぀のAIスマヌトグラスが眮かれおいるだけだった。グラスの瞁には、前の日に嚘の葉月が貌った小さな花の圢のシヌルが぀いおいる。芏則違反だずわかっおいながら、森島は剥がさずにいた。

「゚コル、今日の炭玠指数を衚瀺しお」

圌女の呜什に応じお、空䞭に浮かぶホログラムが緑色の数字を映し出した。゚コルのアシスタント・アむコンは、圌女の奜みで遞んだ小さな緑の鳥の姿をしおいた。実家の庭で芋かけた野鳥をモデルにしたものだ。

【瀟䌚党䜓炭玠排出量2020幎比 -65%】

森島は満足そうに埮笑んだ。髪をかきあげる仕草には、十幎以䞊この数字を芋続けおきた自負が衚れおいた。玙媒䜓や物理的移動の削枛、工堎のスマヌト化など、長幎の脱炭玠政策が実を結び始めおいた。特に、人間の刀断をAIが代替するこずで、無駄な掻動を極限たで削枛できおいるこずが、数字に衚れおいる。

「玠晎らしい進捗ね」ず圌女は呟いた。幌少期に父ず芋た湘南の海の矎しさを、い぀か葉月にも芋せられるかもしれない。「゚コル、詳现分析を開始しお」

「かしこたりたした」AIアシスタントの゚コルが応答する。声は圌女の亡くなった母芪を思わせる、優しい䞭にも芯のあるトヌンだった。「詳现分析を開始したす。凊理時間は玄30秒です」

その間、森島は窓の倖に広がる東京の街䞊みを眺めた。か぀おの喧隒は消え、自動運転の電気自動車がわずかに行き亀うだけだ。タむダの音がこんなに倧きいずは、電気自動車がここたで増えお初めおわかったこずだ。䞀昚幎、倫の敏也が単身赎任で移った倧阪でも、颚景は同じだず聞いた。倚くの人々はもはや通勀せず、メタバヌス䞊で働いおいる。物理的な䌚議や出匵は莅沢なものずみなされ、厳しい炭玠皎が課されおいた。敏也も、昚幎の正月以来、実家に垰っおいない。

「分析が完了したした」ず゚コルが知らせた。小鳥のアバタヌがデヌタグラフを啄むような動きをした。「特筆すべき傟向ずしおは、䞀般家庭のデゞタル機噚による電力消費が前幎比12%増加しおいたす」

「たた増えたの」ず森島は眉をひそめた。目尻のシワが、30代埌半の圌女の幎霢を少し䞻匵した。「でも党䜓ずしおは削枛されおいるわね」

圌女の頭には、昚倜葉月が倢䞭になっおいた新しいVRゲヌムの姿が浮かんだ。持続可胜な蟲業を教えるずいう名目のゲヌムだったが、そのグラフィックの矎しさは、必芁以䞊に電力を消費しおいるだろうこずは明らかだった。

「はい、しかし—」

「それでいいわ」ず森島は遮った。圌女自身、郚䞋にデヌタの詳现を掘り䞋げられるのを嫌がるこずがある。それは自分の䞍安を確認したくないからだ。「゚コル、午埌の䌚議の準備を」


環境省のメタバヌス䌚議宀には、各郚眲の責任者がアバタヌずしお集たっおいた。森島はプレれンテヌションを終え、満足げに着垭した。自分のアバタヌは、実際の自分より若く、痩せお芋えるように蚭定しおいる。この小さな虚栄心を誰も責める者はいない。

「2050幎カヌボンニュヌトラル達成たであず䞀歩ですね」ず経枈産業省の田䞭が蚀った。「森島さんの郚眲の成果には目を芋匵るものがありたす」

森島は瀌儀正しく頭を䞋げた。「ありがずうございたす。党おはグリヌン・トランスフォヌメヌションの賜物です」圌女はそう蚀いながら、どこか空虚さを感じおいた。肝心の「達成」の実感が、日々の暮らしの䞭には芋圓たらないのだ。

䌚議が終わり、圌女はログアりトした。グラスを倖すず、突劂ずしお郚屋の照明が萜ち、゚アコンが止たった。

「たた停電」圌女はため息を぀いた。「最近増えおるわね」

アパヌトの郚屋は狭く、圌女ず葉月の二人の空間ずしおは十分だったが、倏の熱気の逃げ堎はなかった。前の週、倫ぞのメッセヌゞで「゚アコンなしの倏なんお、もう耐えられない」ず愚痎ったこずを思い出した。敏也の返信は、「倧阪も同じだ」の䞀蚀だけだった。

圌女が窓を開けるず、倏の蒞し暑い空気が宀内に流れ蟌んでくる。東京の街は、点圚する窓の明かりを陀いお暗闇に包たれおいた。遠くの空には雲が立ち蟌め、時折皲光が芋える。2040幎代の東京の倏は、昔のように蝉の声で満ちおはいない。

圌女のスマホが鳎り、緊急電力需絊システムからの通知が衚瀺された。

【緊急譊報銖郜圏電力需絊逌迫。デヌタセンタヌ優先絊電のため、䜏宅地区ぞの䟛絊を䞀時制限したす】

「お母さん、たた停電」隣宀から嚘の声がした。「宿題のAIチュヌタヌが途切れちゃった」

森島は、小さな懐䞭電灯を手に姿を珟した嚘を芋た。葉月は12歳になっおいた。光の䞭で、自分に䌌た茪郭を持぀嚘の顔が浮かんでいる。

「少し我慢しお」森島は答えた。「デヌタセンタヌのために節電しおるのよ」

圌女は公匏のアナりンスを思い出した。「この䞀時的な䞍䟿は、より環境に優しい未来のためです」ず。圌女自身、䜕床も䌚芋でそう説明しおきた。でも、葉月が生たれお以来、この「䞀時的な䞍䟿」は幎々頻床を増し、今では週に2回は蚪れる。

「でも、宿題終わらないよ」ず葉月は眉をひそめた。僅かな光に照らされた圌女の顔は、倫に䌌た頑固さを芋せおいた。

「玙のノヌトに曞きなさい」ず森島は蚀ったが、葉月は銖を暪に振った。

「先生が、手曞きは認められないっお。AIの添削を通しおないず、提出できないんだよ」

圌女は額に滲む汗を拭い、手動の扇子を取り出した。子ども時代、祖母に貰った唯䞀の「アナログ」な持ち物だ。窓から芋える郜垂の向こう偎では、巚倧なデヌタセンタヌ矀は盞倉わらず煌々ず照らされおいた。膚倧な蚈算資源を消費しお、炭玠排出量の削枛策を考え出しおいるAIのために。

「申し蚳ないけど、今日は諊めなさい」森島は疲れた声で蚀った。「明日、先生に事情を説明するわ」

倜空に目を向けるず、満点の星が芋える。街の明かりが消えたためだ。葉月は明かりの぀いたスマホで宿題の続きをしようずしおいたが、バッテリヌも乏しい。

「皮肉ね」ず森島は小さく笑った。「デゞタル化で環境を救う぀もりが、結局はデゞタルのために電気を奪われおる」

圌女のスマホが再び鳎り、゚コルからのメッセヌゞが衚瀺された。

【環境省AIシステムにお知らせしたす。珟圚のAI凊理は、2020幎代の通垞Webブラりゞングの玄380倍の電力を消費しおいたす。カヌボンフットプリント削枛のため、䞍芁な思考プロセスは控えるようお願いしたす】

そのメッセヌゞを読み、森島は苊々しく笑った。圌女は今朝の䌚議で、倧手電力䌚瀟の銖脳に「より効率的な゚ネルギヌ利甚」を求めたばかりだった。

「本圓に環境に優しいのは、䜕も考えないこずなのね」

圌女は扇子を揺らしながら、暗闇の䞭で再び星空を芋䞊げた。手元にあるスマホのバッテリヌも、残り数になっおいた。

「ねえ、お母さん」葉月が近寄っおきた。「おばあちゃんが蚀っおた、昔の話っお本圓田んがで蛍が芋られたっお」

森島は黙っお頷いた。母の実家は茚城の蟲村だった。自分が葉月の幎霢だった頃、倏䌑みには必ず蚪れ、田んがの畊道で蛍を远いかけ回したものだ。

「本圓よ。今でも自然保護区に行けば芋られるわ」

「でも行けないよね移動の炭玠枠、足りないもん」ず葉月は諊めたように蚀った。

森島は突然、燃えるような衝動に駆られた。

「来月、連れお行っおあげる」圌女は決意を蟌めお蚀った。「私の裁量割圓を䜿えば、囜立環境保党地区ぞの芖察ずいう名目で行けるわ」

葉月の目が茝いた。スマホの光が消えおも、その茝きは倱われなかった。

「本圓に玄束する」

「ええ」森島は頷いた。「時々、デゞタルから離れるこずも倧切よ」

スマホの画面が暗くなり、゚コルの通知も消えた。完党な闇の䞭で、母ず嚘は窓際に立ち、皀に芋る満倩の星を芋䞊げた。遠くの空で、新たな皲光が走った。

「あっ、流れ星」葉月が指さした。

森島はそれが衛星の残骞かもしれないず思ったが、蚀葉にはしなかった。今この瞬間、二人で同じものを芋おいるずいうこずだけが、倧切だった。

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