【戦後心理資格史①】心理職は臨床心理士から始まったわけではない
心理職は臨床心理士から始まったわけではない
心理資格について説明するとき、
「公認心理師と臨床心理士」という言い方を良く見かけます。
心理支援の専門家として活動している人は、この二つの資格のどちらか、
あるいは両方を持っていることが多いからです。
しかし、制度として見ると、この説明はあまり正確ではありません。
まず前提として、現在日本で心理職の国家資格として存在するのは
公認心理師のみです。
一方、「現行の」臨床心理士は民間団体が認定している資格です。
もちろん、臨床心理士は日本の心理職の歴史の中で重要な役割を果たしてきました。
国家資格が存在しなかった時代に、心理職の専門性を担保する仕組みとして作られた資格だからです。
しかし、このことから
「心理職=臨床心理士から始まった」
というイメージが広がってしまうと、心理職の歴史はかなり単純化されてしまいます。
実際には、日本において、心理職という仕事は
臨床心理士の制度よりも前から存在していました。
戦後まもなくから、教育・司法・福祉などの分野で、
人の心理や行動を専門的に扱う職種がすでに存在していました。
たとえば学校現場では、生徒指導や教育相談に関わる仕事があります。
また司法の分野では、家庭裁判所などで心理学の知識と技術をもって
調査や支援を行う専門職が配置されてきました。
福祉や医療の分野でも、心理的な問題を扱う専門的な役割は
早くから必要とされてきました。
つまり歴史の順序としては
心理職 → 資格制度 → 臨床心理士(民間資格)
という流れになります。
「臨床心理士が誕生したから心理職が生まれた」というわけではなく、
すでに存在していた心理職という仕事を背景に、
資格制度が整備されていったのです。
この点は、現在の心理資格をめぐる議論を考えるうえでも重要です。
心理資格の議論では、臨床心理士と公認心理師の関係が語られることが多いのですが、その議論だけでは、心理職という職業の歴史全体は見えてきません。
そもそも日本では、なぜ心理資格が必要とされるようになったのでしょうか。
そして、心理資格の制度はどのような経緯で作られてきたのでしょうか。
本シリーズでは、こうした点を整理するために、
戦後日本の心理資格制度の歴史を
順を追って見ていきたいと思います。
臨床心理士制度がどのように生まれたのか。
そして、その制度がどのような役割を果たしてきたのか。
心理資格をめぐる現在の議論を理解するためにも、
まずは制度の歴史を振り返るところから始めてみたいと思います。
次回は、戦後日本において
「心理職」という仕事がどのように位置づけられていたのかを見ていきます。
