初めて、赦された日
「大丈夫。私は、責めたりしません。」
その一言で、胸の奥にしまい込んでいた感情が大きく揺れた。何から話せばいいのか、どこまで話せばいいのかも分からない。
私は俯いたまま、しばらく黙っていた。部屋には静かな時間だけが流れる。
時計の針の音、窓の外で鳴く蝉。
シスターは何も言わなかった。ただ、私が口を開くのを待っていてくれた。
私は小さく息を吸った。
「……私。」
それだけ言った瞬間、涙があふれた。言葉にならない。何度も息を整えながら、少しずつ話し始めた。
子どもの頃のこと、家のこと、母のこと、父のこと
、学校のこと、家を飛び出したこと、風俗で働いていたこと…首を絞められ、病院へ運ばれたこと。
話している間、何度も涙で声が詰まった。
それでもシスターは、一度も私の言葉を遮らなかった。ただ、静かに耳を傾けてくれていた。
どれくらい話しただろう。気づけば、胸の奥に何年も積もっていたものを、私はすべて吐き出していた。
長い沈黙のあと、シスターはゆっくり口を開いた。
「苦しかったですね。」
その一言を聞いた瞬間、私は声をあげて泣いた。
「私は、あなたを赦しますよ。」
また涙があふれる。今まで何度も、自分の過去を思い出したことはあった。
でも、「あなたを赦しますよ。」そう言ってもらえたのは、生まれて初めてだった。
泣き続ける私を見て、シスターは椅子から立ち上がった。そして何も言わず、そっと私を抱きしめた。
子どもの頃から、誰かに抱きしめられた記憶はほとんどない。だから最初は、どうしていいか分からなかった。
けれど、温かな腕に包まれた瞬間、張りつめていた心が音を立てて崩れていく。
私は子どものように泣いた。泣いて、泣いて、泣き続けた。どれほど時間が経った頃だろう。シスターは私の肩に手を添え、静かに言った。
「いいんですよ、もう。そんなに自分を責めなくていいんです。あなたは前を向いて、生きてください。」
願うように、祈るように。その一言だけを、私に届けてくれた。私は声にならないまま、何度もうなずいた。
涙で滲む視界の向こうで、シスターは優しく微笑んでいた。その笑顔を見たときだった。
私は初めて、「生きていていいんだ」 そう思えた。
