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ブラック企業の話。

我が家はブラック企業だ。休みなどない。私も妻も朝の6時に叩き起こされる。昨日はプールに連れて行った。確かに女社長を満足させることはできなかった。彼女の口から「もう帰りたい」と言わせることをKPIに設定していたが、あえなく目標未達と終わったことに私は何の言い訳もできない。

社長業には土日などない。24時間365日朝から晩まで仕事のことばかりを考えている。昨日の失態を取り返せと言わんばかりに、今日もプールに連れて行けという指令が下った。

世を見渡すと筋トレが趣味の社長は多い。酒を飲まないことを信条に掲げている人もいる。社員は代えが効くが、社長が倒れてはならない。彼らにとって体力と健康は永遠のテーマである。そして、我が社の社長も例に漏れず体力モンスターだ。

私と妻は何時間寝ようが疲れが一切取れないのに、女社長は朝からトップギア。社員のことなど何も考えていない。経営手腕がワンマンすぎるといえばそれまでだが、創業間もないベンチャーというのは本来そういうものである。

一応役員である私と妻は臨時取締役会を経て、なんとか2日連続のプールは避けることができた。だが、社長からは当たり前だが「代案を出せ」と言われる始末。

社会人ならば当然だ。文句を言うだけならサルでもできる。ガキの使いではない。具体的な代替案を提示できてこそ意見をする権利があるというものだ。

我々は「こども館でのカップケーキ作り」というプレゼンをした。拍手の代わりに女社長の口角がフッと上がった。我々は心の中でガッツポーズを取った。

こども館はクーラーが効いている。屋外でないだけで万々歳だ。だが誤算があった。それはバスの時間だった。こども館での仕事は概ね順調だった。目的であったカップケーキも当初の計画である1個を大幅に上回る4個を生産し、女社長もホクホクだった。

ふと腕時計に目を落とした。14時39分。慌ててスマホでバスの時間を調べた。見落としていた日曜ダイヤ。会社までのバスは大幅に本数が少ない。次のバスは、14時42分発だった。

女社長が5個目のカップケーキに手を伸ばしている間に、我々はスマホで打ち合わせを開始した。次のバスまで1時間。既に我々の体力は限界に近かった。選択肢はいくつかあった。最右翼はスタバやゴンチャで茶をしばくこと。

だが、最近女社長はスタバのお子様ココアを飲みすぎて辟易しているのと、直前にたらふく食べた昼食のせいで我々のおなかは限界までチャポチャポだった。

結果、他社の社長連中が遊んでいる公園チックなところで女社長を放牧し、時間を潰すことにした。しかし、これが大きな間違いだった。最も陽の高い時間帯。灼熱は我々のライフポイントを容赦なく削ってくる。だが、体力お化けの女社長にはそんなこと一切関係ない。

ヘトヘトになりながら、我々はようやく会社に向かうバスに乗り込んだ。そして意識をロストした。気づけば30分が経過していた。疲れ果てていたのだろう。女社長も眠っていた。そして起きた瞬間に口を開いた。

「帰ったらさ!さっき借りた本ぜんぶよんで!!」

本は全部で15冊。しかも、その中にはなぜかフランス語で書かれたレオ・レオニのものもある。

やはり社長業はすごい。いかなる時にも自己研鑽を忘れない。やっとのことで終業時間を迎えた。たった30分の睡眠で一日分の体力を回復したのだろう。仕事のことで頭がいっぱいでなかなか眠ることができなかったらしい。

死力を尽くし、日曜日を終えた我々を称賛するものはいない。ひとり楽しみにしていたプレモルのプルタブを引っ張って明日の仕事の準備を開始する。

明日も女社長は朝6時に出勤をしてくる。
社畜も案外悪くない。そう思わないとやってられない。


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