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フィルムで歩く、ホテルニューアカオ|海にせり出した昭和の夢。

日本にはかつてバブルという時代があったという。

98年生まれの僕にはあまりに現実味が無いファンタジーなのだが、日本各地にその時代の「痕跡」が残されていることから、それは実際に起ったことなのだろうと推測できる。

今回行ったホテルニューアカオも、その「痕跡」の一つだ。


ホテルニューアカオ

熱海駅へは東京から新幹線で40分ほど。駅からはシャトルバスが出ている。実は東京から1時間ほどで行けてしまう。

海が見下ろせる高所の道を10分ほど走ると、崖をくり抜いて造った古いトンネルに到着する。車がすれ違うことのできない一車線のトンネル。

ドライバーは前方から車が来ていないことを確認すると、思い切ってアクセルを踏み込みトンネルをくぐり抜ける。別世界へ行くための定められた儀式みたいにそれは行われた。

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トンネル横の古い看板には「ロングボディの車はこのトンネルを通れない」とある。松本隆が書きそうなシティポップの歌詞みたいな響きだなと思った。涼し気なデッキチェアー。1ダースもいるガールフレンド。


ロビー

トンネルの向こうには、海に突き出す、見覚えのある豪華建築が建っている。

Nikon F100 + Portra 400


鮮やかすぎる絨毯とシャンデリアに彩られたロビー。早い時間に着いたのでまだ宿泊客は多くない。

Nikon F100 + Portra 400
Nikon F100 + Portra 400


チェックインをするとき、受付のお姉さんがテキパキと館内の説明をしてくれた。3つの温泉施設に2つのラウンジ、プール、庭園、バーなどなど。
施設が大きく、すぐに全容を把握することは不可能に近いと思う。お姉さんの口調にもどことなくそんなニュアンスが含まれていた。


ニューアカオの全貌

建物の下階に客室がある。

泊まったのは5階。窓辺に広縁がある、馴染みのある造りの部屋。

Nikon F100 + Portra 400


でも、外には意外な光景が広がっている。
窓を開けると波音の轟音が部屋を包む。この日は少し雲行きが怪しく、波はいつこちらを襲おうか見定めているみたいに荒々しかった。

Nikon F100 + Portra 400


こちらは清掃中でドアが開け放たれていた向かいの部屋。シティビュー。

Nikon F100 + Portra 400


荷物を置き、ロビーの一つ下の階にある「サロン・ド・錦鱗」に行く。

Nikon F100 + Portra 400


海を一望できるダンスホールのような場所。ダイナミックさと軽薄さが不思議と共存している、いかにもバブル的な空間だ。

Nikon F100 + Portra 400
Nikon F100 + Portra 400
Nikon F100 + Portra 400


すぐ近くの調理場。夕食の準備が進んでいるが、なぜか誰もいなかった。

Nikon F100 + Portra 400


ブュッフェ会場がある一番下階に行ってみる。デヴィッド・リンチのような色彩感覚。

Nikon F100 + Marix 800T


この窓の向こうはすぐ海。水しぶきが窓を打ち付けていて、船の窓を眺めているみたいだった。

Nikon F100 + Portra 400
Nikon F100 + Marix 800T


温泉へと続く通路からは外に出ることができる。波によって舞い上がった海水がミストのように漂っていて寒々しかった。
これは建物の基礎。「数万本のピアノ線を地面に固定させた」という説明に、着工当時のモノクロ写真が添えられていた。

Nikon F100 + Marix 800T

僕にとってバブル時代というのは、人間の自然に対する挑戦みたいなものが活発に行われた時代、というイメージがある。各所で行われたダムや人工島の建設、アクアラインなんかはわかり易い例だけど、この「ホテルニューアカオ」にもそれらに通づる物があると思う。

そして、日本がかつて好景気だった事がおとぎ話のように感じられる今、これらの老朽化したインフラは財政を圧迫している。人間の挑戦は、意外な形で敗北を迎えた。

ちなみにここ「ホテルニューアカオ」でも、2018年に高波がブュッフェ会場の窓を突き破る事故が起き、その後の経営不振も重なって2021年の営業終了へとつながる。海に向かって高々とその名を誇示する「ニューアカオ」の看板に、僕は哀愁を感じずにはいられなかった。

Nikon F100 + Marix 800T




建物内の豪華絢爛な様式美に少し疲れてきたので、海風に当たりながら外を散歩することに。ここはロビーのドアを出てすぐの場所。

Nikon F100 + Portra 400
Nikon F100 + Portra 400


見下ろすと中空庭園がある。この下のガラス張りの空間がブュッフェ会場だ。

Nikon F100 + Portra 400


中空庭園に。すぐ隣では、相変わらず海が唸り声を上げている。

Nikon F100 + Portra 400


曇りの日の海は、どことなく不穏な意思を持っているように感じる。波しぶきが足元に落ちると、そのまま足首を掴まれて引きずり込まれそうな気がする。

Nikon F100 + Portra 400


ホライゾン・ウイング

ニューアカオには「ホライゾン・ウイング」という別館がある。こちらは比較的新しい建物で、本館の重厚な雰囲気とは少し違うテイスト。

Nikon F100 + Portra 400


昭和の建物は懐かしいというよりも、むしろ新しく感じてしまう。平成生まれの僕としては、こちらのほうが懐かしい感じがした。

Nikon F100 + Portra 400
Nikon F100 + Portra 400


ウェルカムドリンクが飲めるロイヤルラウンジ。本館と比べると、比較的ピースフルな雰囲気。

Nikon F100 + Portra 400
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夜のニューアカオ

ブュッフェ会場へは薄暗いトンネルのような通路を通って行く。

Nikon F100 + Marix 800T


会場。花柄の絨毯と真っ赤な椅子で統一されている。映画「スカーフェイス」とかに出てきそうな、昭和のクラブっぽい雰囲気。

Nikon F100 + Marix 800T
Nikon F100 + Marix 800T
Nikon F100 + Marix 800T


水族館の水槽のように大きな窓から外を眺めると、やはりそこには海がある。このホテルではどこに行っても波の轟音が後をついて回る。

Nikon F100 + Marix 800T


食事の内容自体は一般的なホテルのバイキングだった。

Nikon F100 + Marix 800T
Nikon F100 + Marix 800T


部屋に戻るついでに、もう一度館内を歩いてみた。

かつてはダンスホールとして利用されていた「サロン・ド・錦鱗」は、知らない宿泊客同士がホールで踊る文化が失われてしまった今、人もおらずポツンと開放されていた。豪華な内装が余計に寂しさを強調している。

Nikon F100 + Marix 800T
Nikon F100 + Marix 800T


夜のニューアカオは静かで、遠くからは波の音が聞こえる気がした。

Nikon F100 + Marix 800T
Nikon F100 + Marix 800T


ニューアカオでの一日は不思議な体験だった。

僕はなぜか、このホテルがまだレトロと呼ばれなかった時代の人々の事を思った。ここには僕たちが入れない秘密の空間があって、彼らは豪華絢爛なパーティーを毎夜繰り広げているのではないか。

あの時代に日本人が信じていた「豊かさ」の残響が、この場所には間違いなく留まっている。
その夢にあっけない終わりが来ることなど、彼らはまだ知る由もない。

80年代のパンフレットより。
24時間営業のディスコ「MUGEN」


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