映画 『アイム・ノット・ゼア』
承認欲求と孤高の狭間
歌手ボブ・ディランの半生を、クリスチャン・ベール、ケイト・ブランシェット、マーカス・カール・フランクリン、リチャード・ギア、ヒース・レジャー、ベン・ウィショーという6人の俳優が演じる伝記映画。

子供の頃、売れ始めた頃、時代の代弁者としてアイコンになった頃。ボブ・ディランのあらゆる側面を、異なる俳優たちに演じさせている。私にとっては初めて見る手法で、ひとりの人間を描くというより、切り取られたボブ・ディランの断面を次々に見せられているようだった。幸い、私はボブ・ディランをうっすらとしか知らないので、この大胆な描き方を素直に受け入れられたのだと思う。

ケイト・ブランシェットが演じるのは、私が見聞きしてきた時代のボブ・ディランだ。本人に似せること以上に、本人から生々しい匂いを取り去った「アイコンとしてのディラン」を創造するうえで、彼女は最適だったのだと思う。クリスチャン・ベールの演じた人物像も、おそらく実際のディランに近かったのではないだろうか。

映画では、アメリカの歴史とともに彼の詩が語られていく。歴史というサイドラインが付随しなければ、その人物も詩も語りきれない。そこまで含めて、ボブ・ディラン的なのかもしれない。
