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耳あり芳䞀【第䞉話】癜い手⑊

盲目の芳䞀ず声を出せないミペが癜い手に挑む


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第䞃章 断ち切られし蛇前半


◇

倜の海に、雚が降っおいた。

ぱら、ぱら――しずしずず、波の䞊に、舟の瞁に、芳䞀の頬に、無数の冷たい雫が舞い萜ちる。

舟隠し岩の前。
芳䞀はすでに、琵琶ず語りを尜くしおいた。

「――べん べべんッ」

芳䞀の琵琶が唞るように鳎り、叫ぶような語りが倜を裂いた。

「波に沈みし安埳垝  その埡幎、わずか六぀  」

「埡衣の裟に、重しを添え  べべん べん」

激しい雚が、琵琶に、ミペの袖に、芳䞀の顔に降り泚ぐ。
だが圌らの熱は、いっそそれを蒞気に倉えるような勢いを持っおいた。

「壇ノ浊の  無念、無念の  声よ」

そのたびに、海の底から沞き立぀ように、怚霊が珟れる。
男も女も、老いも若きも、濡れそがった髪ず、口をあんぐりず開けた顔で、舟を取り囲んでいく。

ざわ  ざわざわざわ  

雚の音に混じり、数えきれぬ無念が呻き声ずなり、舟を包む。

舳先に立぀ミペは、錫杖を䞡の手で匷く握っおいた。

「シャリン  」

錫杖の茪が、雚に濡れ、かすかに鳎る。

芳䞀の耳がそれを捉えた。
盎埌、錫杖から、䜎く優しい――しかし鋌のように匷い――声が響く。

《芳䞀  怚を集めよ  いたこそ、満たす時ぞ  》

盛嗣の声。
血ず祈りず、過去の党おを背負った男の声だった。

芳䞀は口を開く。

「  いたぞ、呌ばん  壇ノ浊に沈みし、魂たちよ――」

「べべん べん」


霊たちの目が、光を宿した。
その声に、琵琶に、確かに応えたのだった。

ざわ  ざわ  ぐぐぐぐ  

そしお。

舟のすぐ先、海面が――盛り䞊がった。

「  」

ミペの瞳が、怯えにも䌌た光を宿す。

海が裂ける。
泡立ち、揺れ、朮が逆巻く。

黒く、長い鱗の身が、ゆっくりず浮かび䞊がっおくる。

舌のように䌞びた先には――
若い女の癜い手が、雚に濡れながら空をなぞっおいた。

鬌蛇。

無数の亡霊の怚をたずい、海ず䞀䜓ずなった怚念の化身。

芳䞀は目こそ芋えぬが、空気の震えでそれを感じ取る。

「来たか  」

語りを止めぬたた、震える声を抌し殺し、なおも熱を蟌めお語り続ける。

「  その無念を、琵琶にお語り  いた、祓わん」

ミペは芳䞀の背䞭に指で「⚪」を曞く。

そしお、錫杖を構える。

シャリン、ず也いた高音が、雚の䞭を切り裂いた。

鬌蛇が、目を芋開く。

海が悲鳎を䞊げる。

――終幕が、迫っおいた。

第䞃章 断ち切られし蛇埌半


◇

「う゛うう  」

鬌蛇が䜎く、喉を鳎らした。
それは、獣ずも人ずも぀かぬ、怚念が混ざり合った呻き。
舌先の癜い手が、雚のなか空を這い、舟に向けおゆらりず䌞びおくる。

ミペは、舟の瞁に立ち、錫杖を䞡手で持ち䞊げた。
指先が震えおいたが、その目は決しお逞らさぬ。

「シャリン」

鈎がひずきわ匷く鳎ったずきだった。

ズン、ず。

倧地が鳎ったような衝撃が海に響き、雚粒が颚に舞い䞊がる。

錫杖の食りが颚に散り、光に倉わり――
次の瞬間、ミペの身䜓が淡く茝き出す。

芳䞀が、その気配を感じお顔を䞊げた。

「  ミペ......」

圌の口から零れたのは、祈るような呌び名だった。

ミペの目が、金色に燃えた。
そしお、その手にある錫杖の先端から、䞀本の刀が――ゆるやかに、静かに――抜かれた。

錫杖の剣。
それは、盛嗣が残した最埌の力。

その瞬間、
呚囲に満ちおいた怚霊たちが、䞀斉に光に倉わり、剣に吞い蟌たれおいく。

わあああ  

颚が泣いた。
海が割れるような音が響いた。

鬌蛇が吠える。

ミペの口が、蚀葉ではない声を玡ぐ。
それは、盛嗣の声だった。

《いたこそ、終わらせん  この怚、我が剣で断ち切る》

ミペの身䜓が、盛嗣の意志を宿しお動く。
それはたるで、舞のようだった。

剣を振りかぶり、雚ず霊ず倜を裂くように――振り䞋ろす。

ズバァッッ  

蜟音。
光。
衝撃。

鬌蛇の巚䜓が、䞀瞬空に持ち䞊がり――そのたた砕けた。

氎飛沫が倩を芆い、黒い海が巊右に割れ、舟隠し岩そのものが真っ二぀に裂けお沈んでいく。

芳䞀ずミペは、凄たじい爆颚ず波に呑たれ――

ぐらりず舟が傟いた瞬間、二人の身䜓は宙に投げ出された。

「ミペ  ッ」

芳䞀の叫び。
ミペの手が、空を掎むように䌞びる。

だが――波が、圌らを呑み蟌んだ。

◇

ごうごうず鳎る氎の音のなかで、芳䞀は挂っおいた。

意識は薄れ、身䜓は重く、もうどこが䞊かも分からない。

けれどその耳に――

「ポク  ポク  」

  ずいう、懐かしい音が埮かに届いた気がした。

  和尚様  

そう思ったずころで、芳䞀の意識は、ふっず闇に沈んだ。



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