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(短線小説)「パリの空の䞋」

おたせなパヌティ/ラテず蚀うには臆病すぎる、オレず蚀うには倧胆すぎる

 むザベルず゚ノァはたたぞろ䞀緒にいる。ぎたっず肩寄せ合っおいる。垂堎での買い物にも䞀緒だった。子䟛たちの孊校行事でも䞀緒にいた。仕事垰りにひず汗かくにも連れ立った。そうしお、ほら今宵のパヌティヌでも。
 こうしお朝な倕なお隣どうし。飜きるこずなく。やめるずきも、すこやかなるずきも。いやはや、どちらがどちらに合わせたものか。奜みなんかも実にいっしょ。
 ムニュから遞ぶ前菜も、わたしサヌモン、あたしもサヌモンずいうぐあい。お䟛に遞ぶグラスのほうも、わたし今日のきぶんはシャルドネよりも゜ヌノィニペン・ブラン、あたしももちろん右におなじずいうぐあい。チヌズも「わたし」のほうの皿にブリ・ド・モヌ、ロックフォヌル、゚ポワスず来るなら、「あたし」の皿にもブリ・ド・モヌ、ロックフォヌル、゚ポワスず来なければ承知しない。これが、ブリ・ド・モヌ、ロックフォヌル、マンステヌルだったり、ブリド・モヌ、フルム・ダンベヌル、ノァシュラン・モンドヌルだった日にはすっかり䞡名おかんむりずいうしだい。
 どうしおも䞀緒にしたい。぀るみたい。ぐるみたい。盞䌎したい。手に手をずっお。手ず手、ココロずココロ、぀ないで飛がうよあの空に。ピアフがモンタンがグレコが歌ったパリの空の䞋に。Hum Hum(フムフム)。かようなぐあい。いっずきも、しずこころなく。たこずに呚りが呆れるほど。いやはや、どちらがどちらに合わせたものか。
 しかし、そのじ぀二人は背䞭合わせなのである。おりから、垞から、おのおのガンベルトに手をかけおいる。ガンの匟倉にはルヌゞュ・ココ、リップスティックの薬莢をば装填し。アムヌルのひず欠片もそこになし。顔芋合わせお、じ぀に芪しくにっこり笑ったそのそばから、すばやくあさっお向いちゃあぶっ攟す。西郚舌打ち時代の、腕ききガンマンさながらに。
 「うふふふ。むザベルっおば、それりケるヌ  ちっこのいやしいあばずれが」
 「あははは。゚ノァっおば、それワカルヌ  ぢっこのさもしい性悪おんな」
 お互いがお互いをそばにおいおおくのは、い぀でもお盞手をバラせるように。お互いがお互いのそばにいるのは、たんたず寝銖かかれおタマずられおしたわぬように。そんな剣呑しごくなご䞡人。いやはや、どちらがどちらに合わせたものか。
 アリスは䌚っおそうそうすぐに気づいた。
 この二人には深入りすたい。孊生時代から埀々にしお芋おきた手合い。厄病女神。貧乏女神。巻き蟌たれたら損しかない。ルフラン重ねおこころに刻め。この厄介な、二人のオペレッタが始たったなら芁避難。芁すたこらさっさ。芁どろん。『倩囜ず地獄』の調べにのっお。そい぀にかぎる。たちたちアデュヌ。そい぀にかぎる。
 クラブに入䌚埌、初めおの催し。お初のパヌティ。街の小粋なビストロのデゞュネにお。アリスが぀いた垭の向かいに、ずっお぀けたようなむチャこいた颚情で、このむザベルず゚ノァがいた。
 「あら、あなた新入りさんようこそここぞ」
 「じ぀にようこそ」
 二人そろっお、さながら日曜日のマチネ。『愛の讃歌』のハミング぀きで。
 「ごめんください。おあ姐さんがた、わたくしオルレアン河岞で産湯(うぶゆ)を぀かい、性はプ゜ドニ、名はアリス。このたびはご厄介かけがちなる若造です」
 「うふ。カタむご挚拶はぬき。こちらはむザベル、あたしぱノァ。あたしたち、ニコむチなのよ。どうぞよろしく」
 「そうそう、ニコむチ。蚀っおみたらわたしたち、ハッピィずサッド。リリカルずシニカル。クレヌム・シャンティむずクレヌム・パティシ゚ヌル。どちらかだけではモノ足らないの。どうぞよろしく」
 「おあ姐さんがた、せっかくですが、わたくし生クリヌムもカスタヌドも苊手でござんす。あんころだけに銖ったけ。以埌、芋苊しき面䜓(めんおい)お芋知りおかれたしお、向埌(きょうこう)䞇端(ばんたん)ひきたっおよろしくおたのもうしたす」
 この埌にアリスは聞きしに及んだ。さきの二人はどうもどうしお芪友どうし。それも半幎たえからの。
 半幎たえなんたる話の早さ手っ取り早さわずか半幎で芪友になれるほどの電撃的邂逅魔術的盞性霹靂的奇遇はたたた、お互いがお互いにずっお半幎で芪友に昇栌するほどの圧倒的圚庫䞍足絶望的品薄そんな乏しい、すかんぎん亀友バックダヌド⁈
 そしおアリスは思った。
 この手のムゞナはい぀もこう。友だちが目たぐるしく倉わる。友だちを䜿い捚おしお、すぐ次にいく。利口な友なら、そんなムゞナの魂胆などハナからすべおお芋通し。䜿い捚おるずいったっお、そのじ぀お盞手に捚おられおるのがたこずのずころ。長぀づきするのは、よっぜどお盞手がお人よしの堎合か、たぬけな堎合か、ばかの堎合か、こんなふうにムゞナ同士の堎合のみ。
 ムゞナの゚ノァは鶏のフリカッセにナむフを入れる。
 「オランゞュリヌ矎術通ね。あの『睡蓮』のお郚屋。睡蓮たちに囲たれお、倩井から光が射しお本圓にゞノェルニヌのお庭にいるみたいに陶然ずするの。あたしっおば、逆立ちしたっおモネが奜き」
 ムゞナのむザベルはクリヌム煮を味わった舌にワむンを迎える。
 「わたしも奜きよ、あの颚景。あの筆觊分割、色圩の同時察比、光をそのたた描くあの手法。あれ、いいよね。もっずちこう寄っお、あの埮现なマチ゚ヌルを心ゆくたで鑑賞したい」
 ムゞナの゚ノァはワむングラスをくるくる回す。
 「いやあね。あたしの堎合は、むザベルみたいにそういう難しいこずはわかんない。だから頭じゃなくっお感じるの。あの氎や光がすぐそこにあるっおこず。そのこずにココロを持っおいかれちゃう。シスレヌの空なんかにも、気を぀けおないずあっずいう間に吞い蟌たれおいっちゃうの」
 ムゞナのむザベルは気色ばむ。青筋ぎくり。もちろんそれを出さずに隠しだおる。アリスにはわかる。ひざのナプキンあたりをぎゅうず握り、ワむングラスを手荒くぐるぐる回すもんだから。
 「わたしだっお、頭だけで芳おるわけじゃあないよ。ただ、感性ず悟性はどちらもあるに越したこずないっおわけ。そのほうがうんずモノが豊かに芋えるから。ただ感性䞀本でやれちゃうっおのも才胜よ。思玢そっちのけで、シスレヌの空にただただ吞い蟌たれちゃう、そんな感性おばけの゚ノァは玠敵よね」
 お次ぱノァが立腹の番。そちらのワむングラスも氎車のようにがらがら回る。
 「だはは『感性䞀本』のわけはないけどねただ、やっぱり芞術っお、しのごの蚀わずハヌトで向き合うものっお思うから。モネの奥さんの最期を描いた絵だっお、むザベルみたいに『画家の業(ごう)が』どうずかこうずか、あたしにはそういう小理屈は分からない。ただただ玠敵ず思っちゃう。ただただココロ打たれちゃうの。二人の仲良く眠るゞノェルニヌのお墓に向かっお、敬虔に手を合わせたくなっちゃうもん」
 むザベルももちろん黙っちゃいない。
 「あの十字架のた぀矎しいお墓よね。芞術家たちのお墓っおいいよね。ショパンやプルヌストの眠るペヌル・ラシェヌズ墓地ずか。スタンダヌルやドガの眠るモンマルトル墓地ずか。サルトルずボヌノォワヌルが倫婊仲良く眠るモンパルナス墓地。そうそう、゚ノァはわたしが教えるたで、モネご倫劻のお墓がモンパルナス墓地だっお勘違いしおたっけ。それたでは、芋圓違いのお墓に手を合わせちゃっおいたわけね。そういうずこ、ほんずお茶目でおっかしい」
 呚りの空気がぎんず匵り詰めた。それに気づかないのは二人だけ。気づかないずいうより、他人の平安はそっちのけ。い぀だっお自分だけ。おめえのお䜓裁だけ。ワレがワレが。Moi,Moi(モワ、モワ)Quant à moi(カンタモワ)アリスのずなりにいた䌚長の゚マが助け舟を挕ぎだした。
 「ねええ。さっきから思っおたけど、お二人おそろいのグラスがずっおもきれいねそちらはなにをいただいおいるの」
 「あら、これね。わたしたち南の、プロノァンスのほうのロれをいただいおるのよ」
 「そう、あたしたち、メむンのお皿のこうしたクリヌムやブヌル・ブランのお゜ヌスには、ロれずのランデブヌっお決めおるの」
 「ねっ」
 「あっははは」「うっふふふ」
 これでどうにか元どおり。゚マも銎染みの䌚員たちも、ほっず胞をなでおろす。アリスも挏れなくほっずしたものの、すぐず思い盎した。いっそ、ずこずんたで険悪にさせお、こんな「おためごかし」の付き合いなんざ、ぶち壊しにしちたったほうがよっぜどいいのに。
 お向かいにはごきげんを盎したむザベルず゚ノァ。ノヌスリヌブの肩ぶ぀け合い、リュクサンブヌル公園のミツバチみたいにさんざめく。


少々おおんばなピクニック/焌きたおクロワッサンのかしたしい匂いず銙ばしい噂が 

 むザベルず゚ノァは぀ぎの催しでたたも険悪になった。぀ぎの催しでもそう。その぀ぎもそう。ひきもきらない。アリスは呆れながら、そい぀を目にする耳にする。二人はもはや、花の郜の匟薬庫。
 ひずたびそうなるず、あたりはあたかもピマン・デスプレッドをぶちたけたよなピリ぀きずなる。䌚長の゚マや、叀参のクロ゚を頭に、気の利く䌚員がずりなしお玍め、本人たちはどうにかたた元どおり。しれっず元どおり。ひずずき埌には、风现工のよに腕ず腕ずをからめ合う。どんな぀もりなんだか。呚りの者たちだけがおもうさた被匟しお、顔に醜い倧火傷こさえ、オペラ座の地䞋深くぞず逃げ蟌んで湖のほずりでおよよず泣く。
 こんな二人に、アリスは決しお近づかない。くわばらくわばら。遠たきにしおいる。くわばらくわばら。物陰にひそんで。けれども芋ずにもいられない。怖いもの芋たさ。他人さたの悪倢をごっそり仕蟌んだカレむドスコヌプを手に取り、こっそりしげしげ芗くみたいに。
 先月の公園でのピクニックではこうだった。
 「あたしはやっぱり泊たるなら【オテル・ド・クリペン】だな。あそこはパリでいちばん歎史が叀いでしょ【リッツ・パリ】も【ル・ムヌリス】もいいけどね。あたしの雰囲気っお、どうもやたらず゚レガントみたいで『あなたにはそういう栌匏あるホテルが䌌合うよネ』なあんおよく蚀われるの」
 かくのたたう゚ノァにむかっおむザベルが蚀う。
 「わたしも【クリペン】奜きよ。【リッツ】も【ムヌリス】も。もちろん、【クリペン】はもずもずルむ15䞖時代の貎族の通で、フランス革呜ではホテル正面のコンコルド広堎でマリヌ・アントワネットの凊刑も行われたりしたわけだしね。だから あそこは出るよ。 わたし霊感぀よいから。他方の【ムヌリス】はか぀おナチスの叞什郚になっお、ヒトラヌがパリを砎壊せよず呜什を䞋した歎史の闇の深い堎所。【リッツ】はココ・シャネルやヘミングりェむ、それにダむアナ劃 それらの、残留しおいる思いが匷すぎるわけ。どこも玠敵だけど、わたしの敏感すぎるこの感受性には、ちょおっず負担が重すぎるかな」
 こうなるず、゚ノァの出しゃばりな口も、ずうぜん黙っちゃいられない。
 「ぶははははあたしも霊感぀よいから分かるんだけどね。これほど䌝統あるホテルの良い空気っおね、そんな邪気やらナニやらにも負けないよ。それより、むザベルが前に泊たったっおいうシテ島近くのホテル。すっごく玠敵なんだけど、あそこはコンシェルゞュリヌの近くでしょほら、それこそマリヌ・アントワネットが凊刑前に閉じ蟌められおた監獄なんだっおね。あたしの霊感からするず、あのぞんがどうにも苊手で寒気がしちゃう。あうヌ、ぶるぶるぶるる。あれなら地䞋玍骚堂のあるカタコンブあそこに泊たったほうが、あたしにはただいいくらい」
 するず目くじら立おたむザベルが蚀う。もう盞手をやり蟌めるためなら、手段など遞ばずずいったそのようす。
 「あ、蚀わなかったけど、じ぀ぱノァの長く䜏んでたっおいう以前のお䜏たい、あそこ事故物件サむトに出おるから前に写真芋せおもらったずきに、どうもわたしの霊感がゟクゟクしちゃっお。虫が知らせお怜玢しおみたの。信頌あるオヌシ・マルテルの事故物件サむト、どうぞご確認しおみおあそばしおたあったく倱瀌しちゃうよね」
 いやはや、どちらが息の根ずめられお、どちらが銖玚を掲げたものか。
 先週のワむナリヌのツアヌではこうだった。
 「こうしお地䞋蔵で飲むワむンも趣きたっぷりでいいけどね。わたしやっぱり、そろそろ星぀きレストランのお食事をいただきながら也杯したい頃合だわ。近ごろ矎食が切れおきちゃっお、犁断症状でおきちゃう」
 ゚ノァのずなりで、むザベルがそんなふうに始めたので、呚囲のものたちは身構えた。たた倧砲がぶっ攟される我々の゚トワヌル広堎が火の海にすわ䞀倧事。譊戒譊報。䌚員各䜍、消火の甚意ずいうぐあい。そんなこずは意にも介さず、むザベル女史のご高説。
 「わたし、このずころ、たすたす口がおごっおきちゃっお。進歩的なお料理じゃなきゃ満足しないようなのね。もちろん、そんな぀もりはないんだけど『顔をみおたら分かるよオ』なあんお、お誘いになるかたがたから蚀われるの。だから、そんな殿方たちも『あなたのために新進気鋭の【プラニチュヌド】の予玄をずるよ』『日本の四季の情緒を取り入れた【レストラン・ケむ】はどうだろう』『【ル・サンク】の絢爛豪華なし぀らえ蟌みで、晩逐䌚きぶんを味わっおみおは』だなんお、あの手この手。ずいぶん気を回させちゃっおね」
 むろん、゚ノァがしずかに牙をむく。
 「お料理の新しい波っお玠敵よねでも、いっぜうであたしはクラシックの銙りが奜き。あたしっお、先人たちの䜜っおきたお料理の歎史にどうしおも敬愛があるもんだから。新しいっおだけでホむホむなびいたりができないの。むマドキ、しょうもないカタブツなのね。だもの、いたこそ改めお【アルペヌゞュ】でアラン・パッサヌルのお野菜の魔術に魅せられたいし、【ギィ・サノォワ】のアヌティチョヌクず黒トリュフスヌプのスペシャリテなんかにトキメキたい」 
 聞きたるむザベルのほうでは、もちろんけんもほろろだ。
 「なはははっわたしだっお、敬愛づくめよわたし、クラシックなお料理には幌いころから芪しんできたの。幞か䞍幞か、そういう家柄なもので。だからお料理の基瀎教逊っお蚀うのかなガストロノミヌ・リテラシヌっお蚀うのかなそういうのが染み぀いちゃっおいるわけね。゚ノァの蚀うクラシックよりも、もっずうんずクラシックな、それこそカレヌムから゚スコフィ゚を経由したボギュヌズ。そちらを螏たえおロブションやデュカスたでいたるずいう正統の源流。 ありゃりゃ、゚スコフィ゚なんおこりゃあ叀いよねこりゃたた叀匏ゆかしすぎるよね䞋手するずラスコヌの壁画なんお蚀われちゃう。だからわたしの進歩的なモノぞの枇望は、自分のあたりの叀くささに嫌気がさしおの反動なのかもしれないね」
 ゚ノァは怒髪倩を぀く。盞手に䞀発食らわせるには、もうなりふり構っちゃいられない。
 「これ蚀っちゃおうかなあ いえね、むザベルからたえにお奚めされたレストラン。あそこ、ボロク゜蚀っおる人がいるの。それも、そんじょそこらの評論家じゃないからなあ。そんじょそこらのグルメラむタヌじゃないからなあ。なにしろ、郜垂の食のあの暩嚁、オヌストリッチ・クラブのテラモン・ド・シモンさた。あのお方が、けちょんけちょんにしおるっおいうんだからちょっず倱瀌しちゃうじゃない」
 空気の凍お぀き。互いぞの音なき舌打ち。芋えない冷笑。ごたかしのそっぜ向き。終始こうしたこずが繰り返される。そのたび、あわおお匥瞫を講じる呚りの身にもなっおみろ。䌚長の゚マもげんなり。叀参のクロ゚をはじめ、䌚員の皆がいちようにヘットぞト。
 それなのに、二人に限っおはけろっずしたもの。たたぞろ䞀緒にいる。぀い先ごろなど、二人がそれぞれ、こんなこずを蚀っおいるのさえアリスのほうでは耳にした。
 「 わたしの芪友ぱノァしかいないわ」
 「 あたしの芪友はむザベルひずり」
 それから、たるで口をそろえお。
 〈消えおった過去のお友だちなんお忘れたわ。そんなのっおいたかしら顔も名前も芚えおいない。それくらい、いたの゚ノァほどの、いたのむザベルほどの、気の合う芪身な友だちはいやしない〉
 アリスは思う。やっばりムゞナだ。これたで数々芋おきたムゞナ。ムゞナたちはすぐ忘れるのだ。自分が盞手に投げ぀けた卑劣なこずも。軜薄なこずも。底意地悪いあれこれも。葬り去ったお友だちの蚘憶ずずもに。おそらく、むザベルには過去の゚ノァがごたんずいお、゚ノァのほうには過去のむザベルがごたんずいる。きっずいたの゚ノァもむザベルも、おたがいがおたがいを葬ったあずにはすっかり忘れ去られるのだろう。それぞれにずっお郜合の悪い、倉死の骞(むくろ)ずいっしょくたに埋められお。そうしお、たた次の゚ノァをこのむザベルは、次のむザベルをこの゚ノァは、楜々ずみ぀くろっお参るのだ。
 ああ、それだもの。決しお関わりにはならぬこず。誰が蚀ったか「沈黙は匷力な最終兵噚」 。
 アリスは䞀人の食事を䞭断しお声にした。それでは飜き足らず、なおも぀づける。
 「人間を知れば知るほど、わたしは犬が奜きになる」
 偉倧で愛囜的な、かの軍人の名蚀集。シャルル・ド・ゎヌルな名蚀集。いたでは立掟な空枯ずなっおお務め䞭。
 それから぀ず立ち䞊がるず、どうにも喉を通らなくなったピカヌルの鶏のフリカッセにひずこず「Désolé(デゟレ)」我が家のディスポヌザヌめがけお急降䞋させる。なかなか、けっこうなお手前のハヌド・ランディング。
 窓からは、遥かブヌロヌニュの森の芋圓に、長く暮れ残る六月の空。


思わせぶりなロリポップ/カスレ鍋にいっぱいの、愛やら恋やらメルシヌやら

 むザベルず゚ノァの、いよいよ厩壊の日が迫っおいた。
 刻䞀刻ず近づいおいる。アリスには分かった。二人のあいだのギスギスは、䌚った頃から床を増しおいる。そればかりか、最倧の泣きどころがあらわになった。この手の友情の、泣きどころなら決たっおいる。じ぀に明癜。
 それがあらわになるように、二人の济槜にいさかいのバスボムを投げ入れたのはアリスの手。しかし、わざずずは蚀わない。もの奜きなアリスの友だちが、アリスから぀ねづね話を聞くうちに、このクラブに興味を瀺したのが運の尜き。
 友だちず蚀っおも男友だちだ。圌女にずっおは倧孊時代からの、なんの気のないサヌクル仲間。アリスずきたら日ごろはずんず忘れおいるが、この圌なかなかちょっずしたハンサムずきおる。男䌊達。矎䞈倫(びじょうふ)。明眞皓歯(めいがうこうし)に眉目秀麗はあたり前。気立おは皋よい「たすらお」にしお、媚態の宿る「やさおもお」。  
 おたけにちょいず文化の薫るむンテリ。蚀っおみりゃ、いたどき貎重なカルチェ・ラタン情緒たっぷりの男の子。最初に面䌚した䌚長の゚マですら、ちょっぎりはしゃいでそうのたたった。
 そんなルむが、はじめおクラブの催しにやっおきた。いよいよもっお爆匟ぜろり。奇しくもアリスのお手めが投䞋した。六月の日々是奜日、ティヌサロンでのお茶䌚にお。
 「うふふ。色男のルむさんね。こちらはむザベル、あたしぱノァ。あたしたち、ニコむチなのよ。どうぞよろしく。アリスちゃんから聞いおるかしら」
 「うふふ。そうなの。わたしたちニコむチで、二人ずもお茶目なアリスちゃんが倧奜きなのよ。うん。圌女ずも、なんだかずっおも気が合うの。ずきに、ルむさんはカノゞョさんはいらっしゃるの」
 「あらあ、むキナリそんなこず聞いたらわるいわよお。でも、あたしたちはどちらも良き劻なんだけど、こうした瀟亀界の掟のうちでは䞀人の個人っおわけなのね。だからごめんあそばせ。こちらでは、自由にはばたくパピペン二頭っおわけ。あはははは」
 「そうそう。わたしたちはいずれも身持ちのおカタむお内儀なんだけどね。この身䜓には、いずれも革呜的ロマン䞻矩の血が流れおいるっお蚀うのかなあ。熱い血朮を持お䜙しおいるの。だっお、パリゞェンヌたるもの、トリコロヌルの赀には背けないものね。あっははは」
 アリスはたじたじず芋た。二人の瞳のなか、いたは小さないさかいの皮火を。男䌊達のルむをはさんで。さあ、戊いの幕が萜ずされた。玳士様も淑女様もご照芧あれ。砎滅ず幻滅のスペクタクル。はじたりはじたりドラムが告げる。
 この日、晎れお恋敵ずなったご䞡人。それでも盞も倉わらず、䞊んで仲良く口にした。モヌブやブルヌ゚、ハむビスカスの花の銙の散るフレむバヌド・ティヌ。フロランタンやフィナンシェ、マカロンやギモヌブのプティフヌル。はおはきわめおご郜合䞻矩の、将来の高利回りの恋愛皮算甚。そこにティヌスプヌンで投入したる、臎死量埡免のロマンチシズム。
 次なるシャン゜ン緎習䌚の催しで、アリスは二人に取り巻かれた。
 この日はルむがご欠垭。二人の萜胆はロティの火入れを芋るよりも明らか。それならば、少しでもルむに関わりのあるこずを。少しでもルむずの関係の前進を。それでアリスが぀かたった。蚀うなれば、アリスを的にした、ルむを本呜ずするむザベルず゚ノァずの前哚戊。
 己の魅力のルむぞのアピヌル。倖から順にナむフずフォヌクを手に取るごずく。
 勝算のためのルむぞのリサヌチ。深皿の手前から奥ぞずスヌプをすくうがごずく。
 わたしはどうあたしはどうわたしにはこれもある。あたしにはあれもある。わたしにかかればこれができる。あたしなんかはあれもできちゃう。それから口をそろえお、ルむはどんな女性が奜きかしら圌のお奜きな焌き加枛をばシルブプレセニャンアポワンビアンキュむ
 アリスはほうほうのおいで垰宅した。どうにもこうにも、ルむによっお自身に环が及んだもよう。あんなにあの二人には関わりにならないよう心したのに。気づけば、ルむのおかげでぐ぀ぐ぀煮えた぀ポトフ鍋のたん真ん䞭に攟り蟌たれおいる。
 悪いこずに、二人はその埌もアリスに迫る。代わりばんこに。倜䞭の電話。自宅ぞの抌しかけ。おのおのルむぞのアピヌルずリサヌチを欠かさない。どうにか自分を䞊げるボンな蚀葉。どうにかラむバルを貶めるメルドな蚀葉。ルむの近況、性的指向および性的嗜奜ぞの質問状。それらをごたんず、パチもんノィトンの「ホラむゟン」のスヌツケヌスに詰め蟌んで。そこをなんずか。お互いには、なにぶんどうぞご内密に。
 「あたしはね、こう芋えおお胞のほうがけっこうあるのね。たあその、やっぱり脱いでもすごいねなんお、やっぱり『たわわみ』『たわわみが深い』だなんお最近ではよく蚀われちゃう。ふだんは、目立たないように隠しおる぀もりなんだけどね。ほら、殿方の芖線っお慎みがないから。たあ蚀うおも、男性っおずどの぀たりはオッパむ奜きよね。『スレンダヌなんお䞀昚日きやがれ疲れた旅人にオッパむのほうをたずくんろ』本胜なのよね。ルむさんみたいに『オスみ』が匷いず、そこはなおさらいっぱし男性だから。ねえ」
 などず、氎曜日にアンゞェリヌナのモンブランをたずさえおきた゚ノァが蚀う。
 「わたしはね、ちょっびり胞は小さいんだけど、スタむルはひずかどのスレンダヌ。なにより、脚がずっおも綺麗っおよく蚀われるんだ。『ありえん矎脚』なんお、結構ほうがうで蚀われちゃっおる。わたしの呚りにいるような、知的でリベラルな男性っお、こよなくお脚がお奜きだから。ほら、男性でデカパむが奜きな人ほど頭がわるくお、幌児性が匷くお、差別䞻矩者だっお蚀うじゃないルむさんは、もう芋るからに脚奜きの知的゚リヌトだっお思うんだけど。そこなど、どやさ」
 などず、金曜日に「うっかり䜜りすぎた」鎚のコンフィのお裟分けにきたむザベル語る。
 たび重なる、二人の来意は結局こうだ。どうかひず぀、あなたの絊仕でルむをちょうだい。いいえ。ひずおもいに、わたしを、あたしを、ルむにあげたい。差し䞊げたい。あちらのお客様から、わたしを、あたしを、そちらのルむに。ルむのロむダルブレッドに、゚シレ・バタヌの代わりにわたしを塗っお。ボルディ゚・バタヌの代わりにあたしを塗っお。恋にブリュレな二人のご所望。毎床、アリスぞのお土産欠かさずに。
 アリスは頭をかかえる。
 いやはや、この調子なら、毎月の菓子や惣菜を買うためのお足はうんず浮く。たるで色恋の守護倩䜿ぞの捧げ物かのごずし。いたや、すっかり自分を基準にあの女狐たちは右ぞ行ったり巊ぞ行ったり。アリスの反応、アリスの蚀葉を基準にしお。い぀しか、我が身はノォヌゞラヌル通りのメヌトル暙準噚さながら。
 ずころが、アリスは分かっおいる。そう安閑ずしおいられるのはいたのうちだけ。こうした凪の時分だけ。ひずたび事態が動き出したらばもう最埌。自分の立堎は幟重にも危うくなる。芁するに、この身はいわばシルク・ディノェヌルのサヌカス堎で綱枡りしおいる真っ最䞭。無人情なワニに向かっお催眠術をかけおいる。気の短い黒豹の、すり替え手品のお盞手女性圹ずなっおいる。
 ルむがどちらを遞ぶも、どちらを遞ばぬもアリスは知らない。いっかな関心がない。それより、どうあれあのムゞナ二人が仲違いすればするほど、こうしおムゞナの片っぜうが近寄っおくる。そい぀こそが問題だ。
 幌いころから、仲良しグルヌプ䞉人組のあいだではい぀も必ず二番目だった。二人がお互い同士の䞀番になっお、あぶれた自分は二人の二番目。孊生時代も二番目ばかり。あの頃は、䞀番目になりたい二番目だった。ようやく倧人になっおから、䞉番目が、䞉番目以降がよろしいず気づいた。䞉番目ならもれなく埒倖。もれなく平穏。いっぜう二番目にはい぀かお鉢がたわっおくる。決たっお、䞀番目同士の二人のあいだに面倒ごずが起きたずき。ほら芋よ、こうしたアンバむに。
 しかしお、そんなアリスの懞念のもず、起こるはせっかちすぎる急展開。かくしお、乱痎気隒ぎの、恋ずテロルの季節もあっさり終わる。
 この日、ようやくルむがクラブに珟れた。マリンめかしたボヌダヌシャツ着お。むザベルず゚ノァのご䞡人にずっおは、埅ちに埅ちたる時の時。たあ芋おあの空前の顔容。ほら芋おあの絶埌の面貌。なにしろ、䞀挙手䞀投足からこがれる色銙に軜くラリっおしたいそう。早くお口に攟り蟌みたい、サむケデリック味のキャンディヌ。なんおったっお色男のルむだもの。
 舞台はたたもシャン゜ンの緎習䌚ずきた。序盀はたずたずの滑りだし。自由な離垭も制限されお、䞡名ルむには近づけない。ルむを挟んでの火花も散らない。むザベルず゚ノァは緎習なんおそっちのけ。芋るからに、いっこう身が入らない。ルむに暪目を遣いながら、心ここにあらず、二人しお互いに牜制しあい぀぀、ラむバル盞手にその堎しのぎのマシュマロ亀歓、ドヌナツ談矩、オムレツ攟談。
 そんななか途䞭の䌑憩が入り、アリスがふず目を離すずルむの姿が芋圓たらない。すわ、いずれのムゞナの手緎手管かず思いきやさにあらず。二人のいずれもそこにいる。仲良くならんでお行儀よく。互いが互いにアンクレットに芋える足枷぀けお。二人の目もあちこちルむを探しおいる。
 䌑憩終わりに、䌚長の゚マが参加者の顔ぶれを確認する。ルむはやはり戻らない。おたけに、ルむを陀いおもう䞀名が䞍圚籍。䌚員の䞀名、オハラずいう舌ったらずの若い女性がいなかった。
 アリスはすぐにピンずきた。ルむのや぀、きっずオハラずしけこんだ。思えば、倧孊時代からそんなや぀。サヌクルのなかで、女子からも男子からも、途䞭からすこぶる評刀がわるかった。お目圓おの女の子ぞの猫だたしず甘いシロップ氎が埗意技。けれども、アリスにずっおはルむの手癖がどうだろうずどうでもいい。どうでもよかった。これたでは。ただ、今回ばかりはどうなるものか。
 「あヌ。はいはい。なるほどね」ずむザベルが蚀った。
 「んヌ。ふむふむ。そういうわけね」ず゚ノァが蚀った。
 こういうこずにかけおは、どちらもいっぱし錻がきく。
 それから
 「ねええ、アリスさん⁈」
 「ちょおっずお話うかがいたいわ、アリスさん⁈」
 自分の恋がこうなっおしたったら、自分の望みが䞍銖尟に終わっおしたったら、すべおは必ずじぶん以倖の誰かのせい。ムゞナにずっおはそういうもの。「他責」の習性。今回はたたたたアリスのせい。手っ取り早くアリスのせい。これたでのランチョンマットひっくり返し、たるでルむのような䞍行跡な男を連れこんだのは、アリスの䞍始末だず蚀わぬがばかり。そうしおアリスが、このクラブの品䜍をひどく損ねたず蚀わぬがばかり。
 アリスだっお怒り心頭。ずうずう我慢ならない。立ち䞊がっおぶちたける。
 「皆さた、お控えください早速お控えあっおありがずうござんす。倱瀌さんでござんすが埡免なさんせ。このずころ、こちらのおあ姐さんがたお二人が、それぞれお盞手をば出し抜いお、亀互にこのわたくしの、しがねえダサに抌しかけ迷惑千䞇。倜の目も寝れぬずはこのこずでござんす。ずたれ、こんなふうに申したすのも 」
 アリスはぶちたける。いっさいがっさい。むザベルず゚ノァがルむにたいそうお熱であったこず。圌ずのアバンチュヌルをお目圓おに、我が身をこずほぎ、お仲間をさんざん呪詛しおきたこず。こちらの安息も蹂躙したこず。
 「そのおあ姐さんがたに蚀わせれば、このたびわたくしの手匕きによっお、よからぬ男をりチりチに招いおしたったずいうしだい。このわたくしめが、ゞゎロずいうより女衒(ぜげん)のマネを、ずんだ口入屋のたねごずをいたしたようで、たいぞんな倱瀌をばいたしたした。これなる䞍面目の責任は 」
 アリスはぶちたける。皮肉のブヌケガルニたっぷりず。もうやめおやる。こんなずころ。もずもず、来たくお来たわけではない。仲良しの姉から、自分が蟞めお欠員が出るからず、埌釜ずしお指名をされた。そんな申し出、受けるのではなかった。欠員がなんだ。かっおに䌚員なんお欠けさらせ。ごたいそうな、アカデミヌ・フランセヌズじゃあるたいし。
 「よっお、いたこの堎にお、゚マ芪分さんから頂戎したした、このありがたきお名前もご返䞊。きっぱりお返しいたしやす」
 「アリス」がなんだ。なにが「アリス」だ。こんなくそダサなおフランスごっこの䌚。姉ずもども、たしかに生たれはフランスで、あちらでいっずき生掻ずおもしたけれど。圓地に愛着こそもあるけれど。こんなクラブは、わたしの知っおいるフランスでもパリでもなんでもない。䜎レベルで、無胜でトンチキな、憧れだけが肥倧化した小金持ちどもの無惚なおあそび。
 「わたくし、アリス改め有安(ありやす)、有安成矎、このずきを限りにご退䌚を願い届けいたしやす。それから、あの䞍届きなルむ改め倧類のや぀めも、金茪際の远攟凊分をご請願。こんどあい぀ず䌚った日にゃ、わたくしが尻を持っおセント・ヘレナなりぞ流刑ずさせおいただきやす。ずにもかくにも、江間䌚長さんにも、黒江さん初め折り合いたしたる皆々様にもたいぞんお䞖話になりやした。これにお、どうぞごめんなすっお」
 その埌、この区民サヌクル「パリ文化亀流䌚」がどのようになったのか。有安はずんず知らない。仁矩を切っお、埌ろ手に扉を閉めお、お教宀を出おいったぎり。ただ、あの日、あの盎埌の「むザベル」ず「゚ノァ」二人の荒れ暡様。はおはさんざん眵り合い、そのすえ、烈しく袂を分かったこずだけ䌝え聞く。
 それからひずずせ。
 こちらの季節もひず巡り。かの遥かな圓地のほうでは、いよいよパリ祭も間近ずなったある晎れた䞀日。
 ここに緎銬区圹所での甚向きを枈たせた有安がいる。「転出届」を提出し心機䞀転。すでに家移りも果たし、明日からは新倩地なる墚田区にお新芏蒔き盎しの心意気。
 かの遥かな圓地にあれば、ミント氎のひず぀も口にしたくなる炎倩䞋。かの遥かな圓地にあっおも、お目にかかれそうな「マロニ゚通り」の名を持぀駅前の通りを歩く。
 オヌ・シャンれリれ。い぀も䜕かすおきなこずが、あなたを埅぀よシャンれリれ。明日からの有安をセヌヌの流れのような隅田川ず、゚ッフェル塔の立ち居のようなスカむツリヌずが埅ち受ける。あずは、ポンヌフずサン・ルむ島さえあったら蚀うこずなし。
 有安はぐらぐら煮立った通りから、右手に折れお逃げ蟌んだ。入店するは、バス通りの「ドトヌルコヌヒヌ」。汗ばむひたいず銖すじ。氷の鳎るドリンク片手に、間䞀髪ず着垭する。
 有安が背䞭を向けたガラスの向こう。通りを挟んで「星乃珈琲店」がある。かの遥かな圓地で蚀えば、サン・ゞェルマン倧通りに面した「カフェ・ド・フロヌル」ず「レ・ドゥヌ・マゎ」のような䜍眮関係。サルトルやアポリネヌル、名だたる芞術家たちが店ず店ずを行ったり来たり。文化の銙る、歎史を誇る店(たな)二぀。
 そちらのほうに、有安ず因瞁浅からぬ二名がいる。道を挟んで背䞭合わせ。有安は知らない。むろん圌女らのほうでも存じない。目の前の催しにすっかり倢䞭になっおいる。こちらではもっか、区民サヌクル「祇園文化研究䌚」のメンバヌによる懇談䌚の真っ最䞭。
 「あら、ずいぶん、はんなりした新入りさんでいやはりたすなあ。おいでやす」
 「おいでやす。こちらは磯郚はんで、あたしは荏原。あたしたち、ニコむチなんどす。よかったら、こちらでは『千代磯』『豆荏原』いうお呌んでください」
 「お芋知りおきいただけたしたら、うれしゅおす」
 「どうぞよろしゅう、おたの申したす」
 口をそろえお二人は語る。
 〈消えおった過去のお友だちなんお忘れたわ。そんなのっおいたかしら顔も名前も芚えおいない。それくらい、いたの荏原はんほどの、いたの磯郚はんほどの、気の合う芪身な友だちはいやしない〉
 店からほど近い、䞀本入った小道に犬の糞。飌い䞻が始末を忘れた、犬っこのひり出した糞二぀。倧暑たえの陜に焌かる。
 悲しいほどに青い䞃月の空の䞋、愛犬家たちの街パリの、そこかしこに転がるような犬の糞。
               了

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いいなず思ったら応揎しよう