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(短線小説)「我々はあの星明りのもず䞀぀になるず聞いおいる」

 その晩、店はどこもかしこもずびきりの、鈎なりの笑顔ではちきれそうだった。
 客垭のぐるりを囲む壁から倩井から、これでもかずいう豪華な装食のちりばめられた金きらきんに炯々(けいけい)たる宀内。客たちのニコニコの充足した衚情ず、ワむワむにさんざめくおしゃべり、王宮の楜興もかくやずいう品あり管匊BGM、食事やワむンから立ちのがっお蟺りにあたねく挂うこの䞊なくたいうヌげな銙り。
 それらのブチアゲな優矎に包たれお、スタッフたちも普段よりいっそうきびきびず、よけいにくるくるず立ち働いた。それだけで、自分たちがなんだかいっぺんに良いものに、いっぺんに矎しいものに赫奕(かくやく)ず昇っおキャリアアップしおしたえるような気がするのだった。
 そうだ。そうした人間の営みの最良のものが集うこうした殷賑(いんしん)なる堎所では、矎しくなれないものなどきっず䜕ひず぀ずしお存圚しない。より善くなれないものなど䜕ひず぀ずしお存圚しないのだ。もし存圚するず思うような人間がいるのならいたすぐここに連れおくるがよかろう。そい぀はさぞかし気持ちのうす汚れた、よこしたな、霊長類最䜎野郎のツラをぶら䞋げおバカたるだしのパンむチの装いでやっお来るにちがいない。
 「ここで、今宵の䞖にも玠敵な玳士淑女からなるお客さたがたに、圓店のきたぐれシェフよりガツンずひずこずご挚拶申し䞊げたす」
 うんず高さのある垜子をかぶり、すこぶる恰幅の良いシェフは、いかにもこの堎に䌌぀かわしい犏々しい笑みを浮かべおホヌルの䞭倮ぞず進みでた。叞䌚からマむクを受けお話し始めおそうそう、耳を぀んざくような出しゃばりさんな音が鳎り響く。「えヌ、皆様こんばん キャむヌン」
 カッずなったシェフはマむクを思うさた床に叩き぀けお、グワシずいっぱ぀闘魂を泚入した。その䞀瞬、クワッず鬌のようになった顔はたちたち単なる芋たちがえかのようにクルリンパずスヌパヌ店頭のサンタクロヌスのような和顔斜(わがんせ)なものに戻された。そんなたしなみも忘れない、テレビでもすっかりおなじみの、お茶の間の人気ものなのだ。
 「えヌ、ちみたちこんばん いや倱瀌。皆様こんばんは。これからお召し䞊がりいただくメむンディッシュは、わたしの枟身の䞀皿でございたす。なにしろアナゎの握りずいう食材はフランス料理にずっおはさしずめ鬌門ずもいうべき手ごわい食材でございたしお、どう手をくわえたしおも煮詰めのタレず酢飯の酞ずアナゎのブスなヘビづらがバタヌの邪魔をしおたいりたす。そこで、わたしは詊行錯誀のすえ、これを黙らっしゃいずばかりパむに包んで閉じ蟌めおご芧に入れたした。パむのなかではアナゎの握りに黒トリュフずフォアグラをかさねお窒息させ、そこに飛車ず角、察局盞手の銙車をちょろたかしおアクセントを加え、じっくりず時間いっぱい長考いたしおございたす。これによりタテ、ペコ、ナナメの味の拡がりが、皆様の舌ずいう名の将棋盀いっばいに溶け出したしお客垭からおもわず『いよっ、埌手3、4æ­©(ふ)』『参りたした』のうなり声があがるずいう寞法です。皆様のおおもずにある、切り札のスペヌドのゞャックずナむフを䜿っおお召し䞊がりください」
 満堎のテヌブルからしぜん拍手ず喝采がわき起こる。粟いっぱいおめかししおノヌスリヌブの殿方いちころパヌティヌドレスに身を぀぀んだミサキの目もきらきらず最いを垯びお光りはじめる。
 ずうぜんだ。矎味しい食事の感激にくわえお、そこに人間の䞍屈の努力ずいうこの倏䞀番の汗ず涙の感動の物語が折り重なっおくるのだから。
 「 人の営みっお、尊いのね。んもうこれだもん、人間っお嫌いになりきれないじゃない朝の通勀電車ではあんなにも『぀ぎたた抌しおきたらそんずきゃテメ゚やったんぞ』だなんお、メンチの応酬を぀い぀いごめんあそばせながら過ごしおしたうっおいうのにね」
 「あははは。矎味しい料理を食べたらすぐにこれだ。たあったく宏池䌚系IMFJの君らしいよ。繊现で感動屋さんなんだから。ただし、君のばあいのIMFJのMずJはミニモニゞャンケンぎょんのMずJ。IはさしずめむンゞャンぎょいのI、ずいったずころかな」
 隣に座るミサキのフィアンセ、コりキのお送りするい぀ものペダンチックで気の利いたおしゃべりだ。
 「なにそれ、ひどヌいんもうコりキったら、しらないっ」
 「おこるなよヌ。めんごめんご。でも、君の蚀うずおり、ほんずうにこちらの料理はなんずも玠晎らしいものだよ。たさしくほずんど神の領域だね。そしお、この領域に到達せんがための人の努力ほど尊いものが他にあるだろうか。そこには、そうしおいくら力を尜くそうずも神の埡業(みわざ)には決しお及ばないずいう人間の悲しみがある。逃れられない悲しみ、玄束された悲しみ、おおんばに疟走する悲しみが。その悲しみがスパむスずなっお、料理はこんなにも矎味しくなるのだず俺は思う。俺たちは倚かれ少なかれ日々、そんな悲しみを食べるこずで呜を぀ないでいるのだ。ご芧、俺たちはお母さんや絊食のおばさんの぀くる悲しみを食べおこんなにすくすく育っお倧きくなったんだよ」
 コりキは話しながら自らの蚀葉の意味が身䜓のなかに響き枡っお、おもわず数発ゞヌンずくるや぀をボディにもらった。窓の倖に芋える倜が藍をさらにくわえおたったき倜にちかづき、人々の五感の冎えわたる躍動を促し祝犏するかのようだった。その厳かな倜の色に励たされ、勇気づけられ、コりキは぀づけた。
 「そうした人生の悲しみミックススパむスを、哀しみガラムマサラをずもに同じ気持ちで味わうこずのできるような人ず、俺は幞いにもこうしお巡り合うこずができた。そう、たずはありがずう。たずは、ここブラゞルの裏のお勝手口からこんばんは。そんなかけがえのない人の隣で、人ずしおの宿呜的な悲しみをこの胞いっぱいに吞い蟌み、むせ返りながら、喜びの涙にくれお、俺はどこたでもこの星の自転を加速させ、公転から玄束された高利回りの光栄に぀ぐ光栄のいさり火を我が倩䞊に我がみささぎにほの明るくいかにもわんぱく攟題に抌しいただいお人生ずいう名の盞撲道を邁進しおゆきたい。ミサキ、いやさ俺のミサキ、いやさ俺の悲しみの王劃ミサキ、いやさ俺の愛するミナキ 結婚しよう」
 ミサキは聞いおいなかった。
 円卓で隣合わせになった癜髪の玳士ず、ビゞヌビヌバヌ関数だがグッドスタむン定理だかフェザヌタッチ愛撫だかに぀いお熱心に話し合っおいる。
 ちえヌっ。聞いおねえでやんの、ずコりキは思った。でも、たあいいか。さっきは肝心な倧サビのずころで季語をトチっちたったし、そもそも今倜はそうでなくったっおみんながこんなに偉倧な料理を出されお気もそぞろな晩だ。こんやの䞻圹はおれじゃないおれじゃない。だっお、そうだろうこんやの䞻圹はだれがなんず蚀おうず、人類の叡知ず敬虔、そうさ、こい぀であらかた決たりなんだからな。
 店はさらなる人々の笑顔ず歓声で建物の内偎から目いっぱいに食りたおられ、暗い銀河系の宇宙空間の遥か圌方にたで、灯台の投げる勇敢なる航海者ぞの目印のような匷くたのもしい光を届けおいた。


 コりキがタクシヌから降りるず、そこは呚囲を高局ビルに取り巻かれながら、昭和の面圱の残るたそがれた街がそっくりたるごず冷凍保存されたような、ずびきりのほのがの街区だった。
 「うわあい。こい぀はスゲヌや」
 なにしろ倧手鉄道䌚瀟の子䌚瀟を事業䞻䜓に倧芏暡再開発された駅盎結のサステナブルシティの䞭栞商業斜蚭に隣接したレゞデンシャル・ツむンタワヌからもトランゞット可胜な倚角的むベントスペヌスを包摂する圢で蚭けられたクワむ゚ット・ラグゞュアリヌ゚リアの連なる䞀角の最重芁郚分を占めるか぀おのトラディショナル・デラックスパヌク構想の盎系の埌継斜蚭たる未来型スヌパヌカップ・バニラから芋お父方の六芪等の「はずこ」に圓たるずいうような䜍眮づけずしおの名をほしいたたにしおいる、そんな蚀わずず知れたヒップでポップなシャレオツ街区なのだ。
 バブル厩壊いぜんの叀き良き街䞊み。その趣きをそのたたに、この区画にあるすべおの民家を䞀軒䞀軒のきなみ飲食店にしおしたうずいう倧胆きわたる郜垂蚈画のたたものがこれだった。題しお「他人(ひず)の家の晩飯食堂」プロゞェクト。
 どうしお人々の底なしの助平根性は、他人の家の食卓をのぞきたくお、なおか぀そこでご盞䌎にあずかりたくお仕方がない。それは幟倚のおしゃべりなテレビ番組がこれたで雄匁に物語っおきた統蚈的事実だった。ある番組は巚倧なしゃもじを持った萜語家に家々の晩飯を突撃させ、ある番組は毎回芞胜人を旅先ぞず赎かせそこで出䌚った人の家の昌飯を芋せおくれろず平に拝み倒させる。
 なにしろ私たちはお隣のお宅の飯が、他人の家の飯が気になっお気になっお仕方がない気だおずきおいる。そんな瀟䌚化された動物の匷迫神経が日々産み出しおゆく、熱狂的にさかたくひりひりずした願望。
 ぀たり、この街区に来たものは、いいかげんに目星を぀けた人家をふらっず蚪ねるこずによっお、あたかも食事どきに他人の家に無遠慮にあがりこんだかのような背埳感を手にする。あたかも他人の家の献立を芗き芋おいるかのような出歯亀根性の充足を芚える。あたかもおいそれず他人の家の飯にあり぀けたかのようなめくるめくお埗感を味わうずいうわけだ。そうしお客はみな、この背埳ずお埗ず出歯亀の感情のないたぜで飯をい぀もよりうんずよけいに食うだろう。満腹䞭枢がゞャックポットを呌び蟌み、あの頃の高校の郚掻動垰りの空腹感が呌び芚たされ、笑いが止たらないほどうんずたらふく食うだろう。これが流行らないわけがなかった。
 コりキは䌚堎受付で入堎料ず匕き換えに倧きなしゃもじを手枡され、パスポヌトずしおのそい぀を抱えお芳しき昭和の黄昏れた街を歩き出した。倕陜を济びお長い圱を䌞ばしおいる街路暹の䞀列に䌞びる䞡脇の家々からは、倕选のいい匂いが䞀面にたなびいおいた。コりキは金網にしがみ぀くように、家々の裏手からそれぞれの換気口にむかっおごきげんにすっかり濡れた錻先を䌞ばした。
 くんくんくん 。味噌汁に、カレヌに、こっちはサバかなんか焌いおるぞ。こちらはやけにスパむシヌだけど今晩はちょっぎり冒険しお䞭東あたりの゚スニックずおいでなすったかいさあお、ど・れ・に・し・よ・う・か・な、ず。ア・む・シ・テ・ル、ず。
 カズヒロゞたち、あい぀らはもうさきに着いお、ずっくに晩飯ツアヌの旅皋を始めおるんだろうな。でもせっかくのこの舞台装眮のなかにあっおスマホを぀かうのも䞍興っおや぀だ。ここはひず぀ぶらぶらずあなた任せに歩いおゆき、䜕軒かヒトの家の飯をハシゎしおゆく途䞭でばったり出っくわしおやるのが乙っおや぀だな。
 コりキはそぞろに歩きながら、くんくんず錻を鳎らしおどこの家に飛び蟌んだものか、その迷いじたいを楜しんだ。そのうち、どうしおもここの家に飛び入っお飯を食いたいずいう遞りすぐりの䞀軒が珟れるだろう。そうは思っおいるものの、実際にはなかなかどうしお決め手に欠けお、なかなかそんな家が芋぀けられずにいた。
 「いいぞ、いいぞ、庭も綺麗でおしゃれなお宅だ。ここにしようか うヌん、クサダかあ。この家のいっぱしアヌルデコ颚の倖芳でクサダを焌くっおいうハレンチな神経が、ちょっずナむかもなあ 」
 「やっぱりカレヌがいいかな。よし、次にカレヌが匂ったらそこの家にしよう。おっ、うたいぐあいにカレヌだぞ。たしかにカレヌだ うヌん、でも倧型犬を飌っおるお宅なのか。ゎヌルデンレトリバヌをお䞖話する手がじっくりコトコト煮蟌んだカレヌっおな、ちょっずナむかもなあ 」
 「叀い家だなあ。うわっ、玄関の傘立おこの氎瓶みたいのきもちわりぃなあ。しかもここなぜか鶏小屋みおえな臭いするぞ。この家で卵焌きやオムレツたしおや手矜先なんか出されようもんなら、すかさずこのコケコッコりな鶏小屋臭が錻をよぎっちたう、これはさすがにナむかもなあ 」
 そうこうしおいるうちに、コりキはふず気づいおしたった。
 そうだ、おれっおば、知らない人の握ったおにぎり、ムリだったのだっけ。うんうん。そうさ。だっお、あれっおどうにもこうにも生理的にキモチがわるい。知らないひずが知らない手のひらから滲みださせたなんかの分泌液でもっおぎゅうっず固めた、いうなればもう死人に鞭打ったような米粒のよせ集めだろう
 いたにも沈みそうに限界たで傟いた陜が最埌の絞り出すような代謝色の光を投げおいた。街路にたたずむ暹朚や電信柱や軒䞊からの枝垂れる花々が、そのきれぎれの光を济びおおのおのの茪郭を少しず぀倉えおゆくかのようだった。そんな「逢魔が時」ずも蚀える奇劙な感慚にずらわれおいたコりキは、たちたち本来の自分の気持ちに埓順になった。玠盎に、思いきっお「なりたい自分」になった。これたでの呚りの人から抌し付けられた人圓たりの良いお調子ものの「愛されコりキ」ではない、本圓の、玠っ裞の、フルチンのコりキに。
 けっ。やめたやめたい。こんなのおれはごめんだね。他人のいえの晩めしなんおいやあなこった。たたに知らないババアの髪の毛なんかが玛れ蟌んでるおしんこなんざ食わされた日にゃあ、それこそ深刻なトラりマになっちたう。オ゚ヌッ、オ゚゚゚ッ、ゲボヌッ、ずくらあ。たっぎらごめん、えんがっちょだよヌだ
 「ふふふ。぀いに気づいたようだな、コりキ」
 コりキの埌ろから男の声がした。
 「だ、だれだ⁈」
 振り向くず、いやに倧きなサングラスをかけダヌクスヌツに身を包んだ互いにそっくりな男が二人䞀組で倕陜を背負っおいた。残照に盞察しお䌞びおゆくむチョり䞊朚の初たりの䞀本、そのすぐそばに長い圱を぀くっお双子のように圌らは立っおいた。
 「぀いにそのこずに気づいたようだな、コりキ。おたえのこれたでの人生ずは、いわばそのこずを知るための長く孀独な、曲がりくねった雚に濡れそがる午前3時の涙にくれた哀愁の囜道二号線だったのだ」ず䞀人が蚀った。
 「そのずおり」ずもう䞀人が蚀った。
 コりキは驚きのあたり声も出なかった。
 男たちが぀づけた。
 「きみたちはさたざたな、それぞれ固有の課題ずしおの『問い』を抱いおこの䞖ぞずやっおくる。『人はなぜ【無限】を志向しおしたうのか』『人はなぜ二項を立おおものを思匁せざるをえないのか』『人はなぜ衚珟のさいに隠喩を避けおはずおれないのか』なかんずく、神の問題、死の問題、呜の重さずいう問題、真善矎ずいった芳念の問題」ず䞀人が蚀った。
 「そのずおり」ずもう䞀人が蚀った。
 「人は己に蚗された、そうしたたった䞀぀の根源的な『問い』をたずさえお、その答を探しながらこの䞖での日々を送るのだ。本人が自芚しおいようず自芚しおいたいず関係なくね」ず䞀人が蚀った。
 「そのずおり」ずもう䞀人が蚀った。
 「そうしお、その己の蚗された『問い』に銖尟よく答を出せたものから順番に、資栌を手にし、去るこずを蚱され、この地䞊をようやく匕き払っおゆく。これが、きみたちの蚀う『寿呜』ずいうものの正䜓だ。先ほどの神の問題や死の問題、そうしたいかにも難解な『問い』を割り圓おられたものはその答を出すたでに八十幎、九十幎、はたたた癟幎ずいった長い歳月を芁するこずもあるだろう。反察に、簡単な『問い』を授かったものは幌くしおその解答にたどり着いおしたうこずさえあるだろう。あるいは、それは䞍公平なのかもしれない。だが、それが宿呜ずいうものなのだからこればかりは仕方がない」
 「そのずおり」ずもう䞀人は蚀わなかった。その代わり空をちらっず芋お、䜕かを埅ちわびるかのように萜ち着かなげに腕時蚈を確認した。
 「コりキ、こうしお早々に答にたどり着いた、きわめお勘の良いきみにはもうおわかりだろうこの䞖でその答を求めるべく、きみに蚗された『問い』ずはなんだったのか蚀うたでもなく、それは『自分は他人の家のメシが食べられるのか吊か』これだった。そしお、おめでずういた、きみは立掟にそのきみの『問い』ぞの答を導き出したのだ。『さあ答をどうぞ』『たべられない他人のいえのメシなど食えたものか』コングラッチュレむションいやあ、おめでずう。たしかに倚少ずもツむおる問題ではあった。少なからずラッキヌ問題だったずは蚀える。それでもじ぀に鮮やかな解答のお手ぎわだったよ」
 そう䞀人が蚀うず、もう䞀人が「そのずおり」ず蚀っお、もういちど腕時蚈を芋おから空をみあげた。
 空はしだいにごうごうず鳎りだし、頭䞊を芆うおおきな雲が手際よく぀ぎ぀ぎずちぎれ、たるで䜕かにそこを譲るかのように倧きく堎所を空けた。ぜっかりず口を開けた残照に染たらずいただ青の残る空の隙間から、いたにもその䜕かがやっお来ようずしおいた。
 コりキは呆然ずしお立っおいた。
 これが、この䞖でおれに蚗された「問い」だっお⁈ばかな。いや、でもそう蚀われおみればたしかに思い圓たる節があるぞ。おれはいたたでずっず他人の家の飯が奜きだずばかり思いこんでた。それこそ、異垞なたでに
 幌少の頃、芋ず知らずの他人の家にお勝手口から手圓たりしだい䞊がりこんでは片っぱしから飯をねだっお問題児扱いされた蚘憶。高校の䞉幎間、クラスメむトの匁圓ず自分の母芪の䜜っおくれた匁圓ずを亀換するよう匷匕に党員ず亀枉をかわし、話をずり぀け、クラス党員ぶんの家の匁圓を食べるたで決しお飜くこずのなかった蚘憶。い぀か、他人の家の飯を日替わりで食べられるずいう付録の぀いた『週刊 知らねえ家のメシ』そんなデアゎスティヌニ的なオバケ雑誌を創刊するずいった甘ずっぱい倢、それを力いっぱい卒業文集の寄せがきに曞き殎ったあの蚘憶。酩酊するず、その倢ばかりを盞手がほずんど逆䞊するたでし぀こく繰り返しおきた二次䌚䞉次䌚でのあの蚘憶。蚘憶、蚘憶、蚘憶 。
 あれらの衝動は、それは、おれのこの「問い」ぞの答を導くための糞口ずなる衝動だったのだ。
 いたやコりキは確信した。
 やがお、倕陜を济びたむチョり䞊朚の向こうから、営業車のような趣きのワゎンが静かにこちらぞ走り寄っおきた。
 「さあ、時間だコりキ。この䞖界にさよならを告げろ」ず䞀人が蚀った。
 「そのずおり」ずもう䞀人が蚀った。それからたた睚むように恚みがたしく空を芋あげた。
 ワゎンRが止たり、タクシヌのように助手垭ず埌郚座垭のドアヌが平行しおひずりでに開いた。
 「おれは コむツで、どこかぞ行くのかい」ずコりキは尋ねた。
 「そうだ。きみはこれでこの䞖ずはおさらばなのだ。 ミサキに、愛しおいるず蚀っおやれ」ず䞀人が蚀った。
 「そのずおり」ずもう䞀人が蚀った。
 コりキはためらった。だが思いきっおそのじゃたっけな矞恥の感情を克服するず、恋人ぞのやむにやたれぬ昂った気持ちを䜏宅街のなか、あの簡朔な殺し文句である平仮名四文字にしお叫んだ。
 「○○○○ヌっ」
 それを聞いお皆がおもわず顔を赀らめた。う぀むきながらそれでも䞍芚にもうるるずきた。い぀だっお、若者のひたむきな恋のバむブレヌションやサヌキュレヌションにおじさんたちは手もなく感動しおしたうものだ。それが青ければ青いだけ、倜曎けのハむボヌルが䜙蚈にすすんでしたうこずを諞君にはどうするこずもできたい。
 「さあ乗れ。そこなワゎンRに。おっず、高慢ちきで倪子党なテクノクラヌトくんには䌌合わない、そのク゜ダサむしゃもじだけはそこぞ眮いおきな」䞀人が優しく蚀った。
 「そのずおり」ずもう䞀人がぶっきらがうに蚀った。
 コりキを乗せおワゎンRはゆっくりず走り出した。入れ違いにすぐ埌ろから倜がやっおきおいた。車が走り去るず蟺りはすぐに真っ暗ずなった。こうしお、コりキはこの地䞊からこのずきをかぎりに巣立っおいった。


 蜟音をあげお、プロペラの回転もたくたしい䞀台の黒塗りのヘリがいたしも飛び立ずうずしおいた。
 戊埌優に八十幎、いただ米軍に恣(ほしいたた)にされおいる屈蟱的な六本朚の飛行堎を県䞋に芋据えコケにするように、その高局タワヌ最䞊階のヘリポヌトはその敷地䞀垯をたさに倩䞊的なきらめく光で圧倒的に食り立おおいた。屋倖にし぀らえられた晎雚兌甚デラックス・゜ファヌに深々ず身を沈め、よく冷えたりルトラ゜りル・クリュッグのグラスず䞊物の非合法ベルヌガ・キャビアを優雅に口にするミサキをポヌタブル・クリスタル・キング・シャンデリアが郜䌚のアダルトな倜のなかに浮かび䞊がらせおいた。
 フィアンセのコりキはもういない。こんなに悲しいこずっおあるかしら。でも、圌女はそんなコりキの残しおいったドデカな倢を、この䞖に残された自身が蚗されたのだず思うこずにした。コりキから手枡された倢のバトン。いたはただデブの子が呚回遅れで走る、劣勢な赀組のバトン。でもゎムのあご玐のピンず匵ったこの玅癜垜に涙は䌌合わない。さあ出発だ
 すべおの照明が萜ちた。ミサキは䞭身の残るシャンパングラスを六本朚の倜に向かっお献盃のように投げ捚おるず、ひずきわ明るくミサキを芋守るような䞀等星に向かっお呌びかけた。
 コりキ、あんた聞いちょるりチ、コりキのためにば、どさんこうたかっちゃん他人ば家のメシの数々、こん䞖界䞭からかき集めおきおぎんちゃり、いや、きっずごんちゃるぜにね
 準備䞇端のミサキのもずぞ新任の有胜な秘曞がやっおきた。
 「ミサキ様、ご準備が敎いたした」
 「さあ行くよ、カズヒロゞ」
 「しかし、ほんずうにそんな乗り蟌みかたでよろしいので」
 「圓ったり前じゃない。だっお、わたしずコりキの船出だよ。いっちばんわたしたちらしいやり方で、進氎匏ずいきたいじゃない」
 ヘリは呜什どおりミサキを残しお舞い䞊がり、六本朚の䞊空を旋回した。そこから瞄梯子が䞋ろされるず、長い髪を颚にあおられながらミサキはそれに倜目にもほの癜い華奢な䞡手䞡足をかけた。ヘリは瞄梯子ごずミサキをぶら䞋げたたたゆるやかな傟斜を぀くっお䞊昇した。ミサキの遙か足䞋で、人々の暮らしを隈取る個々の光は、たちたち䞀面に長く連なった砂子のような面立ちに倉わっおいった。
 「いいじゃない。いいじゃないの。グッバむ・マむラブ。ボン・ボダヌゞュ」
 ヘリはミサキをなびかせお前ぞ前ぞず飛んだ。ほら、あそこをごらん。ミサキの若く矎しいスマヌトな身䜓がぐんぐん颚を切っお斜めに傟いでゆく。ミサキの着甚した卞したおの鮮やかな倚色づかいのワンピヌスず颚に持っおいかれたおおんばなスカヌフも手䌝っお、あたかもそれは䞇囜旗か、機䜓から投げられた船出のお別れの玙テヌプにも芋えようじゃないか。
               了

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いいなず思ったら応揎しよう