夜明けの吐瀉
違和感と共に早朝、目覚めて、体調すぐれないなか、単行本が収められた本棚の掃除を始める。
あまりにも体と気が重く、だからこそ慎重に作業を進めていた。
なんとか終えて、午前5時45分。
何かの限界を超えたのか、自然と足取りはトイレに向かった。
前日、ビールを飲んでいて、アテは甘エビの唐揚げ(ガーリックシュリンプ風)とポテトフライ。
楽しく、美味しく、食べて呑んで、早めに眠りについた。
便器に吐き出されたのは、それらが咀嚼され、消化されきる前の物たち。
大量に、茶色の洪水が白い便器を染め、流され、また吐きを繰り返す。
それによって体調が歴然と改善される。
一方で、せっかく美味しく食べたものをウンチにすることが出来ずに流してしまうのは、哀しいことである。
揚げ物に負けたのか、もう年なのかという事実、変化を受け入れるしかない現実。
そんな思いを抱えながら、午前6時、曇り空の下、庭仕事を始める。
先週、手洗いでさっぱりした作業用のシャツとズボンを着て、やる気をだして作業をすすめると、すぐに汗が流れだす。温度はそうでもないが、湿気が汗を絞りだす。
体力の衰えか、体調なのか、泥濘を泳ぐような感覚で、雫が頬を伝うなかでなんとか作業を終える。
トイレ掃除をさっと終えて、たまらずシャワーを浴びる。
「揚げ物の量を減らすしかないな」
当然の結論である。
四十のおっさんが、二十歳のように飲み食いしたら、
「それは無理ですよ」
と、胃腸に即答されてしまう。吐き気と共に。その現実を噛みしめて、部屋とエアコンのフィルター掃除を終えていく。
空は曇り。雨は大丈夫そうだ。家をでて走ったが、目の前でバスが走り去った。
まぁいい、待つだけだ。時間はある。
次のバスがやってきて、気づけば駅前、いつもの日高屋。
いつもの野菜たっぷりタンメン(麺大盛)と、炒飯(大盛)。
早朝に昨日の酒のアテを吐き出したというのに、この食欲。辻褄が合わない。順調に食べ進めていく。
どこの日高屋で食べても美味しい「完璧な六割の味」に舌鼓を打ち、完食し、金を払い、電車にのって今日の目的地は鶯谷の「古書ドリス」へ向かう。車内の外国人の多さに気付きながら、しかしそれにも慣れたことを自覚し、鶯谷駅で降り立った。
まだ天気は曇りでもっている。
跨線橋を渡り、短い高架下を抜け、日高屋を横目に横断歩道を渡る。
古書ドリスに直行、
さて、昨日SUGARHILLのレザージャケットを売却して得た45,600円と、当初の予算と、先週の余りを足した58,400円が今日の予算となる。
特に高額な本を買う予定はないので、かなり余る予定で入店した。
ひと通り眺めて、熟慮の末、結局は16,500円する古書(ある人の蔵書票つき)を買ってしまった。
それはフライングで書いてしまうが、
永井荷風の『珊瑚集』である。
永井荷風が自らの琴線に触れた詩を選んで日本語に移した訳詩集。
甘美な恋愛をうたう一方で悪や死に牽かれてゆく冷酷な心理、また享楽主義といった荷風文学の諸要素が早くも表れている(岩波書店のサイトより)
大正2年(1913年)に発行された古書。
ちなみに岩波文庫で出ているので、千円以下で買うことはできる。
しかし、これは113年前の本です。美しい装幀(函はなし)と、旧字体での表記、時の流れを感じさせる茶色味がかった紙の色、天金。
この時代の本でしか醸し出せない雰囲気を感じながら、一つ一つの言葉を噛みしめながら、沁み込ませるように、読む。
これぞ古書の魅力である。
金額的に45,600円の臨時収入があるこのタイミングでしか、手が伸びそうになかった。
仕方が、なかった。
ほか五冊も含めて、21,100円使ってしまった。
颯爽と店を出る。
ま、35000円以上、来週に繰り越しだから、いいのだよ。
結局は大金を持っていると、気が大きくなり、この様である。
満足はしている。
別格な書物を入手した、格別な休日。
それでいいではないか。
