【第4話】自分の役目はここまでだ──プロダクト開発を終えて、次の道を選んだ日
ミャンマーでの採用活動、多国籍チームの立ち上げ、東南アジア各国での商談、アメリカでの研究。
あの時期は、これまでの価値観が何度も書き換わるほど濃い経験だった。
出国したり帰国したりの繰り返し。帰国してからも、流通業・製造業向けの提案、業務改善、WMSや受発注システムの開発など、
いくつもの案件を同時並行でこなしながら、営業、プリセールス、コンサル、PM、SE……
自分にできることは何でも引き受けた。
走り続ける中で、ひとつの転機が訪れた。
■ プロダクトマネージャーへのオファー
「製品化したいシステムがある。手伝ってもらえませんか?」
ある事業会社の社長から声がかかった。
過去のパッケージ開発・導入の経験を持っていた僕にとって、これは“やる理由しかない”話だった。
しかも、ターゲットは大手企業。
ベンチャーでは、0→1の立ち上げは日常だったが、
「本格的にプロダクトを作る」 のは初めてだった。
顧客の課題を整理し
市場の流れを読み
どんな仕組みなら価値が出るのか
どの機能を削り、どこに集中するべきか
どう差別化するか
すべてを自分の頭で考え、構造化し、仕様に落としていく必要があった。
0→1は大変だが、同時に“自分の知識と経験の総力戦”でもあった。
■ 0→1の知的な苦しさと楽しさ
プロダクト開発は、派手さはないが、とにかく頭を使う。
仕組みとしての美しさ
運用の現実
コストとROIのバランス
シンプルであることと、要求を満たすことの両立
仕様書を何度も書き直し、
「何が本当に必要なのか」を深掘りする作業は、正直しんどかった。
でも不思議と、嫌ではなかった。
むしろ楽しさすらあった。
海外で鍛えた“視野の広さ”が活きていた。
技術・業務・ビジネス・ユーザー心理──それらが一つの線でつながっていく。
僕はこの仕事に没頭した。
■ 大手企業から正式に“受注”
プロダクトの骨格が固まり、いくつかの企業に提案した結果、
大手企業から正式に受注が決まった。
そのまま要件定義フェーズも担当したが、
顧客との対話を通じて、プロダクトの方向性が再確認できる時間でもあった。
形にしたものが認められる
市場に届く
次のフェーズに進む
プロダクトづくりの“醍醐味”を味わった瞬間だった。
しかし、この達成感の裏側で、
僕の中にもうひとつの感情が芽生えていた。
■ 「この先は、自分でなくてもできる」
プロダクトが形になり、顧客に受け入れられ、要件定義まで終わると、
次のフェーズは
カスタマイズ
導入
標準化
運用保守
横展開の仕組みづくり
といった、いわゆる“1→10”の仕事が中心になる。
これはこれで重要なフェーズだ。
むしろ企業としてスケールするのは、ここから先だ。
ただ、不思議と僕の中で、ふっと思った瞬間があった。
「この先の工程は、自分じゃなくてもできるのでは?」
プロダクトを生み出す「0→1」は確かに好きだし得意だ。
でも“1→10”のフェーズは、他の人がもっと上手にできるはずだ──
そんな確信にも近い感情が芽生えた。
この感覚は、キャリアの方向性を考えるうえで、とても大きかった。
■ キャリアを棚卸ししたときに見えた“穴”
海外でのチームビルディング、物流・製造・流通の案件、
提案・コンサル・PM・開発、プロダクトの0→1──。
経験は広がっていた。
しかし、業務システムを長く扱いながら、
基幹システム(ERP)というコア領域は未経験のままだった。
会計・在庫・購買・販売・生産。
部分部分は経験していたが、一連の企業の全体最適を考えるなら、会計を中心とした領域の知識は避けて通れない。
そこでようやく気づいた。
「自分のキャリアには大きな穴が残っている」
そして、プロダクト開発をやり切ったことが、
この“次の課題”を浮かび上がらせた。
■ ERPベンダーへの転職を決意
以前から誘ってくれていた営業責任者のいる会社は、
ERPを専門に扱っていた。
ここに飛び込めば、
企業の基幹業務を深く理解でき、
自分の“穴”を埋められる。
プロダクトが受注し、要件定義が終わったタイミングは、
まさに区切りの瞬間だった。
僕は ERPベンダーへ転職することを決めた。
■ 若手エンジニアへ伝えたいこと
「キャリアには“役目を終えた瞬間”がある」
プロジェクトでもプロダクトでも、
全力で取り組んできた仕事には、必ず“役目を終える瞬間”がある。
「もう学び切ったかもしれない」
「自分より適任がいるかもしれない」
「次のステージへ進むべきかもしれない」
こうした感覚は、キャリアの転機を知らせるサインだと思う。
“やり切る力” も大切だけど、
“手放す力” も同じくらい大事だ。
役目を理解し、自分が価値を出せる次の場所を選ぶこと。
それもまた、キャリアを前に進めるための重要なスキルだと思う。
■ 次回:ERPの世界で待っていた“地獄フェーズ”
プロダクト開発をやり切り、
役目を終えて次へ進む覚悟を決めた僕だったが、
転職先のERPベンダーで待っていたのは、想像以上の試練だった。
炎上ERPプロジェクト。
1日200通の問い合わせメール。
混乱の渦の中で、逃げたい気持ちと戦い続ける日々──。
次回(第5話)は、その時の話を書きます。
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