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タイの湯気ノムコウvol.12 争いとガスステーションの列-2

― 静かで不安な朝 ―

昨日の朝、
偶然にも列のないガスステーションに
出会った。

まだ朝7時半。
空気はすでに温く、
オレンジ色の雲がゆっくりと広がっていた。

ガスステーションを、地元の人たちは
「パム・ナムマン」と呼ぶ。  

パム(ปั๊ม)はポンプ。  
ナムマン(น้ำมัน)は、「ナム=水や液体」と「マン=油や脂」が組み合わさった言葉で、文字通り「油の液体」、
つまり車の燃料を意味する。  

日本語の「ガソリンスタンド」という
少し整った響きとは違い、
この言葉にはもっと生活に近い感覚がある。  

燃料を入れる場所というより、  
暮らしを動かす液体を補充する場所。  

そんな現実的で、どこかタイらしく
素朴な意味合いを含んでいる。

若い店員は、プレミアムディーゼルなら
給油できるという。

ただし、購入上限は1000バーツ。

メーターは
1リットル44.69バーツを示していた。
日本円でおよそ224円。

この国では
45バーツあれば
セブンイレブンで弁当が一つ買える。

その感覚で言えば、
燃料はとんでもなく高い。

スピードメーターの隣の針は
満タンから、まだ2目盛ほどしか
傾いていなかった。
だけど、給油をお願いすることにした。

生活を動かすための
静かな選択だった。

夕方、
主要幹線沿いのガソリンスタンドには
やはり長い列ができていた。

そして今朝。

同じ時間に訪れると
すでに販売停止の張り紙が貼られている。

「タンクローリー輸送待ち」

ディーゼルだけではない。
ガソリンのノズルにも紙が
貼られている。

残った燃料を売り切れば、
店はそのまま開店休業のようになる。

思っていたより
事態は深いところまで
来ているのかもしれない。

ディーゼル輸送待ちの張り紙
ハイオク、レギュラー、ディーゼル共に売り切れ


駐車場の隅には、
中国資本のBYDやMGのEVが
涼しげな顔で並んでいた。

まるで別の国にいるように。

MGブランドの EVとガスステーション


一台の古いトラックが入ってくる。
そして張り紙を見ると
止まらずにそのまま通り過ぎていった。

仕事は待ってくれない。
けれど燃料は待たなければならない。

遠い国で起きている争いが
この国の物流の速度を
ゆっくりと変え始めている。

国内フライトのキャンセルが出始め、
ショッピングモールの客足にも
わずかな陰りが見える。

外食産業にも
小さなブレーキの兆候があるという。

タイのGDPは近年、
2%前後の微増が続いている。

強く伸びるわけでもなく、
崩れるわけでもない。

この絶妙なバランスの上で
新しい政府は舵を取ろうとしている。

それでもこの国の人々は
驚くほどしなやかだ。

クーデターも、通貨危機も、
洪水もパンデミックも、
予測できない出来事を
笑顔と合理的な判断で乗り越えてきた。

国外へ出ていく人もいる。
逆に、国外から流れ込んでくる人もいる。

世界が揺れるたび、
この国の呼吸も少し変わる。

安定という言葉は
まだ遠くにあるのかもしれない。

けれど、
ガスステーションの列の中で
人々は今日も待つ。

明日を止めないために。

タイの湯気ノムコウでは、
国際情勢はニュースより先に、生活の速度をそっと変えていくのかもしれない。


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