タイの湯気ノムコウvol.24 争いとガスステーションの列-3
― 1リットルが昼ごはん一食分になった日 ―
朝の空気はまだ少しだけ静かだった。
けれど市場へ向かう途中、
いつものように立ち寄った
PTT Station の価格表示が、
今日は違う意味で目に入ってきた。
プレミアムディーゼル 61.34バーツ。
日本円で約307円/L。
思わずスピードを緩めて
もう一度数字を見直した。
15日前に同じPTTのガスステーションで
見た価格は、44.69バーツ だった。
日本円で約223円/L。
わずか2週間で、
16バーツ以上も上がったことになる。
日本円で約80円だ。
この国で60バーツといえば、
ローカルのレストランで
昼ごはんを食べられる金額だ。
カオマンガイでも、
ガパオでも、
カオソーイでも手が届く。
日本の感覚に置き換えるなら、
だいたい 900円前後の昼食代 に近い。
つまり今は、
1リットルのプレミアムディーゼルが
昼ごはん一食分の値段
になったということだ。
数字だけを見るより、
その方がずっと現実に近い。
日本もタイも、
どちらも産油国ではない。
それでも価格の見え方が大きく違うのは、
市場の問題というより、政府がどの段階で
現実を店頭価格に反映させるかの
違いなのだと思う。
日本は今、
政府が巨額の補助金を入れて
170円前後に見えるように
毎日少しずつ価格をならしているようだ。
一方タイは、
Oil Fuel Fund という基金でしばらく耐え、
そのクッションが薄くなると
ある日突然、数字を戻す。
実際この3月、
基金の補助負担は一日25億バーツを超え、
赤字は281億バーツまで膨らんだと報じた。
だから日本では
「じわじわ高い」と感じ、
タイでは
「急に価格が変わった」になる。
同じ輸入国でも、
現実の見せ方が違うのだ。
街の景色はかなり変わった。
給油の列は相変わらず長い。
けれど人々の表情は、
最初の驚きよりも、計算に近づいている。
あと何日走れるか。
この配送は利益が出るのか。
明日の市場への配達はどうするか。
遠い国の争いは
ニュースより先に
生活の速度を変えていく。
今日は、その感覚が、
さらに深くなった。
Reutersでもこの1週間、
タイ最大級の漁港サムットサコーンで
燃料高騰により漁船の半数以上が停泊、
「コロナ禍以上の危機」と報じられている。
市場の冷凍魚。
カオマンガイレストランの鶏肉。
農業用ポンプ。
観光バス。
配送トラック。
この国のあらゆる移動コストが
少しずつ上書きされていく。
それでもタイの人たちは、
こういうとき不思議なほど静かだ。
怒るより先に、
今日を回す方法を探し始める。
配送をまとめる。
遠出をやめる。
少し値上げする。
笑う。
この国のマイベンライは、
楽観ではなく、危機の中で
生活を壊さないための知恵なのだと思う。
タイの湯気ノムコウでは、
ガスステーションの数字が上がるたびに、
人々の暮らし方が静かに
変わっていくのかもしれない。
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