尹錫悦政権崩壊で日韓関係はどう変わる? 在日韓国人の視点で読み解く
2024年12月3日深夜、私はスマートフォンの速報通知で目が覚めた。
「韓国・尹錫悦大統領が非常戒厳を宣言」
最初、読み間違えたかと思った。非常戒厳——それは韓国が1979年以来、一度も使っていなかった言葉だ。
結末はご存知の通りだ。宣言から約6時間後に戒厳は解除され、2024年12月に国会で弾劾訴追案が可決。2025年4月4日、憲法裁判所は裁判官8名全員一致で尹錫悦を罷免した。そして2025年6月3日の大統領選挙で李在明(イ・ジェミョン)氏が当選し、翌4日に大統領に就任した。
日韓関係は、これからどうなるのか。 在日韓国人として、両国の感覚を持つ人間として、正直に分析する。
尹錫悦政権下の日韓関係:異例の「改善期」だった
まず前提として押さえておきたいことがある。
尹錫悦政権の2022〜2024年は、日韓関係史上でも稀な「急速な改善期」だった。
徴用工問題で韓国政府が独自の解決策を提示し(日本企業の拠出なしに韓国の財団が補償する形)、日韓首脳のシャトル外交が復活。日米韓の安全保障協力が深化し、「戦後最悪」と言われた文在寅政権期からの関係を大きく改善させた。
尹錫悦は「価値観外交」を掲げ、自由民主主義の同盟国として日本との連携を重視した。これは韓国の歴代保守政権の中でも、ここまで踏み込んだ対日協調は珍しかった。
その尹錫悦が消えた。では日韓関係も元に戻るのか?
李在明政権:「反日」ではなく「実用主義」の読み方
李在明氏は、過去に反日的な発言をしたことで知られている。 日本側の一部では「関係が悪化する」という懸念が広がった。
ただ、現実はもう少し複雑だ。
選挙戦中、李在明氏は「日本は大切なパートナーだ」「日本人が好きだ」と繰り返し述べ、対日融和姿勢に転換した。政権発足後も「実用主義外交」を掲げ、日韓関係の大幅な悪化は避ける方針を示している。
なぜ転換したのか。理由は二つある。
一つは、韓国国民の「反日」への関心が以前ほど高くないことだ。韓国の若い世代は、日本文化(アニメ・音楽・ファッション)に親しんでおり、反日を政治の前面に出しても票にならない時代になっている。
もう一つは、経済的な現実だ。韓国経済は半導体・自動車などで日本との技術協力が不可欠であり、対日関係を壊すことのコストが大きすぎる。
つまり李在明政権は「反日」ではなく「問題があれば主張するが、大局では協力する」という実用路線になる可能性が高い。
在日韓国人から見た「温度差」
ここで、メディアではあまり語られない視点を加えたい。
在日韓国人として、私は韓国の「世論の変化」を肌で感じている。
韓国の知人と話すと、尹錫悦への怒りは非常に大きかった。「戒厳令」という言葉は、韓国人にとって軍事独裁政権の記憶と直結する。それを民主化後の大統領が使ったことへの衝撃は、日本のメディアが報じる以上に深刻だった。
一方で、「日本との関係」については、若い世代ほど現実的だ。 「歴史問題は大事だが、だからといって日本と関係を切ればいいとは思わない」という感覚が、韓国の20〜30代には広がっている。
尹錫悦の崩壊は「日韓関係の後退」ではなく、「韓国の民主主義の揺れ」として捉えるべきだ。
今後の日韓関係:3つのシナリオ
シナリオ①:実用路線が続く(最も可能性が高い) 李在明政権が「経済・文化協力を優先し、歴史・領土問題では主張しつつも関係を壊さない」路線をとる。日韓関係はやや後退するが、尹錫悦期ほどの蜜月でなくても安定した関係が続く。
シナリオ②:歴史問題が再燃する(中程度の可能性) 徴用工問題の解決策見直し、慰安婦問題での強硬発言など、国内向けに対日強硬姿勢をとる場面が出てくる。選挙後に支持率が下がった場合、「反日カード」を切るリスクがある。
シナリオ③:構造的な改善が進む(長期的な可能性) 日韓国交正常化60周年(2025年)を節目に、民間交流・経済協力が深化し、政権によらない安定した関係の「土台」が育つ。
在日韓国人として思うこと
私が一番危惧しているのは、政権交代のたびに日韓関係が大きく揺れる「構造」が変わらないことだ。
日韓関係は長年、大統領の個人的なスタンスに左右されすぎてきた。 尹錫悦のように「改善」を打ち出せば急激に良くなり、交代すれば元に戻る。 この繰り返しは、両国の市民レベルの信頼構築を阻んでいる。
本当の意味での日韓関係の安定には、政権が変わっても揺らがない「民間・文化・経済のつながり」を厚くすることが必要だと思っている。
K-POPや韓国料理・日本のアニメや漫画が当たり前に共有されている今の時代は、そのための土台になりうる。
政治は揺れる。でも人と人のつながりは、揺れにくい。
まとめ
尹錫悦は2025年4月4日に憲法裁判所の全員一致で罷免。李在明が2025年6月4日に大統領就任
尹錫悦政権は日韓関係の「異例の改善期」だったが、李在明政権は「実用主義路線」に転換
韓国の若い世代は反日より現実的な日韓協力を支持する傾向が強まっている
日韓関係は大幅悪化より「やや後退した安定」になる可能性が最も高い
政権に左右されない民間・文化レベルのつながりを厚くすることが長期的な安定のカギ
この記事では触れられなかった「韓国の国内政治と日本の安全保障への影響」については、今後、有料記事で詳しく論じていこうと思います。
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