同じ仕事なのに、給料は2倍だった - NHSで起きていること
医者が消えた日、私は“時給2倍”で病院に入った
医者が、いなくなった日があった。
ストライキが始まると、病院から一斉に医師が消える。
その空白を埋めるために呼ばれるのが、「Locum(バイト医)」だ。
私は、その一人として現場に入っていた。
普段の倍以上の報酬で。
同じ仕事のはずなのに、
ある日は「必要とされる存在」で、
ある日は「ただの穴埋め」になる。
その違和感が、ずっと消えなかった。
「Take shift」という戦場
救急外来から流れ込んでくる患者を、ひたすら診続けるシフトがある。
「Take shift」と呼ばれるものだ。
終わりはない。
一人を見終わる前に、次の患者が待っている。
やることはシンプルだが、重い。
入院が必要か判断する
帰せるならフォローを組む
危険ならICUに送る
一つひとつの判断が、命に直結する。
そして、その判断を止まらずに続ける。
忘れられない夜
IMT1として働き始めたばかりの頃。
夜勤は、私とIMT3、GP traineeの3人だけだった。
明らかに、人が足りていなかった。
その日、私は立て続けに
「好中球減少性敗血症」(neutropaenic sepsis) の患者を担当することになった。
慎重さが求められる症例だった。
でも現実はシンプルで残酷だった。
時間をかければ、次が詰まる。
スピードを上げれば、誰かを見落とす。
どちらも許されない。
さらに、余裕を失ったレジストラの声が飛ぶ。
「まだ?」「早く行って」
今なら分かる。
あれは怒りじゃない。不安だった。
でも当時の私は、その言葉で思考が止まった。
完全にフリーズした。
「人が足りない」の本当の意味
人手不足は、“忙しい”という話では終わらない。
一人あたりの判断負荷が跳ね上がる
チームの空気が荒れる
ミスが起きやすくなる
そして、人が辞める
この連鎖は、確実に患者へ届く。
ロンドンでは見えにくい。
でも、私が働いていた地方では違った。
冬になると、患者が廊下に並ぶ。
ベッドが足りない。人も足りない。
それでも、患者は来る。
ストライキの“裏側”
イギリスでは、医師のストライキが繰り返されている。
理由はシンプルだ。
2008年以降、給与は実質20%以上下がった。
医師たちは、その回復を求めている。
でも問題は、それだけじゃない。
過酷な労働環境
燃え尽き
研修後のポスト不足
高額な試験費用
積み重なった歪みが、限界に来ている。
そして皮肉なことに、
ストライキで医者がいなくなると、
病院は“時給2倍”で医者を呼び戻す。
私は、その現場にいた。
崩壊は、もう始まっている
NHSは「限界に近い」のではない。
もう、超えている。
治療まで何ヶ月も待つ
必要な検査ができない
入院すべき人が入院できない
本来あってはいけないことが、日常になっている。
それでもシステムが回っているのは、
医師の責任感と善意が支えているからだ。
最後に
医療は、どこまで「無料」であるべきなのか。
その裏で、誰がどれだけの負担を背負うのか。
同じ仕事なのに、
ある日は低く評価され、
ある日は高く買われる。
その歪みの中で、私たちは働いている。
このシステムは、本当に持続可能なんだろうか。
それとも私たちは、
「壊れないこと」を前提にしすぎているだけなのかもしれない。
この状態を「維持」と呼ぶのか、それとも「延命」と呼ぶのか、、
