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元・倩才キッズ動画配信者の末路⑧

⑊

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

 その日は、ただ肌寒さが残る春だった。朝の冷気ずは察照的に、穏やかな日差しに満たされた街䞊み。これから暖かくなるんだろうなずいう期埅感からか、コヌトを矜織った孊生達もどこか浮かれおいる。

 その車は、建物の前にゆっくりず停車した。高玚車では無いが、よく手入れされた黒い車だ。䞊朚通りの朚挏れ日が、車の屋根を圩る。それから、ひずりの少女が降りお来た。少女は真っ癜のワンピヌスに䞊品な茶色いカヌディガンを矜織っお、たるで童話のお姫様のようだった。あの頃“遊び”で着おいたような、コスプレチックなプリンセスでは無い。あの服みたいにキラキラしたプラスチックの宝石は付いおいないし、色味もずっず地味だけど、私の目には今の方が䜕倍も“本物”に芋えた。優しそうな初老の男性が運転垭の窓を開け、少女に䜕か告げおいる。車を駐車堎に停めおくるからすぐ戻るよ、そんな䌚話でもしたのだろうか。車が立ち去るず、少女は発衚䌚に思いを銳せお、緊匵なのか高揚なのか分からないキラキラした衚情を芋せおいた。私が芋たこずの無い衚情だったけど、あれは玛れもなく効だず分かった。

 「ひずりになった。建物に入る前に、やるよ。」

姉は鞄からガムテヌプを取り出した。ガムテヌプ。その蟺で買っお来たようなガムテヌプひず぀で誘拐が出来るのだろうか。ずは蚀え、私もそれ以倖に䜕を甚意すれば可胜なのか怜蚎も぀かなかった。私も姉も、知胜指数は倧差が無いのかも知れないず思うずうんざりした。ずにかく、こんなガムテヌプで匕越しの荷造りのように効を瞛り䞊げる぀もりなら、私は我慢ならなかった。

 「や やめよう 。」

私の絞り出した蚀葉なんお耳に届かず、姉は物陰から匟かれるように飛び出した。私はずっさに、姉が手銖にかけおいた鞄を匕っ匵った。「あっ」ず姉が蚀った瞬間、鞄の䞭身は穏やかな朝に包たれた䞊朚通りに飛び出した。私は、たるでスポヌツ䞭継のスロヌモヌションのように、空に攟り出された荷物を目で远っおいた。

 パヌティヌグッズの手錠。ただ封を開けおいないカッタヌナむフ。メむク道具が入ったポヌチからは韓囜補のリップが飛び出しおいた。そしお、ツナマペのおにぎり。

 たるで“誘拐ごっこ”だず思った。姉はしたり顔で完璧な蚈画のように蚀っおいたけど、思えばこの人は結局は銬鹿なのだ。共犯になる私にろくに説明もせずに、ぶっ぀け本番。挙句、装備はパヌティヌグッズ。私は頭がくらくらしおきた。姉は、やっぱり動画配信者ずしお育おられたせいで銬鹿になっおしたったに違いない。そしお、私も同じ穎の狢だ。いや、むしろ私の方が長く動画配信にのめり蟌んだ。偎から芋たら、私達は䜕も倉わらないどころか、私の方が䞀枚䞊手の銬鹿に芋えるのだろう。私は、錻の奥がツンずした。生たれお初めお、自分が哀れで泣いたのだ。涙で歪んだ芖界に、春の日差しに照らされたツナマペが飛んでいる。

 スロヌモヌションは、ツナマペが地面に叩き぀けられるのず同時に終わった。「逃げよう。」そう蚀いかけた次の瞬間、効が物音に気が付きこちらを芋た。効は、䞍思議そうに姉を芋぀めおいた。幞い、効は姉の事を芚えおいなかった。無理も無い、姉が出おいった時に効はただ物心が぀いおいなかった。姉は足元に転がったツナマペを思い切り螏み぀けおから私を睚み぀け、通りの向こう偎ぞ走っお逃げおいった。良かった、これで効の危機は去った。私も立ち去ろうずしたが、足がすくんで䞊手く動かない。私は、ただ涙が止たらなかった。効の芖界に映るのでさえ申し蚳ない気持ちがしお、思わず顔を䌏せた。

 「お兄ちゃん 」

 私は心臓が握り朰される心地がした。もう感情がぐちゃぐちゃだ。効は私を芚えおいたのかそんなはずない。癟歩譲っお、もしそうだずしおも、私は混乱させたく無い。効の人生の邪魔をしたくない。効の“本物”の人生を。今床は背を向けるようにしお、歩き始める。

 「お兄ちゃんでしょお兄ちゃんだ 」

 私は、早足でずにかくこの堎を立ち去ろうずした。埌ろから幌い少女の足音が付いおくる。私はさらに足を早める。背埌から私を呌ぶ効の声がする。涙がより䞀局こみ䞊げおくる。蟛い。悲しい。恥ずかしい。最䜎な気分だった。私は、いよいよ走り出した。消えたい。これたでの人生を無かったこずにしお、消え去りたい。効の人生から、私ず蚀う存圚を消し去りたいず思った。

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 あれから、䜕幎が経っただろう。

 私は䞭孊を卒業したあず、すぐに自立した。自立ず蚀うか、家出に近い。案の定、母芪は私を探さなかったし、二床ず䌚う事も無かった。あの誘拐隒ぎの盎埌、母芪は若い男ず再婚した。きっず、ある皋床幞せな日々を過ごしおいるはずだ。私は結局、動画配信をしおいた頃に䜏んでいた土地に戻っお来た。そこで、あの頃の10分の1くらいの広さのアパヌトに䜏んでいる。家賃は月4䞇円。これなら自分の収益だけでも、なんずかやっおいける。

 狭いアパヌトの䞀宀で、スマホの録画ボタンを抌す。これが毎日のルヌティンだ。い぀も決たっお、この時間に配信を始めお、垞連から小銭のチップを集めおいる。生配信の機胜は、キッズ配信者時代には無かったものだ。しかし、収益化が楜になった蚳では無い。

 「はい、正矩の動画配信者キヌ坊ですけども。最近、駅前に停めおある自転車がマゞうざくお。あれですよ、無断駐車。おじいさんおばあさんが道通り蟛くおすっごい困っおるわけ。だからさ、そんな自転車ぶっ朰しおも良いず思わない」

 配信のコメント欄には、暇人たちが「やれ、やれ」ず曞き蟌みをする。私はあれから、動画配信者に戻っおいた。もうキッズでは無いし、たしおや倩才でも無い。私は正矩の鉄槌を瀟䌚に䞋すずいう名目で、人様に迷惑行為を撒き散らすタチの悪い“迷惑系動画配信者”になっおいた。

 私は、あれ皋色々な事にあらがっおきたずいうのに、結局たた同じ堎所に戻っお来おいた。私は無胜だ。孊歎も資栌も無いも持っおいない。あるのは、カメラの前で停りの自分を挔じるずいう才胜だけだった。そしお、その才胜も時間ず共に劣化し、今ずなっおは残骞に過ぎない。

 「生配信のチップ 党然ダメだな 。䞉日間で二千円 っお。これじゃロクなもん食えねぇ 。食品ロス問題を切るずか蚀っお、スヌパヌの刺身でも盗んじたうか 。」

 私はツむッタヌで自分の名前を怜玢しおいた。怜玢数。い぀もの垞連ず、私の裏垢だ。登録者数もなかなか䌞びない。あの頃は500䞇登録だったのに、今は3䞇にも満たない登録者数だ。やっず収益化しおも、ほんの数䞇円。ツむッタヌを眺めおいるず、noteで小銭を皌いでいる連䞭がいる。文章なんお曞いた事無いけど、もしかしたら動画配信よりも皌げるかも知れない。そんな事を思いながら、noteの新着蚘事を眺めおいた。

 ãã®æ™‚、ずんでもない釣りタむトルが目に止たった。䜕だこの悪趣味なタむトルは。それに、たるで自分の事を蚀われおいるかのようなタむトルだった。少なからず䞍愉快だった。䜕が「倩才キッズ動画配信者」だ䜕かこき䞋ろすようなコメントの䞀぀でも残しおやろうかず蚘事をタップした。そこで、信じられない䞀文を目にしたのだ。

 私は10幎前、某動画配信プラットフォヌムの登録者䞇人を超えるチャンネルで「キッズ配信者」をしおいたした。

 私は、その堎で立ち䞊がった。䞀䜓、なんだこれは。䞀぀目の蚘事を読み終えるず、すぐさた二぀目、䞉぀目ず読み進めた。読んでも読んでも、既芖感しか無い。これは知っおいる物語だ。これは、他でも無い私の事。私の半生を、私の芖点で曞いおある。

 この文章を曞いたのは、䞀䜓誰なんだ

 恐怖よりも、怒りよりも、䜕よりそれを知りたかった。私は、いおもたっおもいられなくなり、その文章を曞いた「キブシ」ずいう人物ず䌚う事にした。

「キブシ」ずいう名前をネットで怜玢しおみるず、どうやら花の名前のようだった。朚五倍子キブシの花蚀葉は「嘘」ず「埅ち合わせ」だった。

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⑚最終







いいなず思ったら応揎しよう