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ウォルマート研究⑥ 光と影。その犠牲にしてきたもの

世界最大の小売王者、ウォルマート。 その繁栄の裏側には、血の通った「理想」と、冷徹な「合理性」が同居していました。

今回の核心は、「圧倒的な低価格は、誰の犠牲の上に成り立っていたのか」という問いです。

こんにちは、サプライチェーン・マニアの瀬崎健です。

前回は、世界に先駆けた「衛星ネットワーク」によるDXの凄まじさを読み解きました。 情報という武器で物流の無駄を削ぎ落とした彼らは、まさに無敵の巨人に思えました。

しかし、効率の極致は別の歪みを生んでいくことになります。 今回は、世界一の売り上げを誇る企業の「影」に迫ります。

削られたのは「コスト」ではなく「生活」

ウォルマートの代名詞「エブリデー・ロー・プライス(毎日安売り)」。

消費者は歓喜しましたが、その原資はどこから来たのでしょうか。

創業者のサム・ウォルトンは、自伝でこう告白しています。

「初めはとてもケチで、従業員の給料はものすごく低かった」と。

1990年代後半、時給は競合店より20%〜40%も低く設定されていました。 それは、家族4人の生活が立ち行かない「貧困ライン」に相当する水準でした。

多くの従業員は「正社員」でありながら、週の労働時間を35時間未満に制限して「残業代」を組織的に回避しました。

健康保険も、低賃金の従業員にとっては高嶺の花。

「世界一の企業で働いているのに、病院にも行けない」という現実がそこにはありました。

徹底した「労働組合」の排除

ウォルマートが最も恐れ、拒絶したもの。

それが、労働条件の改善を交渉する組織「労働組合(ユニオン)」です。

彼らの「組合潰し」は苛烈を極めました。

2000年、テキサス州の店舗でついに組合結成が可決された時のことです。

驚くべきことに、ウォルマートはその翌月、当該地域の店舗から「精肉部門」そのものを廃止しました。

「仕事」を無くすことで、組合ごと消し去ったのです。

グローバル・サプライチェーンの罪

影は海の向こうの製造現場にも及んでいました。

1992年、衝撃の事実が暴露されます。 バングラデシュなどの委託先工場で、12歳程度の子供たちが長時間労働を強いられていたのです。

これが「児童労働」と「スウェットショップ(搾取工場)」の問題です。

ウォルマートの対応は冷徹でした。

環境を改善するのではなく、「問題が見つかった工場とは即座に契約を切る」手法を取ったのです。

突然の契約解除は、現地の労働者を一夜にして路頭に迷わせました。

「正義」の裏で、弱者がさらに追い詰められる悪循環が生まれていました。

カリスマ、サム・ウォルトンの二面性

これほど過酷で、なぜ組織は崩壊しなかったのか。 そこには、サム・ウォルトンの圧倒的な人間味がありました。

彼は従業員を「アソシエート(仕事仲間)」と呼び、軽トラックを自ら運転して店舗を回りました。

裏方で販売員と座り込み、熱心に意見を聞く姿に、従業員は心を掴まれました。

さらに、サムは「利益分配制度」と「従業員持株制度」を導入します。

給料は低い。しかし、「会社が成長すれば、君たちも資産家になれる」という夢を見せました。

実際に、レジ打ちの店員が退職時に数千万円の株を手にする例が続出しました。 この「希望」こそが、組合を寄せ付けない最強の防波堤となったのです。

この二面性は、取引先であるサプライヤーに対しても同様でした。

ウォルマートは、仕入れ値に対して血も涙もない厳しい条件を突きつけます。

しかし、その試練を乗り越えた先には、「他社を圧倒する膨大な発注量」と「共に世界一へ昇る切符」が約束されていました。

象徴的なのが「バイ・アメリカン(米国製品を買おう)」キャンペーンです。

サムは大口発注という力技で、倒産寸前だった地元の衣料品メーカーを次々と救済しました。

地域社会からは「郷土の救世主」として絶大な賛辞を浴びることになります。

「ウォルマートが勝てば、我々も勝てる」
その熱狂は、全米の企業が本社のあるベントンビルに営業拠点を構えるほどでした。

依存か、共栄か。

その境界線を曖昧にさせるほどの巨大なパートナーシップが、王国の拡大を支えたのです。

企業分析の成功要因:影を包む「情緒」

ウォルマートの成功要因は、「冷徹な仕組み」を「情緒的な繋がり」でコーティングしたことにあります。

反発を招く低賃金戦略を、サムのカリスマ性と利益分配という「アメ」で納得させてしまった。 これは経営戦略として、極めて高度で危ういバランスでした。

2010年代以降、特にダグ・マクミロンCEOの就任後は、イメージ刷新とリアル店舗の強化(eコマース対抗)しました。
最低時給の引き上げや教育支援プログラムの拡大など、労働環境の改善に地道に取り組む姿勢も見せています

かつての批判の矛先が、今やアマゾンへ向かっているのは歴史の皮肉かもしれません。

次回は、「 業態の変革力。アマゾンとの競争」をお届けします。

リアル店舗がネット通販に勝つための、驚愕の戦略とは?

お楽しみに!

参考:「ウォルマート―世界最強流通業の光と影」オルテガ,ボブ【著】 日経BP社

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