ウォルマート研究⑨ 今後のウォルマート -現場力×最先端AI。世界最強の小売業が描くの未来図-
世界最大の小売業、ウォルマート。オムニチャネル小売業者への変革を加速させた彼らは、さらなる成長エンジンを積んでさらに先へ進もうとしています。
こんにちは、サプライチェーン・マニアの瀬崎健です。
前回は、 数十年かけて社内で育った人間が、創業者のDNAをいかに引き継いでいるか、その泥臭い強さをみていきました。
今回は、その「現場力」を持つ巨人が、どのような未来を描いているのかを解剖します。
AI(人工知能)への集中投資:購買の「再配線」
いま、ウォルマートが最も情熱を注いでいるのがAIへの集中投資です。
彼らはもはや「AIを使う」段階を超え、AIが自律的に動く「エージェント・コマース」の時代を見据えています。
AIが人間に代わって、在庫確認から決済までを完結させる「購買体験の作り直し」をする。
2026年の小売イベント(NRF)では、そんな新しい挑戦を発表しました。
また、店舗の裏側でもAIは大活躍しています。 物流センターの自動化や需要予測にAIを組み込み、配送コストを徹底的に削減。
「安さ」という顧客への約束を、最新テクノロジーで守り抜こうとしているのです。
多角化ビジネスへのシフト:高利益体質への脱皮
ウォルマートの戦略で次に注目すべきは、収益構造の劇的な変化です。
従来の「薄利多売」の小売モデルから、利益率の高いサービス業を組み合わせた「マージン戦略」へと舵を切っています。
その筆頭が広告事業(Walmart Connect)です。 店舗やECサイトを訪れる膨大な顧客の「実購買データ」は、広告主にとって宝の山です。
現在、この分野ではAmazonが先行していますが、ウォルマートは店舗という「リアルな接点」を武器に、猛追を仕掛けています。
さらに、自社の物流網を外部の販売者に開放するマーケットプレイス事業も拡大しています。
自分たちで在庫を持たずに手数料を得るこの仕組みは、利益率を押し上げる大きな原動力となります。
もはやウォルマートは、商品を売って稼ぐ会社から、「データ、広告、物流サービスを売るプラットフォーム」へと進化しているのです。
グローバル・ポートフォリオの再編
最後に、彼らの世界戦略における「選択と集中」についても触れておく必要があります。
現在のウォルマートは、まるで投資家のようにポートフォリオを大胆に組み替えています。 かつては世界中に店舗を広げる「拡大路線」でしたが、今は違います。
成長が見込めない成熟市場(イギリスのASDAなど)からは潔く撤退。 その代わりに、リソースを集中させているのがインド市場です。
ウォルマートは、インドのEC大手「Flipkart(フリップカート)」と、デジタル決済の雄「PhonePe(フォンぺ)」を成長の柱に据えています。
特にFlipkartへの傾倒ぶりは凄まじいものです。 2024年度には約35億ドルを投じ、持分を約75%から約85%まで引き上げました。 支配力を強める姿は、インドを「次の10年」の主戦場と定めた覚悟の表れです。
一方のPhonePeも、決済アプリの枠を超え、保険や金融サービスまで網羅する「スーパーアプリ」へと進化。 国際部門の売上成長を牽引する、最強のエンジンとなっています。
ただし、この戦略には常に「規制」という影がつきまといます。 インド当局は、外資規制(FDI)違反の疑いや独占禁止法について、両社に厳しい監視の目を向けており、「アウェーの洗礼」を真正面から受けているのが現状です。
テクノロジーが加速させる「人」の価値
ウォルマートの未来戦略を貫くのは、「物理資産(店舗)」と「デジタル技術」の融合です。
オンラインで購入し実店舗で受け取るBOPISや、最短30分で届けるドローン配送。 これらを支えるAIやロボットを導入するのは、人間を排除するためではありません。
定型業務を機械に任せることで、店員(アソシエート)がより付加価値の高い業務に集中できるようにするためです。 彼らはこれを「ピープル・レド(人主導)」と呼んでいます。
創業以来の現場主義を、最新のテクノロジーでブーストさせる。 この一貫性こそが、ウォルマートの変革における最大のポイントです。
一方で、本格的に、ウォルマートが「小売業」という枠組みを超えて、自己革新を遂げようとし生存戦略を組みなおしていることも注目に値します。
さて、全9回にわたって深掘りしてきたウォルマート研究。 彼らがなぜこれほどまでに強く、そして変わり続けられるのか。 その本質が見えてきたのではないでしょうか。
次回はいよいよ最終回。 これまでの分析をまとめ、私たちが学ぶべき「商売の真髄」を抉り出します。

