米中対立とMPマテリアルズ。投資家は米中対立でもリターンを得ることができる?
2025年10月9日、中国商務省は突如としてレアアース(希土類)の輸出管理を強化すると発表した。トランプ大統領はこれに対して激しく憤り「習近平と会う予定だったが、もうそのような理由がない」と述べて、中国に対してさらに関税100%をかけると発表した。その中で浮上してきているのがMPマテリアルズだ。(鈴木傾城)
中国のレアアース規制と米国の怒り
2025年10月9日、中国商務省は突如としてレアアース(希土類)の輸出管理を強化すると発表した。新たにレアアース5種類を輸出管理の対象に加えたほか、採掘、製錬・分離、磁性材料製造等も厳しく管理される。
さらに、これらの技術や生産ラインの組立、試運転、保守、修理、アップグレードに係る技術の輸出も許可が必要で、無許可の輸出は禁止された。特に軍事利用を目的とした輸出は絶対に禁止、半導体など先端技術分野に対しては個別審査をおこなうという厳しい内容だった。
レアアースは中国は圧倒的な支配力を持っている市場だ。2025年時点で、世界のレアアース埋蔵量の約50%、生産量の約70%を中国が占めている。また、製錬や分離といった加工工程における世界シェアは90%近くに達している。
このため、レアアースの供給チェーン全体において中国の影響力は非常に大きい。すぐに中国を排除することも代替することもできない。そこで中国側は、ここを締めつけてアメリカを追い込み、自国が有利に交渉できる余地を作ろうと考えたようだ。
だが、返ってきたのはトランプ大統領の激しい怒りの言葉だった。
2025年10月10日、トランプ大統領は「異常なことが中国で起きている」「彼らは非常に敵対的に変わり、世界各国に書簡を送りながらレアアース生産に関連するすべての要素に対して輸出統制をすると通知している」と自身のSNSで投稿した。
「過去6カ月間、我々と中国の関係は非常に良かったため、中国のこうした措置は意外だ」「中国が全世界を人質にすることは、けっして許されてはならない」と述べ、「2週後に韓国で開催されるアジア太平洋経済協力会議で習近平と会う予定だったが、もうそのような理由がないようだ」と怒りをぶちまけた。
トランプ氏はその後、記者団に対して「会談を中止したわけではない」と述べているのだが、どうなるのかは予断は許さない状況にある。
レアアースは「資源の武器化」だ
この地政学的リスクを受けて、ニューヨーク証券取引所では、ほぼすべてのセクターが全面安となった。ハイテク・セクターの中でも半導体銘柄が爆下げした。半導体は、米中対立が激化したらもっとも悪影響をこうむるセクターでもある。
もちろん、テスラやGMといったEV関連銘柄も当然のことながら急落している。高性能磁石を調達できなければ生産計画そのものが崩れるからだ。
今、アメリカはAIバブルに沸いているのだが、AI技術の発展には大量の計算能力と高性能な電子機器が必要であり、その基盤となる半導体やモーター、磁石にレアアースが不可欠だ。
ロボット、ドローン、EV(電気自動車)、風力発電の永久磁石に使用されている。
つまり、もし中国がアメリカにいっさいレアアースを売らないという決断をしたら、AIというビジネスはその瞬間に破綻することになる。
この独占的なシェアが、米中貿易摩擦の中で中国の重要な交渉カードとなっている。
製錬や分離といった加工工程における世界シェアも中国が90%を占めているので、米国などは国内で採掘しても、一旦中国に輸出し中国で加工した製品を輸入するしかない構図となっている。
レアアースはまさにアメリカのアキレス腱でもある。ここを切られたら、もうアメリカは身動きができない。AIバブルが吹き飛ぶどころか、現代の文明そのものが成立しないほどの重要性がレアアースにはある。
資源の供給が政治的圧力として用いられることは、すでに「資源の武器化」と表現されている。冷戦期の石油と同じだ。特定の国が特定の資源を戦略的に使うことで、国際社会を「人質」に取ることができる。
今回のレアアースの場合、米国の半導体や防衛産業に直結していることから、影響はより深刻である。F-35戦闘機や潜水艦の動力システムには大量のレアアースが必要であり、その供給が滞ることは安全保障上のリスクに直結する。
一気に重要性が増したMPマテリアルズ
この緊迫した政治情勢の中で、一気に重要性が増したのがMPマテリアルズ【MP】である。同社はカリフォルニア州に位置するマウンテンパス鉱山を所有・運営し、米国で唯一の稼働中レアアース鉱山を抱える企業である。
マウンテンパスは1950年代から稼働してきた歴史ある鉱山だが、2000年代以降は中国の低コスト攻勢に押されて一時閉鎖された。そこを買収し、ふたたび米国における戦略資源供給拠点として再建したのがMPマテリアルズだった。
MPマテリアルズの事業は大きく二つのセグメントに分かれる。
ひとつはマウンテンパスでの採掘・精錬を担う「素材セグメント」、もうひとつはテキサス州フォートワースに建設中のインディペンデンス施設でおこなう磁石製造を中核とする「磁気セグメント」である。
従来、米国は採掘したレアアースを精錬後に中国へ送り、最終的に磁石を輸入する構造に依存していた。だがMPマテリアルズは、採掘から磁石までを自国内で完結させる垂直統合型の体制を築こうとしている。
これは米国のサプライチェーン再編において象徴的な意味を持つ。
2025年7月、米国防総省がMPマテリアルズの優先株を取得し、最大株主となったことが発表された。この事実は市場に強烈なインパクトを与えた。政府が民間企業の株主となるのは異例であり、国家戦略として同社を支える姿勢を明確に示したからである。
発表直後、MPの株価は大幅に上昇し、投資家は「政策中核銘柄」としての位置づけを一気に織り込み始めた。米国政府が直接資本参加したことで、同社の事業はもはや単なる民間プロジェクトではなくなった。
国家安全保障に直結するインフラと位置づけられたのだ。今回の米中の激しい対立で、ますますこの企業の重要性は増すはずだ。米国株式市場のほとんどの株価が売り飛ばされる中、この企業の株価は8%超の上昇を見ている。
投資家は米中対立でも稼ぐことができる
もちろん、MPマテリアルズだけでレアアース問題が解決するわけではない。マウンテンパスは主に軽希土類元素の産出が中心であり、高温磁石に不可欠な重希土類(ジスプロシウムやテルビウム)の供給力は限定的である。
そのため、MPマテリアルズがどれだけ米国内の供給網を固めても、重希土の調達を別ルートに頼る必要がある。豪州やカナダとの連携、あるいはリサイクル技術の強化も不可欠だ。
だが、米国がレアアース依存から脱却しようとする流れの中で、MPマテリアルズが重要な役割を果たすことについては間違いない。政治的な追い風が継続する限り、この企業への投資は重要なものになるだろう。
個人的にはトランプ政権が勧めている「脱中国」は、米中関係がどうなろうと揺るぎない一貫した政策であり続けると考えている。またトランプ政権以後も「脱中国」の政策は継続されるはずだ。
アメリカがレアアースを「人質」に取られまま泣き寝入りするとは思えない。
レアアースは電気自動車や風力発電、防衛装備に不可欠であり、そうである以上は採掘・製錬・分離に関して中国からシェアを奪いにいくのは当然のことだ。今、投資家はそのあたりを織り込みにいっている。
ある意味、MPマテリアルズは国家戦略と市場心理に大きく揺さぶられる「政策依存型」の銘柄であるとも言える。米中対立が激しくなればなるほど、この株は買われるだろう。逆に米中が緩和したら投資家はすぐに関心を失って売られるだろう。
今後も米中対立が激しくなると考える投資家にとっては、検討する余地がある銘柄であるとも言える。
米国では資源確保から磁石製造、さらにはリチウムや銅といった代替資源にまで「脱中国」で動き出している。こうした政策企業は他にも次々と登場するはずだ。投資家は米中対立でも稼ぐことができる。


