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眠れない夜の、隣に

初めて飛行機に乗ったのは、十六歳だった。

特に、遠くに行ってみたいという欲求は当時から無く、初めての飛行機は修学旅行だった。

飛行機が離陸した瞬間、貸し切りの機内は拍手喝采になった。私も拍手していた。

すごい……雲の上にいながら、じゃがりこを食べている。

シートベルト着用サインが消えたあとは、ほとんど教室の中と同じだった。前後から伝言ゲームみたいに連絡事項が回ってきたり、しれっとした顔で好きな人の隣に座ったり。空飛ぶ教室。

日中の騒がしい時間は、照明が落ちる頃にはシンと静まり、時折、客室乗務員が通り過ぎるだけの空気に変わる。

私も、前夜は興奮して眠れていなかったのか、いつの間にかぐっすり眠っていた。

初めての海外。もちろん、文化のギャップもあったし、見るものすべてが、見たことのない人や建物や食べ物だった。けれど、いちばん印象に残ったのは、飛行機だった。

そして帰ってきて、あっという間に進路の季節に突入。

先月は、海外の保安に関する保護者会だったのに、今月はもう進路の説明会。世知辛い世の中だな。

私も気持ちをなんとか切り替えて、寝るのは悪だというプレッシャーに一人で耐えながら、夜はラジオをつけていた。

はぁ、明日もあるし寝るか。流したままのラジオから、音が続いている。しばらくすると、ジェットストリームが始まった。

「遠い地平線が消えて、深々とした夜の闇に心を休める時……」

静かで、少し寂しいような、だけど一人ではない、その安心感が交ざるこの時間が、好きだった。

「日本航空が、あなたにお送りする音楽の定期便。ジェットストリーム。皆様の、夜間飛行のお供を致しますパイロットは、わたくし、小野田英一です。」

急いでベッドに入って、耳を澄ます。

キューーンと上空で感じる気圧と、座ったこともないくせに思い描くファーストシートのラグジュアリーな雰囲気が、雲の上に漂う。

目をつぶる。また……飛行機、乗る時がくるかな。受験が終わったら……社会人になったら……あそこに行ってみたいな。

夢なのか現実なのかわからないまま将来を夢見て、うとうとしながらも、終わりの時間まで、ぎりぎり起きていた。

「お送りしておりますこの音楽が、美しくあなたの夢に溶け込んでいきますように。」

夢に溶けていく、美しいさようなら。やっぱり好きだな。穏やかで温かい響きに、安堵して眠りについた。

三十年後、あの夜の声が城達也ではなく、小野田英一だったと知った。名前はずっと間違えていたのに、耳に残っていた言葉は、間違っていなかった。誰の声か分からないまま、それでも眠れない夜に、ちゃんと隣にいてくれた。

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