被写体は向こうからやってくる③
被写体は向こうからやってくる。
このタイトルは、皮肉なことに、AIとの壁打ちの中で生まれました。
これまでを振り返ってみると、自分が写真と向き合ってきた時間のすべてを、静かに言い当てられたような感じです。
途中、ブランクもいくつかありましたが、写真とはもう四十年以上、付き合ってきました。
その間に撮りためてきたものと、ここ最近書き続けている文章とが、どこかで結びつくのではないか。
——そんな予感のようなものが、年末あたりから自分の中に芽生えはじめ、半ば手探りのまま書き進めていくうちに、あるひとつの感覚に行き当たったのです。
noteを書きながら、気づいたことがありました。
写真も書くことも、実は同じ姿勢で向き合ってきたのではないか。
これは、大げさかもしれませんが、私にとって、人生を揺るがすほどの発見でした。
追いかけない、作りにいかない、ただその場に立つ。
──そう言ってしまえばそれだけのことなのですが。
長い時間の中で繰り返してきた行為を振り返ると、結局のところ自分はずっとその一点に立ち続けていただけなのだと、いまになって腑に落ちました。
おそらく自分ひとりでは、ここまで明確な言葉として取り出すには、もう少し時間がかかっていたでしょうし、そのまま曖昧な感覚として流れていってしまったかもしれません。
昨年末からnoteを書き続けてきたことで、断片だったものが少しずつ、つながって、一本の線のようなものが、ゆっくりと、しかし確実に浮かび上がってきました。
だから、そこを見てしまう。そして、また同じ場所に立ちたくなる。
それは何かを追いかけているよりも、すでにどこかで交差したはずの光に、もう一度出会いにいこうとしている感覚に近いといえます。
意識的に探しているわけでもなく、再現しようとしているわけでもないのに、なぜか同じような時間帯、同じような場所に、自然と足が向いてしまうのです。
散歩をするときは、歩く速さはだいたい決まっています。
一度すれ違ったものに対して、振り返らない、追いかけない。細かいことかもしれませんが、このルールを意識してきました。
それは技術というより、自分の呼吸を乱さないための習慣に近いものかもしれません。
ただ、いつもの道を、好きな時間に歩いている。そんな感じです。だから、撮る時は、まずその場の光を見てしまう。
逆光や順光という話ではありません。
そこにある光。
ただ、その場に満ちているもの。
朝の光はまだ固く、影ははっきりと輪郭を持ちますが、時間が進むにつれ、その硬さはゆるやかにほどけ、人の流れも同じように少しずつ変わっていきます。
やがて夕方になると、黒のほうが先に立ち上がり、すべてがゆっくりと沈んでいくような感覚に包まれる。
同じ道であっても、光が違えばまったく別の場所になります。
何度か歩くうちに、その違いが少しずつ身体に馴染み、見え方そのものが変わっていく。
限りなく黒に近いグレーと、限りなく白に近いグレー。
そのあいだに写真があるのだと、いまは理解しています。

それは理屈として分かったというよりも、暗室での作業を通して、長い時間をかけて身体に染み込んできた感覚です。
だからこそ、真夏の強い光よりも、夕方のやわらかい光や、薄曇りの日の主張しすぎない光へ自然と惹かれていくのでしょう。
決まったやり方はありませんし、誰かに教わったわけでもないのですが。
ただ静かに歩き続けているうちに、自分が立つ時間や場所は、おのずと定まってきました。
被写体を探しているわけではなく、構図を作ろうとしているわけでもない。
光が先にあり、その中に人や気配が入り込んでくる。
その瞬間に立ち会えれば、それで十分満足なのです。
どれだけの過程があったとしても、最後に残るのは一枚の写真です。昔でいえば、ポジであったり紙焼きであったりするのでしょう。
その一枚にすべてが集約される以上、無理に取りにいく必要はありません。
ただ、その場に立ち続けていればいいと思えるのです。
被写体は、向こうからやってくる。
text © kazunori ogawa 2026
photo © kazunori ogawa
oct 2009.Fussa, TOKYO,
kodak tri-x 400 (ei 200)
developed in microdol-x (stock), 20°C, 10 min
leica summicron 35mm
photo © kazunori ogawa
June 2009,Kamakura,Kanagawa
kodak Tmax 400 (ei 200)
developed in microdol-x (stock),
Rolleiflex 2.8F
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