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今日、ここから、還暦のRESTART 現在地について40

2026年6月12日、横浜。
初夏の日差しから、みるみる曇ってきた昼下がり。悪魔メフィスト襲来を思わせる雷と世界が白くなるほどの雨。しばらくすると青空が覗き、まるで豪雨なんてなかったかのような空が広がった。どこかにかかった虹と水溜まりがたしかに雨の名残を伝えていた。
まるで人生、これが人生。I love 人生!


2026年6月12日
60周年記念公演 さあ、ドーンと行くぜ!
ぴあアリーナMM


第1部
1. I love 人生!
2. 漂う人の性*
3. 悲しみの果て*
4. over the top
5. 昇る太陽
6. ジョニィへの伝言**
7. 哀愁につつまれて
8. 飾りじゃないのよ涙は**
9. 風に吹かれて*
10. close your eyes

第2部
11. 夜明けのうた
12. 愛を抱きしめろ
13. はじめての僕デス
14. 今宵の月のように
15. ロマンス**
16. rain -愛だけを信じて-
17. 俺たちの明日*
18. ハレルヤ
19. Today -胸いっぱいの愛を-
20. あなたのやさしさをオレは何に例えよう*
21. I AM HERO

アンコール
22. 冬の花
23. P.S. I love you
24. RESTART**
退場時SE I love 人生!

*:エレファントカシマシ楽曲
**:カバー曲


ジャケットが象徴的なんだけど、このアルバムはコラージュかなと僕は思っていて。(中略)いろんなことに、自分でちゃんと意識してチャレンジできたアルバムなのかなって思っています。

(*1)

『I AM HERO』について宮本は語る。J-POP、Jメタル、ラップ、宅録。タイアップ曲と新しい扉を開けた曲。異質な素材が並存しながら、宮本浩次が歌っているということだけが軸になっている。そして、それを視覚的に具現化したジャケットデザイン。実に4年半ぶりに全キャリアを注ぎ込んだ渾身の作。熱情と覚醒。

そのコラージュの構造は、セットリストにも貫通していた。
1976年 “はじめての僕デス” から2026年の最新曲まで、50年分が時系列を無視して並んでいたのもまた、コラージュと言っていいだろう。
アルバムの曲順がメッセージなら、セットリストの曲順はストーリー。
ここに、4つの円環があった。

(1)アルバムの円環
0曲目 “さあ、出かけよう!” と 12曲目 “愛を抱きしめろ” は同じ曲の別バージョン。入口と出口が同じ場所にあり、円環を描いている。
しかも12曲目は “愛を抱きしめろ” というタイトルなのに、歌詞には「出かけよう」が頻出する。タイトルが発表された時、ついに、とうとう、愛を抱きしめるのか(しかも命令形)!!だが果たしてどうやって?どのように?いかにして愛を抱きしめにかかるのかとワクワクして楽しみだったのだが、
…出かける歌だった。。。
‘さあ出かけよう!’ の連呼。愛を探しに出かける。つまり、出かけよう=愛を抱きしめろ。今日また 明日もまた どこへ行く 愛を探しに行こう からずっと地続き。

(2)セットリストの円環
“I love 人生!” で開幕し、“RESTART” で閉じた後、宮本は退場しながらまた “I love 人生!” を口ずさんでいた。始まりの歌が、終わりのその後にも鳴っていた。

(3)歌詞の円環
2曲目 “漂う人の性”:‘さあ出かけよう 五分先へ行こう’ と ‘さあ滅びよう まどろみつつゆこう’ が同じメロディで歌われる。最終曲 “RESTART”:‘いずれ滅びる命なら’。破滅へ向かって歩むことと、滅びるからこそ何度でも再出発することが、開幕と閉幕で呼応する。

(4)人生の円環
還暦=十干十二支が60年で一巡して、生まれた場所に還ってくる。宮本浩次は丙午(天才が多いとされる年)の生まれ。今年また、丙午が巡ってきた。‘夢から醒めし人よ 生まれたばかりの人’ と歌い出す “漂う人の性”。還暦の赤は赤ん坊の赤。その年のその日に「RESTART」を叫ぶ。凄い。

そしてもうひとつ、外部と接続した円環もあった。
“I love 人生!” はドラマ「リボーン~最後のヒーロー~」の主題歌。この「最後のヒーロー」という言葉は歌から採られたという。そしてこのドラマは、主人公と瓜二つにして対極にある人物とが入れ替わり、生活するうちに精神性がだんだん相手のものになっていく物語。入れ替わって、夢から醒めて生まれたばかりの人として新たな人生を生き(=リボーン)、かつての己と対峙して生き直す(=RESTART)物語。
宮本はタイアップについて「自分を客観視できる機会なんですよね」と述べている。“I love 人生!” “I AM HERO” “Today-胸いっぱいの愛を-” “over the top” “close your eyes”、そして “今宵の月のように”。登場人物や物語、視聴する誰かのために歌いながら、その外側から自分を俯瞰する。
そしてその物語の流れが、この日のテーマをもう一度外側から照らしていた。

"I love 人生!" に始まり "I love 人生!" で幕引き。
アルバムの "愛を抱きしめろ" から "さあ、出かけよう!" へ戻る円環のようでもあり、‘行こう 今日の俺が俺の証 ならばこの場所から/RESTART’ 還る暦のようでもあり、自然が回す円環の中に、宮本浩次が設計した円環が重なった日。それが2026年6月12日だった。


第1部
1. “I love 人生!”

客電が落ちると、あの “We Will Rock You” を彷彿とさせるビートが地の底から響き、ワクワクを抑えきれない子鹿のような宮本が楽屋からステージへ降りてくる映像が投影された。
ドラムが生音に変わった瞬間、本物がそこに立っていた。黒いジャケットに黒スキニー、光沢のあるドレッシーな赤いシャツにキラキラした赤いストール。ひー、、、かっこいい。。。尾花さん、ありがとうございます!
‘今日も出かけていくぜ’!
コンサートが始まった。

2. “漂う人の性”
まさか自分の目の黒いうちに生で聴けるなんて。。。
ワルツのビート、アルバムをまだ聴き込んでいないので未知の収録曲かと思ったのも束の間、歌い出しにフリーズしてしまった。大好きな大好きな歌。
‘さあ出かけよう’ が「生きていこうぜ」ならば、‘さあ滅びよう’ も「生きていこうぜ」。

3. “悲しみの果て”
‘悲しみの果てに何があるかなんて俺は知らない’
この曲は、悲しみを絶望として終わらせない。絶望という感情を「果て」という「場所」に置き換える。そうすれば、その場所に向かって歩いていくことができる。悲しみの果てにある素晴らしい日々を目指して歩き続けようぜ、という純粋で高潔な覚悟の歌だ。
‘悲しみの果ては/素晴らしい日々を/送っていこうぜ’
このメビウスの輪は、24曲というスケールのセットリスト全体を費やして強く大きく増幅される。

4. “over the top”
‘お前も俺も櫻吹雪のように/いつかこの空の下で 嗚呼/潔く散るだけさ’
散る桜の荘厳さは武士道の有終美や盛者必衰の無常を連想させるが、宮本浩次の《桜の花》は意味合いが異なる。果敢なく散るいわば死に様の潔さを歌っているわけではない。
「どうした?もうひと花、咲かせてやろうじゃねぇか!」
宮本がよく口にする煽り文句。つまり、花が散るのは再び咲くためだ。
‘あこがれと絶亡 禱りと労働’
‘そ知らぬ顔でさあ出かけるぜまだ見ぬ明日へ’

5. “昇る太陽”
浮世の風に吹きさらされて立ちつくしていた男が、太陽に照らされることを乞う歌。
“I AM HERO” がリリースされてから、‘昇る太陽 俺を照らせ’ と叫ぶ懇願に、‘I AM HERO’ という咆哮が応答する、そう受け取れるセトリが多かった。こんな序盤に入っているのは初めてだ。“悲しみの果て” “over the top” と続く絶望からの再生というベクトル。それがこのコンサートの通奏テーマであることを早々に指し示す役割を与えられたようにも思える。
あるいは、体力温存か。

ここからコラージュパート。カバー→ソロ→カバー→エレカシ→ソロという混在、すなわちコラージュ。他者の歌と自分の歌が同列に並び、ストーリーが紡がれ、第1部終幕までを彩る。

6. “ジョニィへの伝言”
にしても、魂の咆哮の直後にこの美声。得意な音域だとしてもすごい。
今の生活をリセットして、新しい街で新しい人生をリスタートさせる歌。
昭和歌謡の中に息づく「出かける=生きる」の衝動を丁寧に歌い上げる。

7. “哀愁につつまれて”
'もう一度会いたい もう一度抱きしめたい' という純粋な切望。出かけることへの衝動が叶わない切望となって、切々と歌い上げられる。‘ああ 過ぎ去りし青春の詩’、この言葉を60歳の宮本が歌うリアリティー。それでいて、ライブでは音源より音がアグレッシブになって、化ける。

8. “飾りじゃないのよ涙は”
カバー曲の中ではロック風味を強調してアレンジされている歌。
この時はもうストールは脱ぎ捨てていたけど、「赤いスカーフ」という歌詞が強く響いた。

9. “風に吹かれて”
‘本当はこれで そう 本当はこのままで/何もかも素晴らしいのに’
この言葉は続く “close your eyes” にも引き継がれ、2曲合わせて今日という日に別れを告げる。
‘さよならさ 今日の日よ’

10. “close your eyes”
‘風に吹かれて/ままそのまま ままそのまま’。
前回のツアーではフェイクを用いてあまり歌わなかったこの部分を、音源どおりに丁寧に歌っていた。
‘涙に暮れた今日よさらば/新たな旅がはじまる’

第2部
11. “夜明けのうた”

前曲で一日が終わり、幕間を経て夜が明ける。
センターステージがゆっくりとせり上がる。その端に腰掛ける。黒いシャツに赤いシフォンジョーゼットのジレ?赤ちゃんちゃんこをイメージしてる??とも思ったが、左右アシンメトリーで、動いても邪魔にならない位置でシャツに縫い付けられていたのが後からわかった。黒いシャツの襟がキラキラと光る。妖精…!
素敵でした。尾花さんありがとうございます!(二度目)

‘風がいざなうその先のあたらしい明日に/会いにゆこう 未来のわたしに’。
明日もまたどこへ行く?愛を探しに行こう。ゆっくりと夜が明けた世界へ、さあ、出かけよう!

12. “愛を抱きしめろ”
ここで来た。さあ、出かけよう!をひたすら連呼する歌にぴったりの、身体が自然に踊り出すリズム。口ハーモニカを生で聴けました。

13. “はじめての僕デス”
10歳の時、NHK「みんなのうた」でソロデビューしました、という宮本のナレーションが流れ、ステージ上の宮本がそれにかぶせる。ナレーションが録音ってことをバラしたいのかな、お茶目さん。そして上手から何やら運ばれてきたと思ったら、移動式LEDディスプレイ。映し出されたおなじみのアニメーションの「僕」が、おなじみのポーズで歌に合わせて歩く。それに合わせて、ステージ上の宮本が歌う。原曲キーで歌えるのか!すげえ!さすがすぎる!時を越えた共演。
バースデーならではの演出が毎年楽しみなんだけど、毎年度肝を抜いてくれる。
歌手生活50年の原点が、セットリストのど真ん中に置かれていた。

コンサート直前、アルバム発売に合わせて配信された「宮本浩次の YouTuber 大作戦@台北」。
宮本はこう述べていた。

レジェンドになると自分の型ができてくる。人とぶつかって勝つ、というのがなくなってきた。それよりも自分がどう生きるか。やりたいことをどう全うするか。

これまで世に出してきた歌を歌い、ベスト盤を売り、ライブをするだけでもやっていける。生活はしていける。でもそれは、彼にとっては《生活》ではないのだろう。彼にとっての《生活》とは、‘敗北と死に至る道’。破滅へ向かって歩む途上で、何にも例えられない《あなたのやさしさ》と出会うこと。
宮本は誰かのために歌わない。自分が今ここに立つために歌う。それは生きることそのものを意味している。“over the top” の ‘あこがれと絶亡 禱りと労働’ という一節に、ウィリアム・モリスの言葉を思い出す。
「真の芸術とは、人間が労働に対する喜びを表現することである」。
その喜びは他者に向かわない。労働そのものの中にある。《生活》と《労働》の関係性はこれからも考え続けたいテーマだ。

観客が「いい顔してる」会場のオーラを浴びることがまた、労働意欲をかき立てる。私たちもまた、宮本が自分のために歌う姿から力をもらう。その圧倒的な「個」が観客の「個」と境界線を保ったまま共振する至福の瞬間、お互いが《あなたのやさしさ》に触れる。
ここからの後半の流れが堪らなかった。

14. “今宵の月のように”
‘今日もまたどこへ行く 愛を探しに行こう’ ‘明日もまたどこへ行く 愛を探しに行こう’
出かける=愛を探す=生きる、の起点。1997年からずっと、今日も明日も愛を探して出かけ続けている。

15. “ロマンス”
レトロな電光掲示板のような歌詞の表示が良かった!
「叫ぶボーカリストに戻りたかった」。
カバー曲の中では圧倒的なロック味。

16. “rain-愛だけを信じて-”
‘愛を求めてさすらうheartは’、雨の中を歩いてゆく。
そして最後に、静かに着地する。‘大丈夫、わたしはまた笑顔になるから’
雨のち晴れ。この日の横浜の空みたいだ。

17. “俺たちの明日”
‘さあ、でかけようぜ!’
明日に向かって出かける歌。王道。堂々。
お練り歩きは見えなかったけど、センターステージに出てきてくれたスッティーが ‘でっかく生きようぜ~♪’ と口ずさんでいて胸熱。

18. “ハレルヤ”
祝福と祝祭に満ち溢れた人生賛歌。
「俺たちの明日」それは、‘今だからこそめざすべき明日があるんだぜ’
そこからの、

19. “Today-胸いっぱいの愛を-”
‘Today それは愛を求め 愛に敗れ さすらいたどり着いた場所’
歌詞から作家作品論を展開してきた身としては、今日もまた明日もまた愛を探しに行こう、から、rainに打たれ愛だけを信じて、今、新ALでも出かけようを連発して…、さすらい続けた末にたどり着いた場所=「今日」、60周年の今日この日にこの歌で金テープがパァンと舞い散って…、
今日がなければ明日は来ない。明日明日と歌っていた宮本が「今日」をこんなに素敵に歌ってくれて本当に嬉しい!
ステージ奥の階段を上がり、銅鑼を鳴らす。
今日この日に響く「Today」は、特別で格別で最高で最幸でした。
改めてお誕生日おめでとうございます!

20. “あなたのやさしさをオレは何に例えよう”
今日という祝祭を共に祝ってくれた仲間たちをソロパートで紹介する歌。
‘敗北と死に至る道が生活ならば/あなたのやさしさをオレは何に例えよう’。
“Today~” の感動の余韻の中で、この問いが深く明るく響く。

歳を重ねて、素直になっていいんだと気づいた、と宮本は言う。
‘素直であるとは戦わぬことなのか?’(“漂う人の性”)
提言や忠告に従うのか、それを受け入れられないなら抗うのか、どちらが自分の心に対して素直なのか。
‘素直に生きてみたい どうせ一度の人生なら’(“RESTART”)
‘本当の姿を見つける旅へ行こう’

21. “I AM HERO”
第2部ラスト、クライマックスに新アルバムの冠曲。
渾身のシャウト。でもそのエモーションに翻弄されることなく、その激情を飼い慣らして、とても集中して丁寧に歌っていたように感じた。「『I AM HERO』という言葉は、生命賛歌だと思うんですよ」(*2)。
燃え盛る生命が、魂の炎が、輝いていた。

第3部
赤いスーツに赤いシャツ、赤いネクタイ。どの赤も微妙に色合いが違う。上品で上質な(かつ動きやすくて汗染みしない)素材が選び抜かれたであろうことがうかがえる。尾花さん、ありがとうございます!(三度目)

22. “冬の花”
ソロデビュー曲。ここにすべての要素が詰まっていた。
いつか花と散る日まで歩いてゆく。それが人生という旅。
降り注ぐ赤い花弁の中での ‘胸には涙 顔には笑顔で 今日もわたしは出かける’、圧巻でした。

23. “P.S. I love you”
‘愛って何だかわかった日が きっと新たな誕生日’
還暦=誕生日に、この言葉が鳴る。
'悲しみの歴史それが 人の歴史だとしても/ああ やっぱ何度でも立ちあがる人の姿は どこかまぶしい'
生きている限り、人は生まれ変わり、また出かけ直せる。
‘ゆこう ゆこう 大人の旅路は着の身着のままがいい’。
還暦の赤は、生まれた年に戻る赤ん坊の赤。

24. “RESTART”
ここでこの歌を持ってくるとは…!
エレカシ30周年に際して作られたこの歌に、合唱団時代からエレカシの歴史、還暦コンサートまでのソロの歩みの節目節目の写真が、ヴィジョンにスライドショーで投影された。歌手人生が、リボーンとリスタートの瞬間に走馬灯のように交錯し、大きな円環が閉じた。

アンコール
ハッピーバースデーソングをアカペラで。本当に歌がうまい。
「ハッピーバースデー ディア エヴリバディ~♪」
ここに集まっている人は全員今日が誕生日だと思ってます、なんて発言もあったけど、超満員の会場全員で60本の蝋燭を吹き消すなんて、粋な演出に最後の最後でかろうじて残っていた度肝を完全に抜かれました。

退場時SE
再びあの力強いドラムビートが響き、“I love 人生!” が流れる。
インストではなく歌が入っているのに、それにかぶせて口ずさむ。歌が好きで、歌うことが好きで、歌いたくてたまらないんだね。大きくお辞儀をして、大きく手を振って主人公が立ち去ったステージ。曲が終わるまで、超満員の会場なのに一糸乱れぬ手拍子が響いて、祝祭の円環が閉じた。



「生きる」「出かける」が増えてきたこのところの楽曲を聴いて、もう歌いたいことがなくなっちゃったんじゃないかと思わないでもなかったが、生きている限り、歌いたいことは呼吸するように湧いてくる。自分を引き合いに出すのは烏滸がましいが、私も先日3部作を書き上げて、達成感と脱力感でもう書けないかも、と思った。でも、また書きたいことができてこうして書いている。
好きになってよかった。出会えてよかった。気づけてよかった。ずっと歌い続けてくれてなかったら起こり得なかった奇跡。心からの感謝と祝福を贈りたいです。

熱い言葉の奔流。インタビューで宮本はよく「言ってることわかりますか」と確認しながら話をする。脱線とも受け取られかねない補足情報を重ねた挙句に本筋へ戻り、その意味がようやくそこでわかる、それは誠実に正しく伝えたい気持ちが為せるもの、そういう語り口のひと。若い頃は難解で哲学的な歌を歌っていたのがソロになって直截的な表現に変えたのも、届けるための手技なのだろう。

私が歌詞研究を始めたきっかけ、それは宮本の歌う「出かける」を読み解きたかったからだ。
一度だけ生で聴いたエレカシをコロナ禍の閉塞感の最中で突如として思い出した。『宮本、独歩。』をきっかけに、まず聴いた『Wake Up』。このひとまた出かけちゃったよ…。鮮烈な第一印象だった。
そこからエレカシを遡っていくと、「出かける」「出かけよう」という歌詞があまりにも多くて、いったいどのくらい出てくるのか、どういう意図なのか、検証したくて歌詞研究を始めたのだ。

宮本は言う。

もっと古くにも出かける曲が俺はたくさんあるんだけど、要するに「出かけていく」というのは生命、生きているということに対する賛辞だと私は思っているんですよね。何も玄関から外へ出るっていうことだけが「出かける」ってことではない、と。

(*2)

今にして思えば、その理念に新参ファンの心が射抜かれたわけだ。

出かけるとは、愛を求めてさすらい、何度でも立ちあがり、そうすることでしかたどり着けない場所を目指すこと。それは人生という滅びに向かう道すがら、悲しみや絶望をその都度引き受けて、その果てにある喜びや笑いを求める気持ちを決してあきらめないこと。
生きるとは、“悲しみの果て” を目指して歩き続けること。それが「愛を抱きしめろ=出かけよう」という新アルバムのメッセージの本質だということ。それを私たちに伝えるために、この24曲がこの順番で必要だった。24曲を費やして繰り返され、紡がれたストーリーは、今日という日のために緻密に編まれ織り上げられ、たどり着いた現在地。

今回のセットリストは、そのストーリーがわかりやすかったと思う。しっかり届いている、しっかり伝わっているという手応えを、今ようやく掴んでいるのかもしれない。ここまでのキャリアという長い時間をかけて、歌においても「言ってることわかりますか…?」と問い続けてきたのかもしれない。何度でも言うが、時代が追いついたと評されることも多いが、宮本自身も自分に追いついたんだと思う。

終演後、秋に始まるアリーナツアーが発表された。
今回のコンサートのタイトルは「さあ、ドーンと行くぜ!」。「まだまだ」でも「さらに」でも「これからも」でもなく「さあ、」。RESTART 感がみなぎっている。

「俺は生きてる」っていうことを自分なりに表す一番シンプルな形が、「出かける」とか「HERO」という言葉なんだろうな。
「生きる」っていうことそのものを、そのどうしようもなさも含めて、結果的により強く感じているし、いつも強く求めてる。
俺が言うこの「I AM HERO」という言葉は、生命賛歌だと思うんですよ。
出かけざるを得ないんですよ。だって死ぬわけにもいかない、しかも楽しいことがあると嬉しい、太陽が出ていると気持ちいい、雨が降ると濡れちゃって嫌だけど、それすらも愛おしい………
しかも時間が経てば経つほど、その断片の、その一瞬の美しさが凄まじく極まってくる。

(*2)


生と死のはざま、それが人生。
時という流れの中を、自分の意志で歩いてゆく。
それは破滅を遥か臨むより、俺が破滅へ向かって力強く歩むこと。
いずれ滅びる命なら、支配者たる時が息の根を止めるまで、リスタートする。
どこまででも、出かける。
さあ、次なる新たな旅の始まり。


引用出典:
*1「ぴあ」2026610
*2MUSICA20267月号



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