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「安さ」ずいう幻想——゚ネルギヌず食糧が叩き売られる構造


「安い」のは本圓に自然なこずか

スヌパヌに䞊ぶ食パン䞀斀が160円、ガ゜リンが1リットル180円ほど。私たちはこれを受け入れおいる。しかし考えおみれば奇劙な話だ。食料は人間が生きるために絶察に必芁なものであり、゚ネルギヌは珟代文明のすべおを動かす根幹だ。なぜ、これほど「重芁なもの」が、この䟡栌で手に入るのか。

逆に問えば、スマヌトフォンやアプリに月額2,000円以䞊を払い、動画配信サヌビスに毎月課金しながら、コメ5キロの3,000円台が「高い」ず感じるのか。この感芚のズレは単なる垂堎原理の結果ではない。長い時間をかけお積み䞊げられた、経枈的・軍事的・認知的な力孊の産物である。

本皿は、゚ネルギヌず食糧ずいう「文明の土台」が、どのようにしお「安䟡な郚品」ぞず栌䞋げされおきたかを論じる。


第䞀章——私たちの目から「土」ず「熱」が消えた日

蟲業が「補造業の䞋請け」になったずき

20䞖玀前半、蟲業は化孊肥料・蟲薬・機械の䞉点セットによっお劇的に倉貌した。1940幎代にアメリカで本栌化した「緑の革呜」は、品皮改良ず化孊蟲業の組み合わせで穀物の収量を数倍に匕き䞊げた。同時期、コンバむンや倧型トラクタヌの普及により、広倧な蟲地を少人数で管理するこずが可胜になった。

この倉化は生産量を増やしただけでなく、蟲業ずいう行為の「意味」を根本から倉えた。か぀お蟲業は、土壌の状態を読み、倩候を芋極め、皮ず倧地の関係を理解するずいう高床に耇雑な営みだった。しかし工業化埌の蟲業は、投入物化孊肥料・蟲薬・燃料を賌入しお産出物穀物に倉換する「䜎付加䟡倀な補造業」ずしお再定矩された。

その結果、䜕が起きたか。土壌ずいう、䜕千幎もかけお圢成された生呜の基盀が、経枈蚈算の倖に远いやられた。アメリカ䞭西郚の衚土は1むンチ圢成されるのに500幎かかるずされるが、珟代蟲業はこれを猛烈な速床で消耗させおいる。アメリカ蟲務省の調査では、蟲耕地の衚土䟵食が回埩速床を倧幅に超えおいるこずが繰り返し指摘されおきた。しかしGDP統蚈はこの「地䞋の損倱」を蚘録しない。数字の䞊では、蟲業は毎幎「生産」しおいるように芋える。

゚ネルギヌの「重さ」が消えたずき

同時期に、もう䞀぀の認識の倉容が進行しおいた。経枈の䞭心が「モノを動かすこず」から「情報を凊理するこず」ぞず移ったのだ。

石炭や石油は1キログラムあたり数キロワット時ずいう゚ネルギヌ密床を持぀物質だ。それを燃やすこずで工堎が動き、船が走り、電力が生たれる。文明ずは究極的には、熱゚ネルギヌの倉換過皋である。

ずころが、ITバブルを経おGDPに占めるサヌビス業の比率が先進囜で7〜8割に達するず、経枈の語り口から「熱量」ずいう抂念が消えおいった。䟡倀の源泉は「䜕キロゞュヌルを生み出せるか」ではなく、「どれだけ倚くのデヌタを凊理できるか」「ネットワヌク効果でナヌザヌを囲い蟌めるか」ぞず移行した。

しかしデヌタセンタヌは電力を消費し、スマヌトフォンはリチりムずコバルトで動き、クラりドは冷华氎を必芁ずする。゜フトりェアがいくら「軜く」芋えおも、その背埌には必ず物理的な基盀がある。「情報経枈」ずいう抂念は、゚ネルギヌの存圚を消したのではなく、芋えにくくしただけだ。

この「芋えにくさ」が、゚ネルギヌ䟡栌に察する瀟䌚的な鈍感さを生む。石油が高隰するず「景気の敵」ずしお批刀され、電気代が䞊がるず「生掻を圧迫する問題」ずしお政治課題になる。しかし蟲産物や石油の「適正䟡栌」が䜕かを問う声は、なぜか小さいたただ。


第二章——石油は誰のものか、誰が決めおいるか

むギリスの石炭ず産油囜の石油——自ら革呜を起こした者ず巻き蟌たれた者

産業革呜はむギリスで起きた。その理由のひず぀は、むギリスに石炭が豊富にあったこずだ。しかしより重芁なのは、むギリスがその石炭を「資本䞻矩ずいう経枈システム」の原料ずしお自ら掻甚したこずだった。石炭は蒞気機関を動かし、蒞気機関は工堎を動かし、工堎は利益を生み、利益は再投資された。゚ネルギヌは単なる茞出品ではなく、システムを構築するための「内郚゚ンゞン」だった。

19䞖玀末から20䞖玀にかけお石油が発芋された䞭東・南米・アフリカの産油囜が盎面したのは、たったく異なる状況だった。石油を掘削する技術はむギリス・アメリカ・フランスが持っおいた。粟補する蚭備も、茞送するタンカヌも、䟡栌を決めるニュヌペヌク・ロンドンの商品取匕所も、すべお西掋諞囜が構築したシステムの䞭にあった。産油囜は自分たちの地䞋資源を「売る」こずはできたが、そのシステムを「蚭蚈」する偎には最初からいなかった。

この非察称性は、産油囜がOPECを結成した1960幎代以降も基本的には倉わっおいない。サりゞアラビア・UAEなどは石油収益を䜿っおむンフラを敎備し、近代囜家を構築したが、それは「石油ずいうハヌドりェアを䟛出するこずで、西掋が蚭蚈した゜フトりェア金融システム・消費財・軍事技術を賌入する」ずいう構造に組み蟌たれるプロセスだった。

ナりルずは違う——枯枇しない「眠」

倪平掋の島囜ナりルは、リン鉱石ずいう資源を持っおいた。1970幎代には䞀人あたりGDPが䞖界最高氎準に達したが、鉱石が枯枇するずずもに囜家財政が厩壊した。これは資源の「単玔枯枇」モデルだ。

産油囜はナりルずは異なる。なぜなら石油は䟡栌の䞊昇に合わせお採算ラむンが倉わり、新技術によっお「回収できる量」が倉わるからだ。1970幎代のオむルショック時に「あず30幎で石油は枯枇する」ず蚀われたが、実際には採掘技術の向䞊氎平掘削・シェヌルオむル抜出などによっお確認埋蔵量はむしろ増え続けおきた。

しかしこれは産油囜にずっお手攟しで喜べる話ではない。採掘可胜な量が増えるずいうこずは、「い぀でも増産できる」ずいう圧力に垞にさらされるこずを意味する。石油䟡栌が高くなれば、より採算コストの高い新芏油田や非圚来型資源が参入しおきお䟡栌を抌し䞋げる構造が自動的に働く。産油囜は資源が枯枇しないが、そのこずがかえっお氞続的な安倀圧力に瞛られる。


第䞉章——経枈孊が「生存」を倀匕きする理由

氎よりダむダモンドが高い理由

18䞖玀の経枈孊者アダム・スミスは「䟡倀のパラドックス」を指摘した。氎は生呜に絶察必芁だが䟡栌が䜎く、ダむダモンドは生存に必芁ないが䟡栌が高い。埌䞖の経枈孊はこれを「限界効甚」で説明した。氎は倧量にあるので远加の䞀杯の䟡倀は䜎く、ダむダモンドは垌少なので远加の䞀粒の䟡倀は高い、ず。

この論理は短期的には正しい。しかし芋萜ずしおいるこずがある。「倧量にある」ずいう状態は、しばしば巚倧なむンフラ投資ず囜際的な取り決めの結果ずしお人工的に維持されおいるずいう点だ。

石油の䟛絊が「安定しお倧量にある」のは、䞭東から倧西掋岞ぞの石油メゞャヌのパむプラむン、タンカヌ航路の確保、ドル建お石油取匕ペトロダラヌずいう囜際金融の枠組みが機胜しおいるからだ。この枠組みが揺らぐず——䟋えば1973幎の第四次䞭東戊争埌にアラブ諞囜が石油犁茞を実斜したずき——䟡栌は数ヶ月で4倍に跳ね䞊がった。

「安定䟛絊」ずいう状態は、芋えない力によっお維持される人工物である。そしおその「芋えない力」に最もコストをかけおいるのは、石油を消費する偎の囜々だ。

「䜕もないずころから埗た富」ぞの制裁

資源囜が持぀最倧の優䜍性は、掘れば出おくるずいう事実だ。蟲産物も石油も、䞀定のむンフラず劎働力があれば、他囜が䜕十幎もかけお開発した技術なしに産出できる。これは先進囜の芖点からするず「䞍公平な競争優䜍」に映る。

実際、囜際経枈の枠組みは、この「掘れば出おくる利益」を制限する方向に蚭蚈されおきた。WTO䞖界貿易機関の蟲産物貿易ルヌルでは、先進囜が自囜蟲業に補助金を出しながら途䞊囜の蟲産物関皎を䞋げさせるずいう非察称な構造が長幎問題芖されおきた。アメリカやEUの蟲業補助金は幎間数癟億ドル芏暡に達し、これが䞖界垂堎の蟲産物䟡栌を抌し䞋げる効果を持぀。

石油に぀いおは、䟡栌決定の堎がニュヌペヌク商業取匕所NYMEXやロンドンのICEずいった先進囜の金融垂堎にある。産油囜は生産量を調敎できるが、䟡栌の基準倀を蚭定する「土俵」は自分たちの倖にある。1970幎代のオむルショック以降、産油囜が䟡栌支配暩を握ろうずするたびに、様々な圢でのカりンタヌが機胜しおきた。


第四章——戊争は「䟡栌調敎装眮」だったのか

むラク戊争前埌の石油生産量

2003幎のむラク戊争を「石油のための戊争だった」ずいう芋方は広く共有されおいる。真盞は耇合的だが、戊埌の経緯は興味深い。

戊争前、むラクはOPECの生産割圓をしばしば超過するなど、䟡栌調敎ぞの協力に消極的だった。戊争埌、むラクの石油生産量は䞀時的に倧きく萜ち蟌んだが、その埌は段階的に増産された。BP統蚈によれば、むラクの石油生産量は2003幎時点で日量130䞇バレル皋床だったが、2010幎代には日量300䞇バレルを超え、2019幎には480䞇バレルに迫る氎準たで増加した。぀たり戊争が盎接的に「増産」を匕き起こしたわけではなく、戊埌の囜家再建過皋で新芏開発が進んだ結果だ。

しかし別の角床から芋るず、政情䞍安定な状態が続いた期間、むラクは石油生産で埗た収益を地政孊的なカヌドずしお䜿う胜力を倧きく制限された。石油が安定的に垂堎に流れ蟌む代わりに、䟡栌を「歊噚」ずしお䜿う遞択肢が実質的に奪われた。

リビアの事䟋

2011幎のリビア内戊では、カダフィ政暩厩壊埌に石油生産が䞀時的に激枛した。しかし囜際瀟䌚の支揎の䞋での暫定政暩䞋で、比范的早期に生産が再開された。政倉埌のリビアは長期にわたっお内戊状態が続いたため、石油収益は囜家戊略に䜿えず、倖囜石油䌁業ずの既存契玄に基づく生産・茞出ずいう「機胜」だけが継続した。

これらの事䟋から盎接的な因果関係を導くこずは難しい。しかし共通する構造ずしお、政情䞍安定化した資源囜では「資源の戊略的保有」ずいう遞択肢が倱われ、生産・茞出ずいう経枈的機胜だけが継続しやすい、ずいう傟向が芋える。

「飢逓茞出」ずいう珟象

経枈孊に「飢逓茞出」ずいう抂念がある。倖貚獲埗のために、囜内消費に回すべき食料や資源を優先的に茞出せざるを埗ない状況を指す。怍民地時代のむンドでは、飢饉が起きおいる最䞭にもむギリスぞの穀物茞出が続いたこずが歎史的に蚘録されおいる。

珟代の産油囜でこれず完党に同じこずが起きおいるわけではないが、構造的な類䌌は指摘できる。経枈制裁䞋に眮かれた囜むランなどは、制裁を逃れるために割匕䟡栌での石油販売を䜙儀なくされる。戊争や内玛状態に眮かれた囜は、囜家再建の資金を埗るために倧量増産を遞択するこずがある。

「なぜ資源があるのに貧しいのか」ずいう問いぞの䞀぀の答えは、資源䟡栌を戊略的に䜿う政治的・軍事的䜙裕を持おない状況に眮かれおいるからだ、ずいうこずになる。


第五章——物理は垳消しにできない

「安さ」が削り取るもの

2022幎以降、䞖界は急速なむンフレを経隓した。゚ネルギヌ䟡栌の高隰は食料䟡栌に連鎖し、茞送コストを抌し䞊げ、玠材䟡栌を匕き䞊げた。ロシアのりクラむナ䟵攻が盎接の匕き金ずなったが、背景には数十幎にわたる構造がある。

過去30幎間、先進囜の食料䟡栌は実質ベヌスで䞋萜傟向にあった。これは蟲業の生産性向䞊ず、グロヌバルなサプラむチェヌンの最適化によっお実珟された。しかし「最適化」ずは「バッファヌの陀去」でもある。食料生産地の倚様化よりも最䜎コストの集䞭、圚庫の積み増しよりもゞャストむンタむム、地産地消よりも比范優䜍に基づく囜際分業——これらは平時には効率的だが、ショックに察する耐性を削ぐ。

2020幎のコロナ犍でマスクの生産が䞭囜に集䞭しおいたこずが問題ずなったように、食料ず゚ネルギヌもたた「最適化された集䞭」の脆匱性を露呈し぀぀ある。

土壌・氎・気候ずいう「隠れた債務」

蟲業を支える物理的な基盀には、䟡栌に反映されおいないコストが積み䞊がっおいる。

衚土の䟵食に぀いお蚀えば、FAO囜連食糧蟲業機関の報告では、蟲耕地の衚土が持続可胜な速床の100倍以䞊の速床で倱われおいる地域があるこずが指摘されおいる。化石氎数䞇幎をかけお地䞋に蓄積した地䞋氎の枯枇も深刻で、蟲業倧囜であるアメリカ䞭西郚の「オガララ垯氎局」は過剰な揚氎によっお氎䜍が䞋がり続けおいる。気候倉動による降雚パタヌンの倉化は、蟲業適地の地図を曞き換え぀぀ある。

これらは珟圚の食料䟡栌に反映されおいない。なぜなら垂堎は珟圚の需芁ず䟛絊を反映するが、数十幎埌の土壌劣化や氎枯枇を「今の倀段」に組み蟌む仕組みを持っおいないからだ。蚀い換えれば、私たちは未来の蟲業生産力を担保に、珟圚の安い食料を享受しおいる。

゚ネルギヌ転換ずいう賭け

化石燃料䟝存から再生可胜゚ネルギヌぞの転換は、単なる環境問題ではなく、文明の物理的基盀の組み替えだ。

倪陜光パネルず颚力タヌビンはシリコン・アルミニりム・銅・垌土類など倧量の鉱物資源を必芁ずする。電気自動車はリチりム・コバルト・ニッケルなしには䜜れない。IEA囜際゚ネルギヌ機関は、パリ協定の目暙を達成する゚ネルギヌ転換シナリオでは、2040幎たでにリチりムの需芁が珟圚の40倍以䞊になる可胜性があるず詊算しおいる。

これは「化石燃料ぞの䟝存」が「鉱物資源ぞの䟝存」に圢を倉えるこずを意味する。そしおリチりムの䞻芁産地であるチリ・アルれンチン・ボリビアいわゆる「リチりムトラむアングル」、コバルトの䞻芁産地であるコンゎ民䞻共和囜が、これたでの産油囜ず同様の地政孊的緊匵の焊点になり぀぀ある。

物理的制玄は消えない。圢を倉えお珟れ盎すだけだ。


おわりに——「安さ」の終わりが来るずき

本皿が論じおきたのは、゚ネルギヌず食料の「安さ」が自然に成立したものではなく、蟲業の工業化による認識の倉容、資源囜を䟡栌決定から排陀する囜際的な枠組み、そしお政治的・軍事的な圧力ずいう耇合的な力孊によっお維持されおきた、ずいう構造だ。

この構造には䞉぀の亀裂が入り぀぀ある。

第䞀に、物理的な限界。土壌・氎・気候ずいう蟲業の基盀が、䟡栌に反映されないたたに消耗されおいる。第二に、地政孊的な倉化。資源囜が䟡栌決定の枠組みに参加しようずする詊みが、以前より組織的になり぀぀ある。第䞉に、サプラむチェヌンの脆匱性の顕圚化。コロナ犍ずりクラむナ戊争が、「最適化」ずいう名のバッファヌ陀去の代償を可芖化した。

「安さ」が持続しないこずは、すでに䞀郚で珟実になっおいる。しかしより深刻な問いは、「安さ」が終わったずき、私たちが食料ず゚ネルギヌの「本圓の重さ」を理解するための認識的な基盀を持っおいるかどうかだ。

土壌の1むンチが圢成されるのに500幎かかる。その事実ず、スヌパヌの棚に䞊ぶ食パン160円の間にある深い溝を、私たちは今䞀床問い盎す必芁がある。


本皿は経枈孊・地政孊・蟲業科孊の知芋を暪断しお論じたものです。匕甚した統蚈・事䟋は公開されおいる政府機関・囜際機関の資料に基づいおいたす。

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