ショートショート|雨宿りの家
雨宿りをしている。
霧雨みたいにまとわりつく雨で、全身がびしょ濡れになっている。
雨宿りは、雨を避けるため。だけど、この家は違う。外は晴れていても、家の中にはいつも霧雨が降っている。どの部屋にも雨が降っている。
あの人がこの家にいる。きっと霧雨の中でだけ存在できる。あの人は霧雨の日に道路で逝ってしまったから。翌日も同じ雨が降り続いていた。あの人が倒れた場所に行ったら薄い人影がいた。
僕は傘を投げ捨てて、一緒に来てほしいと願った。あの人は僕の家にきた。霧雨と共に。それからずっと古い木造の家の中には雨が降っている。
リビングも布団も床も濡れている。もう床も腐りはじめてる。そのうち家はダメになる。でも、あの人がこの家にいる。言葉を交わすことはできないし、触れることもできない。けれど、ここにいるんだ。
終わりはきっとくる。あの人は消えてしまうだろう。だって少しずつ薄くなっているから。できるだけ長くいたいから、僕は倒れるわけにはいかない。時々、仕事に出かけて、夜は濡れた布団の代わりに公園のベンチで眠る。雨宿りの家に帰るときは、あの人がいるか不安になる。
家の柱は腐って、もう傾き出している。そして、あの人は日に日に薄くなっていく。今では、目を凝らさないと見ることができなくなっている。
ある日、あの人の唇が動いた。声には出ないけれど、「じゃあね」と言っていた。あの人が消えてしまう。連れて行ってくれよ。あの人がいなくなるなら、僕もいなくなっていい。
霧雨が降り続く家が静かに傾いていって、大きな音を立てて倒壊した。
僕は壊れた家を、青く晴れた高くて広い空から見ていた。
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