「ちんぷんかんぷん」
「ちんぷんかんぷん」は、奥が深い。
「ちんぷんかんぷん」は、「わけがわからない」という意味だが、その語源については、諸説紛紛。
いろいろ調べてみると、たいていの解説で、最後は、
「よくわかりません」
で終わっている。
が、頭を整理して冷静に考えてみると、それほどちんぷんかんぷんな話でもなさそうだ。
「ちんぷんかんぷん」は、もとは「ちんぷんかん」だった。
(「ぷん」は、「ふん」「ぶん」とも。)
漢字では、「珍糞漢」「珍紛漢」「陳奮翰」などと表記されるが、いずれも当て字だ。
文献で確認できる初出は、江戸時代、貞享4年(1687年)に刊行された役者評判記『野郎立役舞台大鏡』に、
ちんふんかんの絶句律詩につづってしさいをこねましたによって猫に小判を見せたやうてよひやらわるいやらひとつもがてんまいりませぬ。
とある。
ここでは、絶句・律詩のことを「ちんふんかん」と形容している。
つまり、意味不明の文章を「なんだかよくわからない漢詩のようなもの」と呼んでいる。
時代が下って、宝暦13年(1763年)に刊行された平賀源内の『風流志道軒伝』(巻五)には、
文武の道を表にかざり、ちんぷんかんの屁をひつても知行の米を周の枡ではかり切で渡されなば、其時却て聖人を恨べし。
とある。
ここでは、漢詩に限らず、広く「わけのわからない話」のことを「ちんぷんかんの屁理屈」と言っている。
また、同じく平賀源内の『根南志具佐』の「自序」には、
唐人のちんぷんかん、天竺のおんべらぼう、紅毛のすつぺらぽん、朝鮮のむちゃりくちゃり・・・
とある。
ここでは、
唐人(中国人) → ちんぷんかん
天竺(インド人)→ おんべらぼう
紅毛(オランダ人) → すつぺらぽん
朝鮮(朝鮮人) → むちゃりくちゃり
という具合に、それぞれの国の言語らしく聞こえるが、意味不明で「わけのわからない言葉」を擬声語で茶化している。
つまり、江戸時代の日本人の耳には、唐人の話す言葉は「ちんぷんかん」のような音に聞こえた、ということだ。
「〇ん〇ん〇ん」というように「ん」を列ねているのは、「とんちんかん」や「あんぽんたん」と同じように、リズミカルで滑稽な響きを持たせるためだろう。
当て字に使われている漢字が「珍」(奇妙な)、「糞」(クソ)、「紛」(まぎらわしい)、「漢」(中国/奴)などであることから見ても、唐人や儒学者を揶揄したり小馬鹿にしたりしている言葉であることがわかる。
さて、「ちんぷんかん」(6文字)が「ちんぷんかんぷん」(8文字)になった初出の文献としては、安永9年(1780年)刊の滑稽本『古朽木』に、
長松めが何かちんぷんかんぷんを覚えをったが・・・
とある。
「ぷん」を繰り返しているのは、特に意味はなく、単にリズムをより諧調にする語呂合わせだろう。
以上のように、「ちんぷんかんぷん」は、もともと漢詩漢文の難解な言葉を真似て戯画化した「ちんぷんかん」が、やがて「わけのわからない話」一般を指すようになり、さらに「ぷん」をもう一つ重ねて「ちんぷんかんぷん」となった、と考えられる。
なお、これとはまったく別に、中国語の
「听不懂」(聞いて分からない)
「看不懂」(見て/読んで分からない)
に由来するとする説がある。
この2語の発音は、
「听不懂」は、tīng bu dǒng(ティンプトン)
「看不懂」は、kàn bu dǒng(カンプトン)
であるから、並べて「听不懂、看不懂」と言うと、意味も発音も「ちんぷんかんぷん」によく似ている。
しかし、「ちんぷんかんぷん」という言葉が江戸時代にすでに存在し、それが文献的に確証できる以上は、中国語由来説を成り立たせるのは難しい。
そもそも「听不懂、看不懂」の発音は、北京語を基礎とする現代標準中国語のものであり、江戸時代の日本(特に長崎)の人々が接した福建や浙江など南方系の中国語のものとは異なる。
面白い説ではあるが、「こらっ!」の語源を中国語の「過来」(クオライ)だとするのと同様に、俗説の域を出ない。
余談。
「とんちんかん」は、「ちんぷんかん」と語呂が同じで、意味も似たところがある。辻褄が合わないこと、見当外れなことを言い、漢字では「頓珍漢」を当てている。
鍛冶屋で2人の職人(師匠と弟子)が交互に槌を打ち下ろす時にタイミングが合わず音が揃わないことに由来する云々、というのが一般的な解釈だが、真偽のほどは定かでない。
もう一つ余談。
現役時代、中国語の授業で「結果補語の不可能形」を教える時、
日本語の「ちんぷんかんぷん」は「听不懂、看不懂」から来てるんだよ。
と、いい加減なことを言っていた。
恥ずかしながら、引退した今になってようやくこの説が「あやしい」ということを悟った。
デマや都市伝説は、こうした「いい加減」から生まれるのか・・・
と、ふと思った。
反省 (_ _ ) 😓
