82. 値下げする前に直すべき場所がある
価値を削るその前に、守るべきものがある
安さという逃げ道を選ぶより、相手の「もどかしさ」を拭い去ること
加納光|40年間、誰よりも「選ばれない理由」と向き合い続けてきたからこそ、伝えたいこと
一生懸命に汗をかいているのに、なぜか思うように評価が追いつかない。
そんなもどかしさを抱えている人には、ある共通点があります。
それは、決してあなたの力が足りないからではありません。
ただ、心を配る「ピント」が、ほんの少しだけずれているだけなのです。
数字をいじるよりも先に、相手の心に寄り添えているか
客足が遠のいたとき、多くの人が真っ先に頼ってしまうものがあります。
それが「値札」の書き換えです。
「もう少し安くすれば、また手に取ってもらえるはず」
「他よりも下げれば、きっと選んでもらえる」
その切実な思いは、痛いほど分かります。
けれど私は、この40年という歳月のなかで、何度も目の当たりにしてきました。
安さに逃げたことで、わずかな利益さえもこぼれ落ち、自分たちの首を絞めてしまう。そんな悲しい結末を。
本当は、価格という数字に手をつける前に、もっと深く見つめるべきものがあるのです。
たとえば、あなたにとってのお気に入りの美容室を思い出してみてください。
他より少し背伸びが必要な価格設定。
けれど、いつ訪れても予約はスムーズで、担当の方は自分の髪質を誰よりも理解してくれている。
お会計のあとも、晴れやかな気分で店を出られる。
そんな充実感があるからこそ、「次もまたここで」と心に決めているのではありませんか?
反対に、安さだけが魅力のお店はどうでしょう。
長いこと待たされ、説明もどこか事務的で、落ち着かない。
「安いけれど、もう次はいいかな……」
そんなふうに、心がふっと離れてしまった経験が、一度や二度はあるはずです。
人は、ただ安いからという理由だけで、誰かを愛し続けるわけではありません。
むしろ、ほんの少しの不快感や、心のざらつきを避けるために、そっと離れていくものなのです。
ランチの値段を100円下げた飲食店があったとします。
けれど、料理が運ばれてくるのは遅く、お水もなかなか出てこない。
隣の席には前の客の食器が残ったまま。
これでは、いくら安くしたところで、一度冷めてしまったお客さまの心を取り戻すことはできません。
私が向き合ってきた多くの現場で、いつも伝えていることがあります。
苦しいときほど、安易に価格を下げてはいけない。
一度削ってしまった価値は、そう簡単には元に戻せないからです。
だからこそ、私は経営者の方々に、数字ではなく「相手との向き合い方」を問い直してもらいます。
お問い合わせに対する返信が、相手を不安にさせるほど遅れていませんか?
最初の説明は、相手の心にスッと届く言葉になっていますか?
誰かとの約束を、疎かにしてはいませんか?
迎え入れる心に、その日暮らしのムラはありませんか?
商品の魅力が、相手の目に映る瞬間にこぼれ落ちていませんか?
手に取るまでの道のりに、面倒な段差はありませんか?
不思議なことに、これらを一つひとつ丁寧に整えるだけで、価格を下げずともお客さまが戻ってくる。そんな光景を私は何度も見てきました。
見積もりの返信を翌日から当日に変えただけで、信頼を勝ち取った会社。
看板を少し見やすく整えただけで、ふらりと立ち寄る人が増えたお店。
複雑な資料を一目で分かる一枚に絞り込んだだけで、話を聞いてもらえるようになった営業マン。
こうした小さな変化こそが、大きな流れを生むのです。
あなた自身も、そうではありませんか。
同じくらいの値段なら、感じの良い人から買いたい。
少し高くても、余計な手間がかからない方を選びたい。
いくら安くても、心が疲れてしまうような相手は避けたい。
私たちは、価格という数字だけで動いているわけではないのです。
だから、うまくいかないときほど、焦って価値を安売りしないでください。
やるべきことは、お客さまの心を遠ざけている「小さなしこり」を、一つひとつ解いていくこと。
その「直しどころ」は、あなたのすぐそばに、まだたくさん残されているはずです。
