見出し画像

調 和 | 揺らいでいるとき、次のバランスが始まっている。

揺れているとき、人はつい、

「何かが間違っている」

と思ってしまいます。

でも、本当にそうなのでしょうか。


天井から吊るされたモビールを、 指先でそっと押してみます。

ひとつのパーツが動くと、
糸でつながった他のパーツも、 少しずつ位置を変えていく。

さっきまでとは少し違う形で、
やがて全体がまた静かに吊り合います。


私たちは、自分だけで生きているわけではありません。

家族。

仕事。

友人。

職場。

住んでいる場所。

関わる人。

そうしたものとの関係の中で、
知らないうちに自分自身のバランスを取っています。

それを「良い」と思っていても、 「苦しい」と思っていても、

そこには今の自分と世界との間で成立している、 ひとつのバランスがあります。

だから、何かを「整える」ということは、

単純に悪いものを取り除くことでも、 理想の形に無理やり戻すことでもない。

今あるバランスから次のバランスへ移っていくこと、なのかもしれません。


――ここで、実際にあった話をひとつ。

以前、ある開業医の先生からご依頼をいただきました。

長年医院を続けてきた中で、 うまくいっているはずなのに、 どこか噛み合わない違和感を抱えていらっしゃいました。

「人と場の状態を、よくしてほしい」

そんなご依頼でした。

先生とともに、 医院という場を取り巻く状態を、 一つひとつ見つめ直していきました。

そして、その後。

医院を取り巻くさまざまなものが、 少しずつ動き始めます。


職員の退職一時期、ドクターとスタッフ一人だけになるほど職員の退職が重なりました。ると、 悪いことが起こったように思えます。


これまで診ていた患者さんを、 同じようには受け入れられなくなりました。

断らなければならないことも出てきた。

受付対応まで、 院長自らが行うことになりました。


「良くしてほしい」と依頼したのに、 起こったことだけを見れば、 むしろ医院は大変な状況になったようにも見えます。

けれど、 ここからさらに変化が起こりました。



診ることのできる患者さんの人数には限界があります。

だからこそ、一人ひとりに丁寧に事情を説明していく。


すると、

その医院にこれからも通い続ける人と、
他の医院へ主治医を変更する人とに、

自然と分かれていきました。


そして、残った患者さんたちには、 ひとつの共通点がありました。


医院の状況を理解し、 院長の都合にも合わせながら来院してくださる。

医院と患者さんとの間で、 コミュニケーションを取りやすい方たちだったのです。


その後、スタッフも一人、また一人と増えていきました。


そして一年後。

先生から、

「大変になる前よりも、 今のほうが良い環境になりました」

と報告をいただきました。



この話を聞いたとき、
私は「調和」という言葉を考えました。


最初に起こったことだけを見れば、 バランスが崩れたように見えます。


人が減った。

患者さんも減った。

仕事のやり方も変わった。

それまで当たり前だったものが、 一度、崩れています。


でも、その揺らぎの中で、

医院と患者さんとの関係が変わり、
院長とスタッフとの関係が変わり、
新しい環境がつくられていった。


振り返ってみれば、 あの「崩れ」は、
次のバランスへ移るための時間だったのかもしれません。



ここで、以前から私が感じていることと つながりました。

人生でも、 大きく流れが変わるときがあります。

そんなとき、 必ずしも毎日が穏やかになるわけではありません。


むしろ、

「本当にこれでいいのだろうか」

「前の自分のままでいた方が安心なのではないか」

そんな不安が出てくることがあります。


今までうまくいっていたものが、 うまくいかなくなる。

人との関係が変わる。

仕事の形が変わる。

自分自身の考え方まで変わってしまう。


その瞬間だけを見れば、 「何かがおかしくなった」と感じるかもしれません。


でも、もしかするとそれは、

バランスが崩れたのではなく、
次のバランスへ移っている途中なのかもしれません。



――もうひとつ、たとえがあります。

岸に立っていれば、 身体は揺れません。

足元は安定しています。

けれど、 そこから見える景色は変わりません。

波の上に出れば、揺れます。

身体も揺れる。

進む方向も変わる。

ときには、怖くなることもある。

でも、その揺れがあるからこそ、
今まで見えなかった景色へ進んでいくことができます。


私は以前、
人生の流れが大きく変わる時期を「ボーナスタイム」
呼んだことがあります。

その時間は、 何をやってもうまくいくような 楽な時間ではありません。

むしろ、 自分自身のバランスが大きく揺れる時間です。

それでも「ボーナス」と呼ぶのは、
岸にいたままでは出会えなかった景色に、
その揺れがなければ辿り着けないからです。

今振り返ると、
その感覚は「調和」という考え方にも
つながっているように思います。



だからもし今、

何かがうまくいかない。

以前のようにできない。

人間関係が変わった。

仕事の形が変わった。

これまで大切だったものが、 少しずつ変わってきた。

そんなことが起きているのなら。


すぐに「元に戻そう」としなくても いいのかもしれません。


もちろん、 苦しいことを我慢する必要はありません。

離れるべきタイミングが来ているのなら、 無理に留まる必要もありません。


ただ、

「この揺らぎには、どんな意味があるのだろう」

と、一度だけ立ち止まってみる。


今までのバランスでは、 もう合わなくなったものはないか。

逆に、 新しく生まれ始めているものはないか。


離れていくものと、 近づいてくるもの。


誰かとの関係が変わったことで生まれた、新しい「余白」。


自分が変わったことで、周囲との響き合いはどう変わったのか。


そんなふうに見ていくと、 「失った」と思っていた出来事の中に、

次の可能性が見えてくることがあります。



私たちは、 いつも同じバランスで生きる必要はない。

昨日の自分にとって心地よかった場所が、
今日の自分には窮屈になっているかもしれない。

昨日は必要だった人間関係が、
今は少し違う形を求めているかもしれない。

それは、 何かが間違っていたということではありません。

自分が変われば、 自分を取り巻く世界とのバランスも変わっていく。


そして、 世界が変われば、 また自分のあり方も変わっていく。


その繰り返しの中で、 私たちは新しい調和をつくっていくのです。



調和とは、 ずっと静かで安定していることではない。

揺れながら。

変わりながら。

ときには一度、 それまでのバランスを手放しながら。

そのときの自分と世界に合った、 新しいバランスを見つけていく。


その過程そのものが、 調和なのかもしれません。


だから、今あなたが揺れているのなら。

それは必ずしも、 間違った場所にいるということではない。


もしかすると今は、

次の調和へ向かっている途中なのかもしれません。


KAMUNAが考える「整える」も、 きっと同じところにあります。


何かを元に戻すのではなく、 見えないものと見えるものの関係を見つめる。

そして、 今の自分と世界にとっての 新しいバランスを探していく。


整えることは、決して「元に戻すこと」ではありません。

揺れ揺れを受け入れ、
その先にあるまだ見ぬ新しい調和へと
向かっていくのです。

---



KAMUNA LIFE

KAMUNAでは、「場」や「暮らし」の中にある小さな気づきを、
KAMUNA LIFEという無料マガジンに綴っています。

いつもの暮らしを、少し違う目で見てみる。
そんなKAMUNAからの小さな提案です。

KAMUNA LIFEは無料でお読みいただけます。


#KamunaLife

いいなと思ったら応援しよう!