オリジナル短編小説『消えない火花と朝やけの空』
夢を追いかけるということは、いつだって少しだけ苦しかった。
僕らの夢は、自分たちの作った音楽で飯を食べていくこと。
しかし、現実は甘くなかった。
メジャーデビューの契約こそ果たしたものの、手にできるのは月に15万円ほど。
本当にギリギリの生活だった。
少しお金が足りなくなるとバイトをして、その場をしのぐ。
ライブ後の打ち上げ代もばかにならないし、対バンライブに呼んでもらえない時期が続くと、精神的にも追い詰められていった。
ストレスがピークに達していた僕たちは、ある日ついに壊れてしまった。
ライブの最中、客席から「がんばれー!」と声が飛んだ。
その瞬間、ボーカルの龍二がマイクに向かって叫び返した。
「がんばってるわ!」
会場の空気が一瞬で静まりかえった。
すると、ギターのモッチがすっとマイクの前に立った。
「俺、バンド辞めまーす」
モッチはそれだけ言い残すと、ステージを降りていってしまった。
そんな彼の後を、昔からのファンである古参の山本さんが、慌ててライブハウスの外へ追いかけていった。
ギターが抜け、僕たちは3人体制で活動を続けることになった。
それでも、胸の中の火は消えていなかった。
僕たちのバンド名は「線香花火」
花火の中で唯一、湿気ることがない花火。
去年より今年、今年よりも来年、より綺麗な火を輝かせる。
儚さと、そんな芯の強さを持つ存在になりたくて名付けた名前だった。
そんなある日、あの時モッチを追いかけて行った山本さんが訪ねてきて、僕たちに頼み込んできた。
「俺をギターとして入れてくれませんか」
「モッチの代わりなんていねぇよ」と龍二が拒む。
「絶対、3人じゃなく4人でやるべきなんすよ。……客、減ってますよね」
ベースの大治郎が、少し怒りを込めて言い返した。
「客に何がわかるんだよ」
「モッチさんのためにも、バンドは人気のままでいなきゃいけないんすよ」
押し問答が続くなか、ドラムのタケが口を開いた。
「じゃあ、オーディションやろうか」
「いいね」と龍二が頷く。
「1週間後、吉祥寺のスタジオで俺たちの代表曲『朝やけ』を一発勝負でやろう。3人全員が納得したら加入していいよ」
「ありがとうございます!」
山本さんはそれから、死に物狂いでギターを練習した。
オーディションを控えたある夜、山本さんは公園でモッチと会っていた。
モッチは頭を下げており、山本さんは溢れそうになる涙をこらえながら、その手を強く握りしめていた。
緊迫した空気のなかで行われたオーディションで、山本さんは完璧な演奏を披露した。
「合格だな」と龍二が言った。
「だな」と大治郎も認める。
「よろしくー」とタケが笑顔を見せた。
メンバーが再び4人になり、一度は離れてしまった客足も戻ってきた。
「次はもっとでかいライブハウスでやるか?」
順風満帆に見える状況のなかで、山本さんだけが一人、冴えない表情を浮かべていた。
ある日のスタジオ練習。
気合が入りすぎていたのか、4人は集合時間よりもかなり早く到着してしまっていた。
「みんな気合入ってるね」と龍二が笑う。
「俺たち今、向かうところ敵なしだろ」とタケが胸を張る。
「そうだね」と大治郎も笑った。
山本さんだけが「……」と黙っていた。
その時、4人のスマートフォンがほぼ同時にLINEの通知音を鳴らした。
「えっ、なに?」
画面を覗き込んだ全員の時が止まった。
元ギターのモッチが、死んだという知らせだった。
「お前……お前なんかギターに入れるんじゃなかった」と、龍二が山本さんに詰め寄った。
山本さんは何も言えず、ただ黙っていた。
「マジかよ……」と大治郎が絶句し、タケが「死因は?」と尋ねた。
亡くなった理由は分からないまま、僕たちは葬儀に出席した。
そこで知らされたのは、自殺ではなく、膵臓がんだったという事実だった。
式が終わった後、龍二が山本さんに声をかけた。
「俺、勝手に自殺だと思ってた……すまねぇ」
「いや……大丈夫っす」
実は山本さんは、モッチから直々に「俺の代わりにギターとして加入してほしい」と頼まれていたのだった。
そして、そのことを他のメンバーには絶対に秘密にしておいてくれ、と固く口止めされていた。
「なんで言わねぇんだよ……」と龍二が呟く。
『俺が頼んだって知ったら、あいつらは優しいから断れなくなる。そんな状態で演奏してほしくないんだ。最高の演奏をしてほしいからさ』
あの夜の公園で、モッチは空を見上げ、涙を流しながらそう語っていた。
『まだあいつらと、夢を見たかったな……』
葬儀が終わり、火葬場の煙突から空へと昇っていく煙に向かって、山本さんはギターをかき鳴らした。
その切ない音色に合わせ、龍二が歌い出す。
もう一度逢いたい 会って話がしたい 逢いたい 逢いたい
もう一度逢いたい 会って話がしたい 逢いたい 逢いたい
集まっていた線香花火のファンたちも、静かに涙を流していた。
モッチが亡くなってから初めて立つライブのステージ。
MCで、龍二が静かにマイクに向かって語りかけた。
「もう二度と言わないから、ひとつだけ頼みがある」
客席の誰もが、息をのんで龍二を見つめた。
「がんばれーって、言ってくれないか? 今日だけ、でっかい声で『がんばれー』って叫んでくれ」
一瞬の間を置いて、会場中から地鳴りのような声援が沸き起こった。
「がんばれーーー!」
「がんばれー!」
「がんばれ!!」
龍二は深く頷き、力強くマイクを握りしめた。
「ありがとう。……それじゃあ、最後の曲を聞いてくれ。朝やけーー!」
↓↓↓
代表作です。
未成にだけ効くドラッグが流行りました。
大好きな話。男女の友情は成立するのか
事件から感動作へ
冷めきった夫婦がSNSで再び…
実話。耐えた時間。耐えきれなかった、身体。
いいなと思ったら応援しよう!
物書きを仕事にしたくて頑張ってきました!1度諦めた夢です。しかしnoteと出逢えて表現場所が出来て嬉しいんです!有料記事を無くしていきたいのでチップの応援お願い致します🙇♂️