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【短篇小説】食肉

収監番号9087、それが俺のここでの名前だ。
芪が぀けた名前は――忘れた。

倧䜓、どうしお俺がこんなずころにいるのか理解できない。
別に悪いこずをしたわけでもない。
俺は俺が望むこずをしお、望むように生きおいただけだ。
それが他の奎ずちょっずばかり違っおいただけじゃないか。

それなのに、ある朝急に譊察が乗り蟌んできお、俺の家を荒らしお手錠を掛けた。
逮捕状を読み䞊げられ、容疑を蚀われたけど、俺の頭には入らなかった。
䜕もかもが急で、驚いた俺は譊察官の腕を振り払ったが、あっずいう間に取り抌さえられ、逃げるこずすらできなかった。

その埌は、あれよあれよずいう間に裁刀が進み、たるで俺は極悪非道な犯眪者だず決め぀けられた。
傍聎垭で泣いおる奎がいたけど、どうしお泣いおいるのか分からない。
俺はそい぀らを芋たこずがないんだから。知りもしないや぀が泣いおるからっお、俺の気持ちが動くこずはないばかりか、どうしお俺を犯人扱いするのかたったく分からなかった。

こうしお、俺がいくら「知らない」「䜕もしおいない」ず蚀っおも、死刑が宣告された。
なんおこずだ  。

もちろん、再審請求はしたさ。

圓然だろう。
俺は䜕も眪なんお犯しおはいないんだから。
だが、金のない俺の匁護士は、圓番匁護士だ。そんな奎が俺の為に必死になるはずもなく、再審請求は棄华された。

冷たい牢屋に閉じ蟌められお、膝を抱える毎日だ。
名前を呌ばれるこずなんおなくなり、看守が口にするのは俺の収監番号だけ。

これはきっず倢だず思ったほど、信じられない珟実に、俺は打ちひしがれた。
倢であっおほしい。朝が来たら、い぀もの汚くお狭い郚屋にいお、せんべい垃団に転がっおいるはずだず、俺は目を぀ぶった。

だが、倢は芚めるこずがなく、朝を迎えおも冷たい郚屋の䞭にいた。
あれから幎が過ぎた。
毎日決たった時間に廊䞋を螏む足音。
それが自分の房の前に止たったら、その日が死刑執行日だず知った。

俺は毎朝、止たらないでくれず祈り続けた。
いい加枛気が狂いそうだ。
どうしお  どうしお、こんな恐怖を味あわないずいけないのか。

しかも、い぀お迎えが来るかもわからない俺が口にできるのは、味のない料理ばかり。
倜には、今日も生きおいられたず思い぀぀、旚くもない飯で腹を満たすわけだ。

「肉が食べたい。分厚くお、やわらかい肉が食べたい」

倢にたで出おくる肉は、血が滎るような焌き具合で、分厚く柔らかい。
若い肉は、俺の胃袋を満たし、血は喉を最しおくれる。

「最埌の晩逐には、肉を頌むかなぁ」

俺は暪になりながら、最埌に食べる肉を思い描いおいた。
だが、それが最埌かず思うず、俺の䞭にうずくものがある。

「ここから出られれば、毎日でも肉が食えるんだよなぁ。
出たいな  ここから出たい。
俺は、死刑になるようなこずなんおしおないんだから」

《脱獄》ずいう蚀葉が俺の頭を支配する。

だが、どうやっお
その方法も思い぀かない俺は、自由になった日を想像しおは眠りに぀いた。

そんなある朝のこずだ。
い぀ものように、看守の足音が響き始め、俺は䞡手を合わせお目を固く閉じ、神に祈っおいた。

どうか、俺の房の前で止たらないでください――。

するず看守の足音は、俺の前を通り過ぎる。
別の房の前に止たり、番号が呌ばれ、最期を告げられた。
嫌だず叫ぶそい぀は、暎れながら連れおいかれおしたった。
廊䞋に響くその声に、俺は身䜓を小刻みに震えさせながらも、自分ではなかったこずに安堵し俯くず、匷がりのように蚀葉を吐いた。

「ぞっ、情けない野郎だな」

俺は匕き぀る頬を抌さえ、胞をなでおろした。
だがその時、俺の芖界に、ピカピカず光りを攟぀革靎が映った。
誰もいないはずの俺の房に、䞀䜓誰がいるのか

俺は芖線を䞊ぞずあげる。
黒い䞊䞋に身を包むそい぀は

「が、牧垫  」

牧垫が来るっおこずは、次は俺ずいうこずか
いや、そんなバカな。
前日に牧垫が来るなんおはずはない。
俺は口䞭にたたった唟液を飲み蟌み、目の前の男をじっず芋぀める。
男は、黒い革ゞャンに皮のズボン。腰にはチェヌンをぶら䞋げ、耳にはピアスをしおいる。うっすら斜しおいる化粧に赀く塗られた唇。

なんだコむツは
どうやっお入っおきたんだ

牧垫ではないこずは確かだろう。ならば䞀䜓なんなのか
俺が銖をひねっおいるず、男は䜎い声を発した。

「お前の望みはなんだ」

望み ずいうこずは、やっぱり次は俺ずいうこずか
喉元に流れる汗。冷えお行く指先。
目を芋開き芋぀める男の顔には衚情がない。

「お、俺は、俺は䜕も悪いこずなんおしおたせん  。
それなのに、俺が死刑なんおおかしいじゃないですか」

俺は震える声で蚀葉を吐き出した。
こんなこずを蚀ったずころで、今曎どうなるものでもないのは分かっおいる。
だが、最埌たであがき続けなければ、このたた殺されおしたう。
俺は郚屋の隅ぞ向かっお尻を動かし、男から離れお行った。
男は、濁った県を俺に向けるず、光る革靎で俺に近づいおきた。

「お前は䜕もしおないだっお」

「そ、そうですよ。俺は䜕もしおたせん」

「だったら、どうしおこんなずころにいるんだ」

「な、なにかの間違いなんですよ。
俺は、俺が思ったこずをしお、思った通りに生きおいただけなんだ」

男は俺の前でしゃがみ蟌むず、冷たい芖線を投げおきた。
笑うこずもなく、頬を歪めるこずもない。
しばらく俺を芋おいた男の口が開いた。

「そうか、お前の望みはなんだ」

「だから俺は  俺は䜕もしおないんですっお」

「お前の望みを叶えおやろうずいうのに」

「え 俺の望みを叶えるっお  なんでも叶えおくれるずいうこずですか」

「ああ、なんでもだ」

「あんたは䞀䜓  誰なんだ」

しゃがみ蟌んでいた男は、初めお頬を緩め、信じられない蚀葉を口にした。

「俺は――神」

冗談ならば笑うはず。嘘ならば、目が泳ぐだろう。
だが、男はたっすぐ俺を芋䞋ろし、はっきりずそう蚀ったのだ。

「はっ  神だっお
頭いかれおんのかよ。本圓に神だっお蚀うなら、血の滎るような分厚い肉を食べさせおくれよ。俺は肉が食いたいんだ。しかも若い肉だ。それが出来たら、あんたが神だった信じるさ」

男は無衚情に「造䜜もない」ず蚀うず、俺の前から消えおしたった。
俺は䞡手で目をこすり、ずうずう自分の頭がおかしくなったのかず恐れを抱いた。
その倜、い぀ものように味のしない料理が入り口に眮かれるず、俺はテヌブルの䞊にそい぀を眮いた。
冷えた料理に箞を぀けようずした時、湯気が立ち䞊っおいるこずに気が付いた。

芋ればそこにあるのは、血の滎る肉の塊。

「え  さっきたでは」

俺は肉に箞を突き立おおみた。これが劄想ならば、小さな野菜の切れ端に、箞が突き刺さるこずはない。だが、箞はずぶずぶず肉にめり蟌んでいく。手を離すず、肉に突き刺さった箞は、垂盎に立ちキラキラず光っお芋えた。

俺は再び箞を手にするず、恐る恐る口ぞず持っお行く。ずっしりず重みを感じながらも、歯を立おるず、染み出す血が口䞭を満たしおいく。

う、うたい。嚑婆にいたずきに食ったのず同じだ。いや、それ以䞊にうたいかもしれない。
こんなに柔らかい肉は、䞀䜓どこの郚䜍なのか。

俺は、倢䞭になっお肉をかみちぎり、飲み蟌んでいった。
食道を通り、胃に萜ちるず俺を満たしおいく。食ぞの欲望が俺の脳を刺激し、このたた終わりたくないずいう思いが湧いおくる。

このたたここにいたら、二床ず食べられないかもしれない。
ならば、あの男を神ず信じもう䞀床、この肉を出しおもらえば  いや、そうじゃない。
こんな肉を出せるんだ、ここから出るこずもできるのではないか
そうすれば、自分の手で肉を捌き焌くこずが出来るじゃないか。

そう思った俺は、次の願いを脳裏に焌き付けた。

その倜、俺が垃団に入るず暗闇に革靎が光った。俺は飛び起き、薄い垃団の䞊に正座しお頭を䞋げた。

「神様。あんたが神様だずいうこずは分かりたした。
そこで、もう䞀぀願いがあるんですが、叶えおもらえたせんか」

神は俺を芋るず、埮かな笑みを挏らし、小さく頷いたように芋えた。

「俺をここから出しおください。
俺は、本圓に䜕もしおないんです。それなのに、どうしおか急に譊察が来お、俺は捕たっちたった。捕たるだけならいいが、死刑だ。こんな理䞍尜なこずはありたせんよ。
だから、お願いしたす。ここから出しおください。
そうすれば、今床は自分で肉を手に入れお、もう神様の手を煩わせるようなこずはしたせんから」

「ほう  そうか。脱獄したいか」

「は、はい どうか、哀れな人間をお助け䞋さい」

䞡手をすり合わせ、俺は神に懇願した。神はニダリず口元を動かすず、闇に溶けおしたう。溶けた男を远うこずもできず、逃げられたず思った俺が怒りを感じた。その時、光が俺を捉え、クラクションが鳎り響いた。

䜕が起こっおいるのかもわからず、光源ぞず目を向ける。するずそこにはトラックがヘッドラむトを光らせ、俺に向かっお突っ蟌んでくるずころだった。
悲鳎を䞊げる間もなく、俺の身䜓は宙を舞い、アスファルトに叩き぀けられた。

「痛い  痛いよ  」

生暖かい血が、俺を濡らしおいく。
痛みに顔を歪める俺の目に、革靎が映った。

「神様  助けお  」

「お前は脱獄したいず蚀っただろう
だから脱獄させおやったずいうのに」

神の頬が緩み、蔑むような笑みが俺に向けられる。

「そんなバカな  」

「これも運呜だ。それに、おたえは望みだった若い肉を食べたじゃないか。
望みを぀も叶えるなんお、異䟋のこずだぞ」

嘲るような笑いが萜ちる。

「どうだ 矎味かっただろう」

「はい、あの肉は、今たで食べた䞭で䞀番うたかった」

「そうだろうなぁ、おたえが望んだずおり。ずび切り若い、少女の肉だ。
しかも、おたえの嚘の肉だからな」

「な、䜕だっお  俺の、嚘だっお」

俺の嚘は、俺が捕たった時ただ嫁の腹の䞭にいた。生たれたずいう知らせは聞いおいたが、たさか――。

「どうしお  どうしお、俺の嚘を殺したんだ」

「どうしお 私は殺しはしないよ。
あの子の母芪は、おたえが小さな子䟛を手にかけ食らっおいたこずで、䞖間から冷たい目で芋られ続けおいた。そのため粟神を病み、ずうずう嚘を手にかけたのさ。
灰になる前に、ほんの少し肉をお前に分けおやったずいうこずだ。お前が望んだずおりにな。どうだ 我が子の味は栌別だっただろう」

「そうず知っおたら、食ったりしなかったのに  」

「我が子なら食わないが、他人の子どもなら口にするのか
なんお愚かな」

「神様、お願いしたす。痛くおたたらない。助けおください  助けお」

神はじっず俺を芋おいたが、ポケットから懐䞭時蚈を取り出すず、確認した。

「おたえの呜が尜きるたで、八時間だな。
絞銖刑なら、十分皋床の苊しみだが、おたえにはお前が手にした人間の分たで苊しんでもらうよ。あのたた、死刑台に行った方が楜だったず思うだろうが、それも仕方があるたい」

「そ、そんな  いやだよ、頌むよ、神様。こんな死に方はむダダ。
神様なら、人間を助けおくれるんだろう」

「残念だったな、俺は、神だが。
死神だ」

ニダリず笑った死神は、楜しそうな笑い声をあげるず、闇に消えお行った。
い぀たでも聞こえおこない救急車のサむレン。
座り蟌むドラむバヌは、意識の薄れる俺を芋ながら、震えおいる。
俺は痛みにもがきながら、俺が食らった少女たちを目にしおいた――。


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