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【童話】ねこがみつけた魔法のことば


猫は、おばあさんと年老いた犬と暮らしていました。
犬はおばあさんと話せるのか、おばあさんは犬を撫で、話しかけています。
ですが、猫はそんな二人を見て、羨ましいとは思うものの、言葉が通じないのだからしょうがないと思っていました。

それでも、おばあさんと話ができたら、どんなに素敵だろうとずっと思っていたのです。
ある日、猫は犬に聞きました。

「ねぁ、おじいさんはどうやって人の言葉が話せるようになったの?」

すると犬はチラリと猫を見て、空を見つめました。

「ねえ! どうやって?
みたところ、おじいさんは人語を話しているようには見えないんだけど。
僕が見ていないところでは、おばあさんと話しているんでしょう?」

猫はずっと、犬は人間の言葉を話せるから、おばあさんとも仲がいいのだと思っていたのです。
若い猫は、何度も犬に聞きました。
犬はとうとう根負けして、秘密の話をしました。

「しょうがない、教えてやろう。
わしが話せるのはな、神様に魔法を掛けてもらったからじゃよ」

魔法と聞いた猫は目を輝かせました。

「魔法か!
それで、神様はどこにいるの?」

「ずっと遠くの山の上だ。
雲よりも高くそびえる山だから、誰も行ことはできないさ」

猫はちょっとがっかりしました。
行くことができない山の上にいたのでは、自分に魔法を掛けえてもらうことはできません。
しかし、犬はちゃんと神様に魔法をかけてもらっているのです。

何日も考えていた猫は思いました。
犬は神様に会いに行ったに違いなく、犬にできることなら自分にもできるだろうと。

それからはご飯をたくさん食べました。
お腹がはちきれるほどパンパンにすると、いよいよ神様に会いに行く日が来ました。

家を出るとき、猫は犬に言いました。

「僕は神様に会いに行ってくるからね。
しばらく家には帰れないけど、おばあさんに心配しないでって伝えてね」

犬は大きな欠伸をすると、細く目を開け、また閉じてしまいました。
毎日寝てばかりいるおじいさん犬です。
パタパタと動く耳で、猫の言葉は弾き飛ばされてしまいました。

そんなこととは知らない猫は、雲よりも高い山めがけて走り出します。
いつもは家にいるばかりで、散歩すら行ったことのない猫は、肉球に刺さるジャリに血を流し、焼けたアスファルトで肉球を火傷し、それでもひたすら走り続けました。

隣町に入ると、今度はなわばりを守ろうとする大きな猫に出会い、噛みつかれたり殴られたりしました。
それでも猫は走り続けました。

猫には、おばあさんと話せるようになった自分の姿しか見えていません。

「僕も話せるようになったら、絶対におばあさんに『大好きだよ』って言うんだ!」

町を通り過ぎ林を抜け、森を抜けると登り坂が続きます。
地面にはアチコチ大きな石が転がり、高い木が覆いかぶさってきます。
雨が降っては泣きたくなり、夜になると辺りは真っ暗。
どこからか、テレビで聞いたことのあるフクロウの声が聞こえてきます。

「こ、怖くなんてないよ。
僕はおばあさんと話すんだから……」

木の根元で丸まり、震える身体で夜を明かすとまた走りました。
毛皮は艶がなくなり、あちこち血が滲み、もう走ることもできなくなった時、柔らかい風が猫を包みました。

「やぁ、猫君。そんなにボロボロになってどこに行くの?」

ぴくぴくと動かした耳は確かに声を聞いています。
しかし、周りには誰もいません。

「はは。私には姿はないよ。風だからね」

「風?! 風が話せるの?」

「ああ、話せるよ」

猫は思いました。
きっと、神様が魔法をかけてくれたからだと。
そこで猫は聞きました。

「僕は神様のところへ行くんだよ。
それで、お願いごとをするんだ」

「へぇ、願いか。それはどういう願いなの?」

「人間とお話ができるようにって」

風は黙りました。
そして猫をじっと見つめました。
猫はとても真剣な目をしています。

「だから、神様がどこにいるのか教えてくれないかな?」

「……この山の頂上にいるよ。
まだまだ、大変な道だけど……頑張れば、きっと会えるよ」

そう言うと風は、木の葉を躍らせて走っていってしまいました。

「そうか、まだ遠いけど必ず会えるんだね!」

いつまでもたどりつかないため不安になっていた猫ですが、風に教えてもらえたことで元気が出ました。

「このまま歩き続ければいいんだ!」

猫はさらに歩きました。
何日も何日も歩き、お腹がすくとネズミを捕まえ、虫を捕まえました。
喉が渇くと川の水を飲みました。
こうしてやっと山のてっぺんにつくと、あたり一面雲の絨毯が敷かれ、木でできた家がありました。

ドアを叩くと、中から長い白ひげを垂らしたおじいさんが出てきました。

「なんだ、猫か。
随分とボロボロじゃないか」

「神様お願いします。僕を、人間の言葉がしゃべれるようにしてください!」

突然言われた神様は驚きました。
しかし、猫の目は本気のようです。
それに、本気でないなら、こんなにボロボロになってまで神様の元までやってくることはないでしょう。

「ふむ……そうか。
ならば授けてやらんこともない。
しかし、一朝一夕にはいかんぞ」

「え? それはどういうこと?」

「人間の元に帰ったら、ひたすら人間の言葉を聞き勉強せにゃあなぁ。
そして人間が何をしているのか、とにかく見ることだ。
そうしているうちに、ちゃんと魔法が効いてお前の願いはかなえられるだろう」

そう言った神様は猫にそれでいいかと聞くと、猫は首を縦に動かしました。
神様は持っていた杖で、猫の頭をこつんと叩くと、雲を呼びました。

「この猫を、飼い主の元に連れて帰ってやりなさい」

すると雲から手が伸び、猫を優しく包むと、ふわふわの背中にのせてくれました。

「神様、ありがとう!」

猫は嬉しそうに言うと、雲はぷかぷかと浮き上がり、人間界目指して飛び始めました。

家に着くと陽だまりで犬が寝ています。
猫は雲から飛び降りると、犬に挨拶しました。

「おじいさん、ただいま!
僕もおばあさんと話ができるようになったよ!」

犬はチラリと猫を見ましたが、その目は「何を言ってるんだろう?」と言っているようでした。

家の中に入ると、心配していたおばあさんが猫を見つけ喜びました。

「まあ、心配していたのよ。
こんなに痩せて、ボロボロになって可哀そうに」

すぐにご飯をくれました。
猫は嬉しくて、喉をゴロゴロと鳴らしながら「ありがとう!」と言いましたが、出てきた声は「ニャー」だけでした。

魔法をかけてもらったはずなのに、どんなに人間の言葉を話そうとしても、話すことができないのです。
そこで猫は神様が言ったことを思い出したました。
それは、人間の言葉を聞き、やってることを見て勉強しないといけないということです。

魔法が掛かったからと言って、自分でなにもしないままでは、魔法の力は効いて来ないということでした。

その日から、猫はどこにいてもおばあさんの言葉に耳を傾けました。
料理をしているときのおばあさん。
テレビを見ているときのおばあさん。
犬や猫を撫でているときのおばあさん。
今までは風景の一部でしかなかったおばあさんが、どんどん猫の中に入ってきます。

鼻歌を歌いながら料理をし、笑いながらテレビを見る。
嬉しそうに自分たちを撫で、腰を叩きながら掃除をする。

猫の心に、おばあさんの寂しさや悲しさ、嬉しさや楽しさが流れ込み、しみ込んできます。

そんなある朝、おばあさんが目を覚ましました。
猫はいつものように、おばあさんのそばに行くと「おはよう!」と言いました。
出てきた声はやっぱり「ニャー」です。
ところがおばあさんは、顔中くしゃくしゃにしてこう言ったのです。

「あらまあ、おはようって言ってくれたのね」

その顔はとても嬉しそうです。
猫は不思議でした。
決して人間の言葉が出たわけではないのですから。
ならば、もう1つ試してみようと猫は鳴きました。

すると、おばあさんは笑顔で返してくれます。

「お腹が空いたのね、ご飯にしましょうか」

驚いた猫はベッド下で寝ている犬を見ました。
犬は面倒そうに顔を上げましたが、かすかに笑っているのが分かります。

猫は思いました。

今までは人の言葉を話さないと通じないと思っていましたが、おばあさんがやっていることを見て、おばあさんのことを考えていると、言葉がなくても通じるのだ、ということを。

そこで猫はずっと伝えたかったことを言いました。

「おばあさん、大好き!」

その声はやっぱり「ニャー」です。
でも、おばあさんは嬉しそうに笑顔を作ると、猫を抱き上げ優しく包んでくれました。

猫は思います。
神様の魔法はちょっと失敗だったけど、これも悪くないなと。


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