「サビ管が来月で辞めます」——その一言で、月67万円の黒字が月17万円の赤字になる
障害者グループホームの収支計画を作っている方の表を見せてもらうと、人件費の欄がだいたいこう書かれています。「世話人◯人×時給◯円、夜勤◯人×◯円、サービス管理責任者1名 月35万円」。
きれいに並んでいます。ただ、この表には決定的に抜けているものがあります。サービス管理責任者(サビ管)が1ヶ月不在になったとき、その月の売上がいくら下がるかという欄です。
先日、開業ジャパンの本編記事(障害者グループホームは本当に儲かるのか)で、定員10名のモデルを組みました。満室で月67万円が残る、8人目でトントン、という数字です。あの記事では「サビ管の欠員は報酬減額につながる」と一行だけ触れて先に進みました
。今日はそこを、金額まで開いて書きます。
「人がいない」が、そのまま「売上が下がる」に直結する事業
私たちの本業はフランチャイズ本部の支援です。飲食でも物販でも、スタッフが1人辞めたときに起きるのは「回らなくなる」「オーナーが自分で埋める」という現場負荷の問題でした。売上は落ちますが、それは営業時間を短縮したり接客の質が落ちたりした結果として落ちるものです。
福祉サービスは構造が違います。人員基準を満たしているかどうかが、報酬そのものの計算式に直接入っています。サビ管が欠けた翌月から、事業所の基本報酬に減算がかかる。現場が全力で回っていても、利用者の満足度が高くても、関係ありません。基準を満たしていないという事実だけで、請求できる金額が機械的に下がります。
ここが、他業種から参入する人が一番読み違えるポイントだと思っています。「人が足りない月は、自分が現場に入って耐える」という他業種の必勝パターンが、この事業では通用しません。管理者である自分がサビ管の要件(実務経験年数+基礎研修・実践研修の修了)を満たしていない限り、穴は埋まらないからです。
本編のモデルに、欠員をあてはめてみる
本編と同じ条件で計算します。定員10名・満室・1人あたり月収入30.2万円・固定費月200万円・変動費1人3.5万円。この状態の月間売上は約302万円、残るお金は約67万円でした。
ここにサビ管欠員による減算がかかったとします。減算率は制度改正で変わるため確定値としては書けませんが、仮に基本報酬部分が3割減という水準を置いてみます。
給付費は1人あたり約22万円、10人で月220万円。この3割が減ると月66万円が消えます。売上は302万円から236万円へ。費用は235万円のまま——人件費155万円も家賃28万円も、サビ管が1人いないだけでは1円も減りません。むしろ採用広告費が増えます。
結果、月67万円の黒字が、月1万円の黒字になります。ここに採用広告や紹介会社の費用が月10万〜20万円乗れば、あっさり赤字です。そして減算は、後任が着任して届出が受理されるまで続きます。3ヶ月かかれば約200万円、半年なら約400万円が満室のまま消えていきます。
しかも、減算の重さは月数が経つほど増していく設計になっている場合があります。「探しているところです」という状態が長引くこと自体が、金額として跳ね返る仕組みです。
実務で起きるのは、だいたいこの順番です
よくあるのはこういう流れです。サビ管が「来月末で辞めます」と申し出る。管理者は慌てて求人を出す。応募は来ます——ただし、サビ管として届出できる要件を満たした人は、そのうちのごく一部です。
要件は実務経験年数と、基礎研修・実践研修の両方の修了で成り立っています。研修は各都道府県が年に限られた回数しか開催せず、定員もあります。つまり「研修だけまだ受けていない有望な人」を採用しても、その人が要件を満たすのは半年後や1年後です。採用できた=届出できる、ではありません。
ここで多くの管理者が初めて気づきます。この職種は、募集をかけてから調達するものではなく、在籍している間から次のあてを持っておくものなのだと。開業前の資金計画で「サビ管 月35万円」と1行書いた時点では、その人が辞める確率も、辞めたときの減算額も、どこにも計上されていません。
本部側・制度側にも、これは筋が通っている
念のため書いておくと、この減算の仕組み自体はおかしなものではありません。
サビ管は、利用者一人ひとりの個別支援計画を作り、定期的に見直し、支援がその計画どおりに行われているかを管理する役割です。その人がいない事業所は、支援の質を担保する仕組みが止まっている状態にあたります。給付費は税金と保険料から出ているお金ですから、「質を担保する体制がある前提で払っている報酬を、体制がない期間も満額払う」というわけにはいきません。減算がなければ、サビ管を置かない事業所のほうが儲かってしまう——制度としてそれは許容できない、という話です。
だから、これは制度の欠陥ではなく、この事業に参入する側が織り込むべき前提です。
明日できること
契約書や計画書に手を入れるなら、この3つです。
1. 事業計画のリスク欄に「サビ管欠員3ヶ月」の行を作る
資金計画のシートに、満室時の利益とは別に「基本報酬が3割減った月」の行を1本足してください。上のモデルなら月66万円のマイナスです。これが3ヶ月続いても現金が尽きないか。本編では運転資金6ヶ月分(1,200万円前後)を目安に書きましたが、その根拠のひとつがここです。
2. サビ管候補者の「研修修了年月」を、採用面接で必ず確認する
履歴書の職歴欄ではなく、基礎研修と実践研修それぞれの修了証の年月を見せてもらってください。実務経験年数だけ足りていて研修が未修了、というケースは実際にあります。ここを口頭確認だけで済ませると、届出の段階で覆ります。
3. 指定申請の前に、自治体の担当課で減算の適用条件を直接聞く
減算率と、欠員が発生してから適用が始まるまでの猶予期間の扱いは、制度改正で変わります。事前相談に行くとき、新規指定を受け付けているかの確認と一緒に、「サビ管が欠けた場合の取り扱い」を必ず聞いてメモしてください。担当課で聞いた内容が、あなたの資金計画で一番効く数字になります。
数字の前提が変われば結論も変わります。自分の地域・自分の資金でどう組めるかは、実際に手を動かして確かめてください。
参考にした情報
中小企業庁 https://www.chusho.meti.go.jp/
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 J-Net21 https://j-net21.smrj.go.jp/
e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/
※障害福祉サービスの報酬・人員基準・減算の要件は制度改正で変わります。最終確認は厚生労働省および指定を受ける自治体の公式資料で行ってください。
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開業ジャパン編集部
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