見出し画像

社福法人経営者は6月のヒアリングから何を読むか、R9介護改定の試金石

報道では「財務省 vs 厚労省」という対立フレームで語られがちな話題から、今日は始めます。けれども、当日に配られた資料を実際に開いてみると、その対立フレームは誤読に近いと分かります。

きっかけは4月28日です。財務省の財政制度等審議会と、厚生労働省の障害福祉報酬改定検討チームが、同じ日に並列で開かれました。両者の資料は、それぞれの順序で論点を並べた上で、ともに「持続可能性」を最先頭に置いています。

強弱は違う。けれども、向きは並走しています。障害福祉サービスを併設する社会福祉法人の経営者にとってこれは、令和9年度の介護報酬改定の議論を先読みする観察素材が、今後8ヶ月で順次姿を見せる、ということを意味します。今日の MITSUKETA編集部の見立てです。


4月28日、同日開催された2つの会議 — 「対立」ではなく「持続可能性」の並走

4月28日、財政審の財政制度分科会と、厚労省の検討チーム第55回が並列で開催されました。財政審側は89ページの配布資料を出し、うち障害福祉に関する記述は page 70 から 88 に集中しています。厚労省側は資料5と資料6で、令和9年度改定に向けた進め方の案を示しました。

財政審 page 70 で論点を置く順番を確認します。最初に「持続可能性に係る課題」、次に「人材確保等の課題」、その後に賃上げや事業所の収支構造が並ぶ。厚労省側の資料6でも、改定の議論枠組みとして6つの視点が示され、その視点1がやはり「持続可能性」です。

「対立」とは、論点を置く順番が違うことを言います。両者は最初に置く論点が一致しています。MITSUKETA編集部としては、この一致は事実認識の共有として読み、温度差はそのあとの強弱として読みます。

「費用2倍」を分解する — 虐待・営利・収支差の3点

財政審が引いた数字を確認します。障害福祉サービス等の総費用額は、2014年度から2024年度の10年間で 2.0兆円から 4.2兆円へ、約2倍に増えました(財政審 page 73)。

「2倍」というインパクトはありますが、財政審が問題視するのは増加量そのものではなく、増加の中身です。資料を読み込むと、主な指摘は次の3点に分解できます。

  • 虐待件数の増加:障害福祉サービス事業所の虐待件数は、平成26年度の311件から令和6年度の1,267件へ約4.1倍に増えました。とくにグループホームでの虐待件数は約9倍の伸びで、全体の31.6%を占めます(財政審 page 78)。

  • 営利企業の参入拡大:障害福祉サービス事業所(障害児サービスを除く)の数は、平成28年3月から令和7年3月までに、営利企業以外が55,566から63,012、営利企業が27,102から53,525と推移しました(財政審 page 79)。営利の事業所数だけが約2倍に伸びています。

  • 児童発達支援・放課後等デイサービスの収支差率:令和6年度実績で児発+7.8%、放デイ+9.1%(財政審 page 74)。財務省は参考として、中小企業の収支差+3.8%の2倍超だと記しています。

一方、厚労省の検討チーム資料6・視点1は、令和6年度報酬改定後の総費用伸びを+12.1%、自立支援法施行(2006年)からは「4倍以上」と書きます。財政審側の前年度比+11.3%との差は、集計範囲の違いだと推測されます。財務省側は障害児サービスを除いた集計、厚労省側は表記上の集計範囲を明示していません。

数字の中身が一致しているということは、両者の議論は事実認識の上ではすでに合流している、ということです。

6月から始まる53団体ヒアリングと、社福法人経営者の判断時系列

ここから本記事の中核です。厚労省の検討チーム資料5「進め方(案)」を、社福法人経営者の判断時系列に翻訳します。

スケジュール案は次の順序で並びます。

  • 令和8年6月から8月:関係団体ヒアリング(53団体・6〜7回・1団体15分・1回あたり8団体程度)。

  • 令和8年8月:論点整理。

  • 令和8年11月:サービス横断的事項の検討。

  • 令和8年12月:「考え方の整理」公表。

  • 令和9年2月:改定案の取りまとめ。

  • 令和9年3月:告示。

  • 令和9年4月:施行。

社福法人経営者から見ると、この時系列は3つの節目に分かれます。

第1の節目は6月から8月の関係団体ヒアリングで、自法人が所属する団体の発言要旨が確認できる時期です。第2の節目は11月のサービス横断的事項の検討で、グループホーム・児発・放課後等デイなど、複数のサービスを同時に運営する法人にとって、横断視点での議論が初めて立ち上がる時期です。第3の節目は12月の「考え方の整理」で、年末までに方向性の姿が見えます。

53団体の一覧は、検討チーム資料6に五十音順で並んでいます。GH・児発・放デイ・生活介護を併設する社福法人なら、関係する団体は複数になります。「自法人と直接関係する団体は、何回目のヒアリングに、何分の発言時間で並ぶのか」を6月時点で押さえておくと、12月の「考え方の整理」が公表された時に慌てずに済みます。

併設なしの介護施設長にとっても、この時系列は他人事ではありません。MITSUKETA編集部としては、令和9年度の介護報酬改定の議論プロセスを先読みする観察窓として、同じスケジュールを横目に置く価値があると考えます。ただし、転写の中身を断定することは避けます。

介護報酬改定の試金石として、まず見るべき3つのマイルストーン

最後に、社福法人経営者が今後8ヶ月で見張るべき3つのマイルストーンに絞ります。

第1のマイルストーンは、令和8年11月のサービス横断的事項の検討です。論点が個別サービスから横断視点に移る時点で、介護報酬改定の議論で取り上げられる「人材」と「物価・賃上げ」の枠組みが、障害福祉側でどのように整理されるかを観察します。

第2のマイルストーンは、令和8年12月の「考え方の整理」公表です。令和9年度障害福祉改定の方向性が初めて文書として姿を見せる場で、財務省側の指摘(虐待・営利・収支差)が、厚労省6視点(持続可能性・人材・賃上げ等・ニーズ・サービスの質・他制度連携)のどこに分配されたかを読み取れます。

第3のマイルストーンは、秋に予想される財政審の建議です。財政審 page 70 から 88 で示された論点が、建議でどの強度で残るか、または弱まるかを観察します。介護報酬改定の議論への反映の中身は断定できませんが、強度の方向は読み取れます(推測です)。

社福法人経営者は、12月の「考え方の整理」で慌てないために、6月のヒアリングから観察を始めます。併設なしの介護施設長にとっては、令和9年度介護報酬改定の前哨戦として、同じ3点を横目に置く。それが、今日の MITSUKETA編集部からの提案です。

参考リンク

👉 MITSUKETAは介護現場の「で、どうする?」に毎日答えます。フォローで見逃し防止。


いいなと思ったら応援しよう!