解き(土)の章∞第100話|死を”告らせる”ガクブチ
2025年10月13日
夜十時。
深夜。
ガラ ガラ ガラぁー
玄関フード
開く音。
ん?
ギュー、バタン!
突如
家(整体院)の
玄関の、戸が、開いた。
「な!なんだ!
こんな時間に!」
驚く風志。
強盗か。
いや――
里緒に
何かあったのか。
もしや、
妻に何かあったのか――
急いで
玄関へ。
すると
そこには
母。
風志の
母が
いた――
いつもは
施錠するものの
たまたま
閉め忘れていた
のもあり、
何も
言わずに
入ってきたようだ。
実家は
徒歩数分の所に
ある。
が、
父母とも
後期高齢者。
こんな深夜に
来ることは
まずない。
始めての
出来事。
とにかく
其処に
佇む
母に
只々
驚いた。
すると。
驚く風志を横目に、
夢遊病者のように
意味不明な事を
話し出す。
(母)
「そうむ…ぶちょう(?)…
えらい人(?)に、
私、何か大事なやり取りを
忘れているかもしれない。
大丈夫だろうか……?」
まだ終わらない。
続けて――
(母)
「ガクブチ…
くちょう(?)さんに
渡さないと……」
ますます意味不明。
それでも。
言葉尻から
何となくは分かった。
そうむ…ぶちょう
は
総務部長。
くちょう
は
区長。
いずれも
自治会の役職名だ。
母は三年前、
自治会の区長を務めていた時期がある。
(実際の業務の多くは、私が代行していた)
自治会の役員。
これが、なかなか骨が折れる。
毎月の会議に回覧板。
夏祭り準備に。
次期役員の人選――
厄介事も数知れず。
それゆえ。
その頃の疲弊した記憶が、
・「総務部長」
・「区長」
といった言葉として、
混ざって出てきているのだろう。
そうも思った。
くわえて。
母は、
少し“認知っぽさ”を
見せ始めていた。
老苦。
生老病死。
いずれは
皆が
辿る道。
仕方ないな
と。
それにしても
こんな深夜。
やはり
驚く。
しかも、
誰にも言わず
出てきたようで。
(風志)
「お父さんに
言わないで出てきたの!
家にいないと
分かったら
大騒ぎになるよ!」
「送っていくから
とりあえず
戻ろう!」
「自治会の事は
スルーでいいよ。
大丈夫(笑)」
体育の日を過ぎた頃。
雪虫が少しずつ舞い始める。
”彼”らは冬の使者。
夜道に
寒さが仄かに憑く。
ふたりで
ぽつぽつ
歩いた。
母を
実家まで
送り届けた。
とりあえずは
ひと安心。
でも。
妙に
引っ掛かる。
まずは
言葉の内容――
任期を終えてから
3年も経ってからの
この発言。
なんかおかしい。
そして
タイミング――
明日、10月14日は、
担当医との初面談日。
しかも
この面談。
家族まで呼び出される
と
いうことは、
十中八九
厳しい告知になる――
そのことは間違いない。
その、前夜。
しかも
世が寝静まる
深夜。
母には面談のことは
伝えていないはず。
だから
意図して来たとは思えない。
やはりおかしい――
深夜の有り得ない来訪。
不可思議な言葉たち。
予知?
霊夢?
それとも、
認知による錯綜?
本音を言えば、
後者であってほしい。
でもね。
母には前例がある。
かなり前になる。
母には
寝たきりの姉がいた。
ずっと病院生活。
そんな折、
とある年の
5月4日。
母
心臓
急に
苦しみ出す。
緊急事態。
家族みんなで
風志弟の車で、
隣町の大病院へ。
結果は異常なし。
しばしして
症状も
落ち着く
の
だが。
その
ちょうど
一か月後、
6月4日。
姉、没。
――
これ。
偶然とは
思えない。
今回も
なのか。
沈黙の空間で
考える。
しばし――
ふと。
あ。
繋がった。
――すべて。
そうか。
そうだったのか――
卍 「そうむ」 → 葬儀(そうぎ)
卍 「えらい人」 → えらい事(大変な事になった)
卍 「ガクブチ」 → 遺影の額縁
卍 「くちょう」→ おくやみ回覧
こう
読み解ける。
||
黄泉解ける。
背筋に
雪虫が憑く。
どこか
冬が
霊(み)えた。
不眠の峠が
追って来た。
眠れない。

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