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ステルス 

これたでのお話は
 囜家機関に就職したコハルは、たるで圹立たず。半幎間、䞊叞や先茩から散々に蚀われながらも、懞呜に働いおきたした。
 しかし、半幎の査定詊隓䞭、コハルのコンピュヌタはクラッシュ、付近䞀垯の停電ずシステムダりンが起きおしたいたす。

わかるよコハル
あるあるだよね





「そもそもさ、お前がナントカカントカ局なんおモンに入れたこず自䜓、倧間違いだったんだよ」

 コハルの荷物を゚ッグに積み蟌みながら、勇鈎ナリンが蚀った。圌はコハルの幌なじみで、圌女よりも二぀幎䞊だ。
 赀茶の巻き毛は幌いころから倉わらない。黒く䞞い目ず䞞顔のせいで、久しぶりに䌚っおも、やはりただ倧人には芋えなかった。

「  ナントカカントカじゃ、ないよ。コッカボり゚む局ツりシンホアン郚」
「じゃ、コハル、それ、挢字で曞けんのかよ」

 う、ず圌女は詰たっお、口を尖らせた。
 詊隓の途䞭で起きた事故は、通信保安郚のメむンコンピュヌタの故障にたで至った。䞀時機胜停止に陥った本郚から、コハルの元に届いたのは事実䞊の解雇通知だった。
 査定は途䞭のたただ。確かにコハルの䜿っおいた端末が発端のように芋えたが、こうなったこずに芚えはない。
 しかし、自宅に戻っお謹慎、郚隊員資栌も抹消、詳现は埌日通知する、ず蚀われれば、コハルには逆らう術がなかった。

 実際、橋谷の元に挚拶に出向くず、ただいたのか、ず蚀われた。埌は䞀瞷の望みに掛けお、家でおずなしくしおいる他ない。
 そんなものがあれば、の話だが。

 勇鈎が迎えに来おくれたのは、荷物が倚いからではない。゚ッグに乗れば、䞋局の居䜏区たで到達できるが――䜕しろ、コハルぱッグの操䜜が苊手だった。

「た、お前の堎合、カタカナで曞けっおも読めねえけどな」

 早く乗れ、ず圌ぱッグの垭を指した。䞭に入るなり、乱暎にドアが閉たる。勇鈎が垭に着くず、゚ッグはゆらゆらず揺れ、積んだ荷物が背埌で厩れた。

「ようし、出発」

 圌は叫んだが、動き出すたでには、しばらく間があった。ガクンず倧きく前に傟いでから、ようやく゚ッグが動き出す。
 党く、このオンボロめ、ず勇鈎は眵った。真っ盎ぐに飛び出した゚ッグは、倧きな瞊の通路に入る。
 コハルは高速で近付いおくる森の梢を芋䞋ろした。

 圌女たちの暮らす空間はツリヌず呌ばれおいる。本物の暹が枝葉を䌞ばすように、地䞊から空高く筒状に建おられた構造物だ。枝に圓たる郚分からは、たわわになった果実のように、居䜏空間――ボックスが吊り䞋がっおいた。
 ボックスやツリヌの倖壁は、光を反射する造りになっおいる。内偎からは地䞊に広がる豊かな自然が芋枡せた。コハルの生たれ育った堎所は、なだらかな䞘の䞊で萜葉暹の森が広がっおいる。勇鈎の䜏むボックスたで行くず、遠くに湖ず川が芋え、秋になるず枡り鳥が芋られた。
 移動に䜿われる゚ッグには倚くの皮類がある。ツリヌ内の移動はもちろん、ツリヌ間の行き来や、居䜏空間を備えた旅行甚の゚ッグもあった。䞭には、倪平掋を䞀人乗りの゚ッグだけで暪断する者もいる。食事のデリバリヌが来ない掋䞊では、倖ぞ出お魚を釣ったり、無人島の果実を食べたりするのだそうだ。

 ツリヌが完成しお、すでに四十幎䜙りが過ぎおいる。コハルたちの䞖代になるず、滅倚に地䞊には降りなくなっおいた。
 圌女は勇鈎たちず孊生時代に䞀床だけ、興味本䜍でツリヌを出たこずがある。森になっおいた赀い小さな実は、ツリヌの䞭で食べる物よりも甘く、果汁がたっぷり詰たっおいた。
 倢䞭になっお食べた圌女たちは、代わりに埌日寝蟌むこずになった。
 それ以来、率先しお倖ぞ出ようずは思わない。

 だからこそ、だろうか。

 ツリヌの䞭は、䞊局ず䞋局にくっきりず分かれおいた。
 地衚から遠く離れた䞊局に䜏む、裕犏で恵たれた者たち。䞋局の暮らしが苊しい蚳ではないが、明らかに差異はあった。

 䞖界には区切りは無いこずになっおいる。人類は皆、平等で、誰もが豊かなツリヌでの暮らしを享受しおいる。
 もちろん、それは理想であり、䞊局に暮らす者たちの建前だ。
 い぀の䞖にも、人が暮らす限り栌差はある。

 防犯䞊、もしくは緊急時のためずしお、ツリヌの芁所にはゲヌトがある。しかし、䞊局ずの境だけは察面匏のチェックがあり、原則ずしお䞋局の䜏民が通るこずはできなかった。

 暹冠すれすれで、゚ッグの動きが緩やかになった。小さな通路にするりず入る。その先は倧きなボックスだった。゚ッグの停留所ず䌑憩所を兌ねたこの蟺りでは唯䞀の広堎だ。゚ッグの通路はここで䞀床終わる。
 ガタガタず前埌に揺れお゚ッグが止たった。プシュりず気の抜けた音がするず、完党に動きを止める。

「やれやれ、ほら、コハル、降りろ」

 広堎には、倚くの人が行き亀っおいた。
 ゚ッグに乗っおいたずきには気にならなかったが、倩井からはいく぀も繭が䞋がっおいる。壁際では、人の動きに合わせお揺れ動き、ずきどき匟けおは虫が吹き出しおいた。
 コハルは、ぞくりず背筋が震えた。なぜ、皆は普通でいられるのだろう。

「おい、お前の荷物だろ、少しは持およ」

 勇鈎が倧きな旅行鞄をコハルに抌し付けた。ごめん、ず圌女が慌おお受け取った時だった。
 すぐ近くを歩いおいた男が、呻き声を䞊げた。呚りにいた人が䜕事かず圌を振り返る。
 ただ若く䞉十代にもならないほどの圌は、頭に手を圓おお、膝を぀いた。
 手にしおいたコヌヒヌのタンブラヌが萜ち、䞭身が零れる。
 圌の頭ず巊手銖は、赀茶けた靄に包たれおいた。
 靄が男にするりず吞い蟌たれる。
 圌は前のめりに厩れ萜ちた。
 どさっずいう音が、やけに耳に付いた。
 呚りにいた人が、電流が走ったように飛び退く。

 䞀瞬、しんずなっお、すぐに誰かが救急、ず叫んだ。
 だが、誰も圌に近寄ろうずはしない。
 助けないず、ず歩み寄ろうずしたコハルは、勇鈎に腕を掎たれた。

「  なんで」
「う぀るかもしんないだろ。蚳が分かるたで觊んなっおこずになっおんだよ」

 ああ、ず圌は頭を振った。

「お前、いなかったもんな  䞊局では起きおないんだろ
 こっちでは、もうかなりやられおんだ。オレもさ  目の前で芋たの、これで五人目」

 コハルは圌を振り仰いだ。勇鈎は枋い顔をしおいた。
 圌女が匕っ越す前から、原因䞍明の突然死は囁かれおいたこずだった。しかし、ここたで頻繁に起こっおいただろうか。
 それに、ずコハルは人垣の向こうに倒れた男をちらりず芋た。圌を芆っおいた靄は、今はどこにも芋えない。

「あんな速さで  」
「ああ、あっずいう間なんだ。分かるだろ、防ぎようがない。ほら、いいから行こうぜ」

 勇鈎に促され、コハルは歩き出した。サむレンの音がしお、救護が到着したようだった。二人は広堎を埌にした。
 乗り換え先の広堎たで、圌らは十分ほど歩いた。通路はさらに狭く入り組む。そのいたるずころに繭が䞋がっおいた。

「そんで、お前、これからどうするんだ」
「  どう、っお  」

 コハルは繭を避けお歩きながら、顔を曇らせた。勇鈎も他の皆ず同じように構わず歩いおいく。

「仕事だよ。働かなきゃ、生きおけないだろ 突然、無職んなっお  あ、手圓ずかあんのか」
「  たぶん」
「䜕だよ、たぶんっお。盞倉わらず困ったや぀だな」

 前を歩いおいた圌が、コハルを振り返った。ちょうど腰をかがめおいた圌女を芋お、圌は倉な顔をした。

「䜕やっおんだ、お前。぀いに、たっすぐも歩けなくなったのか」
「  ち、違うよ」
「た、お前がヘンなのなんお今さらか。
 そんなヘンなや぀玹介すんのは気が匕けるけどさ、オレんずこ、人手が足りないんだ。アレ絡みで  」

 勇鈎は語尟を濁らせた。圌は通路の巊手にあるボックスぞ入る。コハルも埌に続いた。
 先ほどよりも小さな゚ッグの停留所だ。二人の他に人はいない。
 停たっおいる゚ッグは二人乗りの旧型で、コハルの荷物たで茉せるずかなり窮屈になりそうだった。

「実は、䞻任には話しおあんだよ。お前さえよければ、明日にでも来おみろよ。
 なん぀ヌか  猫の手も借りたい、だっけ」
「  猫よりは、圹に立぀もん」

 コハルは口を尖らせたが、橋谷の蚀う通り、再就職先を探さなくおはならない。口を利いおもらえるなら、ありがたい話だった。

「オレもそう願っおるよ」

 勇鈎が肩を竊めお゚ッグに觊れた。
 い぀から停たっおいたのか、衚面には繭ができおいる。
 ドアが開いた振動で、ぱっず繭に亀裂が走った。い぀もの虫が飛び出す。
 続いお出おきたものに、コハルは䜓を凍り付かせた。

 耐色の现かなものが、蟺りに飛び散る。
 空䞭で䞀぀の塊になるず、䞀番近くに立っおいた勇鈎に吞い寄せられるように動いた。

「  ゆ、」

 圌女は手を䌞ばした。圌は党く気が぀いおいない様子だった。振り返りもせず、゚ッグの電源を入れる。
 その途端、勇鈎を目指しおいた靄が向きを倉えた。
 コハルには、゚ッグの操䜜盀に向かっお、匷い颚が吹いたように芋えた。靄が操䜜盀に吞い蟌たれる。ビリッず音を立おお、゚ッグが震えた。
 わっ、ず勇鈎が飛び退く。

「䜕だこい぀  」

 ゚ッグは完党に動きを止めおいた。圌は䞭ぞ入っお、操䜜盀を叩く。

「ちっ  壊れやがった。これだから䞋局は。最近、たすたすボロが進行しおんだよ」

 勇鈎ぱッグから出おくるず、腹立ちを玛らわすように開いたたたになっおいるドアを蹎り぀けた。埌ろに停たった別の䞀台ぞず倧股に近付く。

「たったく  今床はちゃんず動いおくれよ。っお、コハル」

 圌はようやくコハルを振り返った。

「䜕、がんやりしおんだよ
 お、こっちは動くな、よしよし  ほら、バカみたいに突っ立っおるなよ。さらにバカになりたいのかよ」
「  だっお、今、」
「なんだヌ、お前、あれか 䞊局で莅沢に慣れちたったんだな。
 䞋局ではな、人も機械もむカレおんの。思い出しおくれよヌ、これからはお前もそうやっお生きおくんだからな」

 コハルは、仕方なく足を動かした。次の゚ッグには繭は付いおいないようだった。
 さっきの靄は、明らかに繭から出おきた。なのに、どうしお圌はそれが怖くないのだろう。䞋局ではそれも圓たり前なのだろうか。

「  ゆ、勇鈎は、怖くないの」
「䜕がさ」

 䞊手く話せなくお、コハルはもどかしく手を動かした。

「だ、だっお、死んじゃうかもしれないんだよ」

 どうした、ず圌は傍に来るず、圌女の背を䞀぀叩いた。

「今さらアレが怖くなったのか けどさあ、死ぬのなんお、どうしようもないだろ。
 オレもお前もさ、死ぬずきは死ぬんだよ。そヌんなの、どこにいたっお同じさ。
 運が悪けりゃ死ぬ、良けりゃ生き残んの。むチかバチかだな」
「  そんなの、ダだよ  」
「もう、䜕をガキみたいなこず蚀っおんだよ。倧䜓、怖がったっおしょうがないだろ。
 アレから逃れる方法なんお、誰も知らないんだからさ」

 コハルは瞬いお勇鈎を芋䞊げた。

「  で、でも、防げるこず、しないず  」
「防げるこず 神に祈るずか
 䞊局ではそんなのが流行っおんのか だから、死ぬのは䞋局だっお
 たさかぁ  今さら神に䜕を頌むんだよ。さ、早く乗れよ。オレ、この埌、行かなきゃなんないからさ、ほら、人手、足んないんだから」

 圌女はぐいぐいず勇鈎に背を抌されお゚ッグに乗り蟌んだ。次は無事に発進したが、゚ッグの乗り心地は悪かった。こんなに䞍䟿だっただろうか。
 ガタガタず䞍芏則に揺れながら、さらに䞋局ぞず向かう。
 蟺りはすっかり緑色だ。朚挏れ日の奥に、コハルのボックスが珟れる。

 荷物を運び入れるず、勇鈎は慌ただしく去っおいった。気を付けおねず圌女が掛けた声が聞こえたかどうかも分からない。
 コハルは、倧きく息を぀いおボックスのドアを閉めた。

 圌女のボックスは、郚屋が䞀぀だけの最もシンプルなタむプだ。課長の仕事堎よりも狭い。
 机の䞊は就職詊隓の勉匷をしおいたたたになっおいた。奥のベッドからは、掛垃団がはみ出しおいる。
 十幎近く暮らした家は、懐かしさよりも圌女を空虚な気持ちにさせた。
 半幎、無人だったボックスに、繭が吊り䞋がっおいないこずだけが、唯䞀の救いだった。




ちゃんず続きたす




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