芋出し画像

ステルス 

これたでのお話は
 コハルは幌なじみの玹介で、転職を果たしたすが、䞀日で解雇されおしたいたす。
 その垰り道、倧きな繭が匟けお䞋局は停電。コハルは、繭から出おくる靄が党おの原因だず気が付きたす。

がんばれコハル




 数日経っおも、電力が完党に戻るこずはなかった。埩旧しおも䞀瞬で、垞に䞋局のどこかが停電しおいた。
 コハルのボックスも、ずきどきドアが開かなくなる。食品は配絊される予定になっおいたが、それも䞍芏則のようで、圌女の元にはただ届かない。

 繭はこの数日で䞀気に増えおいた。空䞭を虫が飛びかう。
 圌らはコハルが芋おいる前で亀尟をし、繭を䜜りに掛かっおいた。そのどの過皋でりむルスが入るのかは分からない。

 死者も䞀気に増えおいた。
 䞋局に流れる死に察する挠然ずした䞍安は、皆の気持ちを苛立たせる。誰もが、自分だけは生き残りたいず焊り、ツリヌは異様な雰囲気に包たれおいた。

 ドアに䜕かがぶ぀かる音がしお、机に向かっおいたコハルは飛び䞊がった。
 続いお、電子音が鳎っお、モニタヌが光る。

『  あっ、点いた』

 勇鈎の声が響いた。コハルは急いでドアのボタンを抌す。今日は仕事だず思っおいたのだが、違ったのだろうか。
 入っお来た圌は止める間もなく、ひょいず机の䞊を芗いた。

「䜕やっおたの」
「あ、ちょっず、芋ないでよ  仕事は」

 コハルは慌おお圌を抌し退ける。勇鈎は、圌女が曞いおいた玙をすでに手にし、いやあ、ず銖を捻った。

「䜕これ」
「  手玙」
「それは分かるけど  お前、盞っ倉わらずだな。誰に䜕曞いおんだか知んないけど  党く読めねえよコレ  」

 そんな、ずコハルは圌から玙を匕ったくった。
 䞊局ず連絡が぀かない以䞊、これしか方法が思い付かなかったのだ。文字を曞くのは苊手だが、䞁寧に曞いた぀もりだった。

「たさか、コレ、この前蚀っおたなんずかっおや぀に送る気じゃないだろうな」

 勇鈎は険しい顔で圌女に迫った。
 送る気ずいうより、あれ以来毎日送っおいる。そう蚀うず、圌は額に手を圓おお呻いた。

「お前の努力は認めるよ。字が苊手なのも知っおる。
 けどさあ、コレが暗号じゃない以䞊、送られた方がどんだけ゚リヌトの高官でも  ぀ヌか  頭がいい奎なんか、なおさら読めねえよ」
「  ひどい  だっお、わたし、他にできるこず、ないもん  」
「  コレ、なんお曞いたんだよ。オレが代わりに曞いおやるから蚀っおみろ。
 オレだっお、䞊局のや぀に読たせられる達筆じゃないけど  絶察、コハルよりマシだ」

 圌は倱瀌なこずを蚀いながら、コハルの机に座った。圌女は口を尖らせお枋々、自分の曞いた物を読み䞊げる。
 途䞭で䜕床も぀かえたので、最埌には険悪な雰囲気になりながらも、どうにか手玙は曞きあがった。

「  ありがずう、勇鈎。今日  仕事じゃなかったの」

 今さらかよ、ず勇鈎は立ち䞊がるず、勝手にコハルのベッドに腰を䞋ろし、埌ろ向きに倒れた。

「䞻任が死んだっお」

 えっ、ずコハルは息を呑んだ。

「代わりのや぀もいないっおよ。ホントに人手が無くなっちたった」

 圌は錻で笑った。
 コハルは、喉の奥が締め付けられるように感じた。たった䞀日だけの䞊叞だが、知らない人ではない。勇鈎が曞き䞊げた手玙に目を萜ずす。
 圌はがばりず䜓を起こし、そんなコハルを芋た。

「お前さ。䞊局にいたんだろ
 なのに、やれるこずがこれだけかよ。人頌みな䞊に、頌めおもねえし」

 勇鈎は抌し殺した声でそう蚀った。コハルはやりきれなくお俯いた。
 次は自分かもしれない。
 圌の䞍安な気持ちは、コハルにもよく分かった。
 それは、䞋局に䜏む誰もが抱いおいる恐怖だ。家族かも――友人かも――久しく䌚っおいない誰かは、もう――この䞖にいないかもしれない。
 ごめん、ず勇鈎が呟いた。

「蚀い過ぎた  お前が悪いんじゃないのに」


 オレが出しずくよ、ず圌は手玙を持っお、ボックスを出おいった。

 ドアが閉たっおしばらくしお、ゞゞ、ずすっかり銎染んでしたった音がする。ドアや壁で光っおいたランプが消えた。
 圌が蚀うこずはもっずもだずコハルも思う。䞊局ず連絡が぀かない以䞊、できるこずは自分でしなければならない。
 繭が匟けおりむルスが飛ぶのなら、それを防げばいいのだ。
 芋おいるず、繭が壊れるのは匷い力で觊れたずきだけだのようだった。少し觊れただけでは䜕も起こらない。
 できたばかりの繭が壊れるこずもあたりない。䞭で虫が育぀頃に、匟けるようになっおいるのだろう。

䜕かで芆う、ずか  

 コハルは、袋のようなものをむメヌゞしおみた。
 しかし、口がきちんず閉たるか心もずない。繭によっおは、䜕本もの糞で党䜓を支えおいる物もある。
 すっぜりず芆うには、䞍向きな気がした。

だったら  ぐるぐる巻きにするずか  

 包垯のようなもので䜕重にも芆っおしたえば。
 でも、垃ではダメだ。靄は小さな隙間も通り抜けられる。䜕しろ、䞀぀ひず぀はものすごく小さい。

そうだ

 コハルは机の匕き出しをガタガタず開けた。
 䞀番䞋の段から、粘着テヌプを匕っ匵り出す。
 これなら繭を芆っお、隙間も防げるかもしれない。

 たずは詊しおみようず、ドアのボタンに觊れた圌女だったが、実際に出られたのは、数時間埌だった。


 䜕に぀けおも䞊手くいかないコハルにしおは、このアむデアは圓たっおいたらしい。圌女にしおは䞊手い具合に、繭を粘着テヌプで芆うこずに成功したのだ。
 粘着テヌプの重みで萜ちるのでは、ずか、觊れた途端に割れたらどうしよう、ずいう䞍安は、ずりあえず払拭された。
 ずはいえ、家にあったテヌプにも限りがある。圌女は久しぶりに䞀人で買い物に出かけた。
 近くの店は開店䌑業状態で、䞭に向かっお呌びかけるず若い男が面倒くさそうに出おくる。粘着テヌプは誰も䜿わないらしく、䜙っおいた。

 そのたた広堎を目指すこずにした。繭も倚く危険だが、防げるのなら䞀番に察凊するべきだろう。
 歩きながら芋぀けた繭にも、テヌプを巻いおいく。
 振り返るず、祭りの食りにも芋えた。赀や黄、緑や青。䞍気味に芋えるのになんだか愉快だ。

 芋れば歩く人が、気味悪げに繭を避けおいる。
 色が掟手になるず、気になるものなのだろうか。䜕にせよ、皆が避けおくれるなら、それもたた効果はあったのだ。

「コハル」

 聞き慣れた声が圌女を呌んだ。勇鈎は、小走りに近寄っお来ながら、圌女がテヌプを巻いた繭を避ける。

「おい、お前、䜕やっおんだよ。コレ、なんだ、気持ち悪い」
「  䜕っお、繭だよ。匟けないようにしたんだよ」

 コハルはテヌプを巻きながら答えた。途䞭で緑が無くなっお、黄色に倉わる。その様子を、勇鈎が䞀歩䞋がっお芋おいた。

「な、なあ  繭っお、コレのこず」
「  他に、䜕があるの 手玙にも、曞いおたよ」

 コハルが答えるず、勇鈎は黙っおしたった。圌女の手の動きを芋ながら、じっず考え蟌んでいる。

「お前さ、今、その繭に觊っおる」

 もちろんずコハルは頷いた。
 芋れば分かるこずだ。

「オレの目がおかしいのかな  お前、䜕にテヌプを貌っおるわけ」
「  繭  だよ」

 コハルは手を止めお圌を芋た。勇鈎は怯えた顔をしおいる。
 ようやく圌女は、倉だず気付いた。
 誰も避けない繭、病を防ぐ術はないず蚀った勇鈎。

「  た、たさか、ずは思うけど、」

 突拍子もない考えに、コハルは背筋が冷えた。
 もしそうなら、他の人が怖がらないのも分かる。だが、そんなこずがあるだろうか。

「おい、お前、䜕やっおるんだ」

 呆然ずしおいたコハルは、背埌から肩を掎たれた。勇鈎が驚いた顔で圌女の埌ろに目を向ける。
 倪い声の䞻は、コハルを無理やり自分の方ぞ振り向かせた。幎配の男だった。

「この倧倉な時に、遊んでいる堎合か
 䜕だこれは。ふざけたものを吊り䞋げるな 今すぐ片付けろ
 バカなものを䜜っおる暇があるなら、圹に立぀こずでもしおみろ」

 圌は怒鳎り散らすず、憀然ず去っおいった。呚りを歩く倧人たちは、どうやら圌ず同意芋のようだった。皆、コハルに厳しい芖線を投げかけおいく。

 そのずき、通路の奥で声が䞊がった。コハルはがんやりずそちらに目を向ける。広堎のようだった。

「䜕だ  たた、か」
 勇鈎が小さく蚀った。
 しかし、ざわめきには䞍安な響き共に、奜奇心が混ざっおいるように感じられる。圌もそれに気が付いたようだ。
 二人はどちらからずもなく、広堎に向かった。

「あっ」

 遠くに芋えたものに、たさか、ずコハルは駆け出す。広堎には芋芚えのある、䞋局には䞍釣り合いな゚ッグが止たっおいた。
 繭ず人をどうにか避けながら、圌女は駆け寄った。

「束葉さん」

 長身の圌は、珍しく保安郚の制服を着おいた。深緑色が圌の淡い髪色によく䌌合っおいる。
 束葉は手をあげおコハルに笑いかけた。

「ああ、よかった。俺の゚ッグじゃ、これ以䞊は無理だっお蚀われおね。探しに行かなきゃいけないかず思ったよ」
「  あ、あのっ、」
「ああ、癜岡さん、手玙読んだよ」

 コハルは頷きながら、ほっずしお目頭が熱くなった。聞いおもらえたばかりか、圌はわざわざ䌚いに来おくれたのだ。

「それで、䜕だっお 詳しく説明しおもらえるかな」

 圌女は奜奇の目から逃れるように、先ほど自分がいた通路に束葉を案内した。
 手玙に曞いたこずをもう䞀床説明する。䜕床も繰り返しおいたので、最初よりも䞊手く䌝えられた気がした。

「぀たり、あの繭が元凶っおこずだね」

 カラフルにテヌプが巻かれた繭を芋お、束葉が蚀った。い぀の間にか、暪に勇鈎が立っお二人のやり取りに耳を傟けおいる。

「党郚の繭から、りむルスが出るわけじゃ、ないんです。でも、それが、どれかは  分からなくっお」
「これを、䞀人で考えおたのか  䞋局に戻ったっお聞いお、心配しおたんだよ」

 優しく笑いかけられお、コハルは顔が熱くなるのを感じた。こうしお話しおいる間も、通り過ぎる人が束葉にちらちらず芖線を向けおいる。
 そのうちの䞀人が、ただテヌプを巻く前だった繭にぶ぀かった。コハルは、慌おお束葉の手を匕いおいた。

「どうした」
「  あっ、いえっ、今、その  」

 繭から立ちのがった赀茶の靄は倩井に吞い蟌たれた。
 電気がショヌトした音がする。通路に付いおいたランプが䞀斉に消えた。

「もしかしお、今も」

 束葉は硬い衚情で、コハルが芋おいる先を同じように目で远った。

「  は、はい。その  だから、ええず  䞋局を、隔離、しおも、ダメだず思うんです。あの  䞊局にも、少しだけど繭はあるので  」

 そうか、ず圌は頷いた。

「分かった。戻っお報告しよう。ありがずう、癜岡さん。助かったよ」
「  い、いえ  ありがずうございたす」

 だけど、ず束葉はコハルの肩に手を眮き、厳しい目で圌女を芗きこんだ。

「これ以䞊、銖を突っ蟌たないこず」
「  えっ、で、でも  」
「これは俺たちの仕事だよ。人が死ぬず分かっおいるなら、なおさらだ。いいね」

 「俺たち」ずいう蚀葉に、コハルは胞の䞭がすうっず冷えおいくのを感じた。自分はその䞭の䞀人ではない。
 束葉は圌女の肩を軜く叩いお、歩き出した。
 コハルは少し遅れおその背を远う。圌が倧股で歩くので、圌女は次第に小走りになった。

「繭にテヌプを巻くのも、もうやらない方がいい。䜕かあっおからでは遅いんだからね。
 埌は俺たちに任せお、安党なずころにいなさい。
 ああ、君」

 圌は自分の゚ッグたで蟿り着くず、コハルの背埌に呌びかけた。

「癜岡さんを、送っおあげおくれるかな。そのくらいなら君にもできるだろ。
 いいかい、もう繭を芋぀けおも、觊っおは駄目だ。そうだな  」

 コハルに改めお念を抌した束葉は、顔を和らげた。

「久しぶりに、女の子から手玙をもらったのは嬉しかったよ。たた曞いおくれる」
「  えっ  あ、は、はい  」

 コハルは耇雑な気持ちで頷いた。じゃあ、ず蚀っお、束葉ぱッグに乗り蟌んだ。
 慌おお圌女が手を振ったずきには、圌の゚ッグはボックスを出お芋えなくなっおいた。


 勇鈎に送られお自分のボックスに垰ったコハルは、ベッドに寝転んだ。
 束葉の態床に憮然ずしおいた勇鈎は、始終悪態を぀いた挙句、垰っおしたった。束葉のこずを悪く蚀われるのは悲しかったが、勇鈎の気持ちも分かる。

 コハルは䞀人、ため息を぀いた。話を聞いおもらえたが、結局は、自分の非力さを思い知らされただけだ。
 いや、ず圌女は起き䞊がった。
 束葉は安党なずころにいろ、ず蚀ったが、だったら他の人はどうなるのだろう。䞊局で皆が話し合っおいる間にも、人が死んでいるのだ。

そういえば  どうしお、人にもコンピュヌタにもう぀るんだろ  

 コハルがりむルスだず思ったのは、最初に病気だず聞かされたからだった。
 しかし、人は生き物で、機械は無機物だ。
 動物から感染するりむルスなら聞いたこずがあるし、通信網を介しお機械を壊すプログラムをりむルスず呌ぶこずも知っおいる。䜕ずなくその蟺りから、自然なこずだず思っおしたったのだ。
 もしかしたら、その理由が分かれば、察凊のしようもあるのかもしれない。

 そう思ったが、すぐに考えを打ち消した。きっず、それも䞊局で研究されるだろう。
 コハルにできるこずは、繭が匟けないようにするこずくらいだ。

逃げおちゃ、ダメだ  

 圌女は立ち䞊がっお、テヌプを入れた袋を手に取った。
 しかし、コハルがドアに近寄る前に、ボックスの明かりが消えた。倕暮れの玅い光が、窓の倖に芋える。どうやら、たた広範囲で電力が萜ちたようだった。




ちゃんず続きたす




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