僕が惚れた男たち③ 製造次長
僕が唯一、ベストなパフォーマンスを発揮出来なかった職場がある。それが、電子部品の調達業務だった。
前社に負けない名刺のロゴが欲しかっただけで元々仕事に対するモチベーションに欠けていた、前任者に属人化した発注フォーマットの引き継ぎが充分になされなかった、遠き国のビデオデッキ市場の動向を読みきれなかった、そうそれは全て言い訳だ。
ICが欠品し工場は大混乱に陥った。
僕はスーパーマンではないという残酷な事実を突き付けられた。
折しも中村改革が猛威を奮っていたころ。
僕はリストラの遡上にのぼり製造部へ左遷された。
ラインでの単純作業の毎日。自暴自棄になり、しょっちゅうライン工にキレて喧嘩ばかりしていた。
そこで出会ったのが製造部の次長だった。なぜか次長は僕を庇ってくれた。「お前ひとり潰すのは簡単や」「チャンスをやるから、もう一度いちからやり直してみろ」と次長は言った。
さすがは現場の600人を統率するだけあって次長の人間力は本物だった。「いつが一番楽しかったですか?」ときくと「組長で、みんなで知恵を絞ってモノづくりに取り組んでいた時やな」と答えてくれた。あまりの格好よさに痺れた。
しかし、ライン業務が僕に勤まるわけもなく心は折れた。
故郷に帰る決断をした。
有志が送別会をしてくれた。たかが僕一人のために来てくれるわけがないと誰もが言った。しかし、次長は来てくれた。
「なあ、蒼乃」「お前は自分の器を大きくせなあかん」「お前はお猪口みたいなもんやからすぐ溢れてしまう」「それをお茶碗に、そして丼鉢にしていく努力をしろ」。その言葉に泣いた。
やがて、工場は閉鎖になった。次長の消息は知らない。
しかし、現場から叩き上げた人間の凄みを見せ付けてくれた次長のことは死ぬまで忘れない。
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