創業者の教え、私の答え #26受け継がれた想い 今の時代の、全員野球
「もう今の時代は“全員野球”という言葉はなくなったな」
ある時、父が少し寂しそうに、
そうつぶやいたことがありました。
当時の「全員野球」とは、
「今日中に帰ろう」を合言葉に、
忙しい時には部署や担当を越えて、
みんなで助け合い、
その日の仕事を終わらせる。
父は、そんな意味で
「全員野球」という言葉を使っていました。
今の会社では役割分担が進み、専門性も高くなっている。
だから、
昔と同じ形の「全員野球」は、
少なくなったのかもしれません。
でも、その精神までなくなったわけではないと
私は感じています。
そう思わせてくれる、
二人の社員がいます。
二人とも、
自分が担当する機械への思い入れが、
とても強いのです。
彼らは同じような時期に入社し、
それぞれ別の加工機を任されました。
どちらも、
それまで会社では扱っていなかった新しい加工機でした。
ある時、生産現場に行ったとき、
二人がそれぞれ、
自分の機械に施した改善を見せてくれました。
「ここ見てください。」
「これ、自分で作ったんですよ。」
するともう一人も、
「こっちも見てください。」
二人とも、
大きな設備投資をしたわけではありません。
アルミ板に穴を開けたり、
部品を付けたり、
操作パネルの位置を変えたり。
自分たちでできる工夫を、
一つひとつ重ねていました。
どちらも、
少し自慢げでした。
後で上長に聞きました。
「あの二人、ずいぶん改善してるね。」
すると、
少し面白そうに教えてくれました。
「お互い、意識してるんですよ。」
一人が何かを改善すると、
もう一人も自分の機械を見直す。
それを見て、
また新しい改善が生まれる。
父は、
「もう全員野球という言葉はなくなったな」
と言っていました。
確かに、
昔のような全員野球ではないのかもしれません。
同じ仕事を、
みんなで手伝うことだけが、
全員野球ではない。
それぞれが自分の持ち場を大切にし、
誰かの工夫に刺激を受け、
また自分の仕事を良くしていく。
一人の改善が、
また誰かの改善につながっていく。
父もこれを見たら、
「これも全員野球だ」と
言うのではないかと思います。
形は変わっても、
全員野球は、
今も会社の中に残っている。
私には、そう見えています。
