#3 植物は誰のもの?〜来歴をたどってみる〜
講演を聞きながらふと思いました。ミュージアムと同じ歴史は植物園にも当てはまるのではないか、と。
植物もまた、収奪の対象だった
歴史を少し掘り下げると、植物もまた植民地的収奪の対象であったことがわかります。
ゴム、キナ、茶、綿花——植民地主義の歴史は、植物の強制移植と独占の歴史でもあります。植物園もまた、ミュージアムと同じ時代、同じ思想のもとに生まれた施設です。18〜19世紀のヨーロッパで整備された王立植物園は、世界中から「珍しい植物」を収集・保存・研究するための場であり、帝国主義の知的好奇心と収奪の産物でした。
その象徴的な事例が、イギリスのキュー王立植物園のエピソードです。1876年、イギリスの探検家ウィッカムは、アマゾンからゴムノキの種子約7万粒を「学術標本」と偽って持ち出し、キュー植物園に届けました。苗木はやがて植民地に送られ、東南アジアのゴム産業の基盤となりました。ブラジルではウィッカムは「バイオパイレーツ」生物資源の海賊と呼ばれていたそうです。
美術品では返還を求める声が上がっていますが、植物の場合はどうなるのでしょうか。
ミュージアムが収蔵品の来歴調査を行うように、植物にも「来歴」があります。「この植物はどこから来たのか」「誰がどのように利用してきたのか」。
植物展示と希少性
花と緑の市場では、希少性のあるもの、珍しいもの、見たことのない新品種に価値があります。そういった価値で市場は活性化する。また本来その土地では育たない植物、育て、維持し、流通させるための手間暇。その「難しさ」にも価値が生まれます。
本来の生息地でない場所に植物を置く場合、管理の難しさ、生育のいびつさという問題が起こります。それは自然な状態とは言えませんが、技術と手間暇で補い、希少性として価値に変換していく。それもまた、植物を装飾・展示する手法の1面です。
身土不二という言葉との出会い
仕事を通じて、「摘み菜」の文化に触れる機会がありました。その中で出会ったのが、「身土不二(しんどふじ)」という考え方です。
自分が生きる土地で育ったものを食べる。その土地の気候や風土と、そこに育つ植物は切り離せない、という思想です。
希少な植物を美しいと思う感覚や新品種に心躍る気持ちは本物です。ただ、その感覚と同時に、「この植物はどこから来たのか」「誰がどのように関わってきたのか」と意識してみること。それだけで、植物の見え方が少し変わるかもしれません。
足元の植物に目を向けること
珍しい花、希少種、新品種には花市場を活性化させる役割があります。「まだ誰も見たことのない花」や「希少な花」を空間装飾に使うことで、価値が生まれます。
その一方で、輸入された植物(外来種)ではなく、日本固有種や在来種を鑑賞する価値が再び見いだされています。フィールドワークでそこに生息する野草に会いに行く、植物園に里山をテーマにした区画が新たに設けられる、という動きが広がっています。
2023年のNHK朝ドラ『らんまん』で牧野富太郎が取り上げられたことも、その流れのひとつではないかと思います。牧野博士は、明治時代に「日本の植物は日本人が名づけるべきだ」と唱え、1889年に「ヤマトグサ」に日本人として初めて学名をつけた人物です。独学で植物分類学を切り拓き、生涯で1,500以上の植物を命名しました。牧野博士は、道端の草にも等しく目を注ぎ、ただひたすらに植物を愛し続けた。その姿勢と純粋さが、時代を超えて多くの人の心を捉えているのだと感じます。
わたし自身、摘み菜という文化との出会いが転機になりました。それまでただの景色のひとつにすぎなかった雑草に、名前があり、食べられ、暮らしの中で活かされてきた文化があると知ったとき、足元の植物がきらきらした宝物のように見えるようになりました。自分が暮らす地域の野草を暮らしに活かす、昔から日本で行われてきた素朴な楽しみ。その発見は、花の仕事をしてきた自分にとって、視点の転換でした。大阪市内で摘み菜のワークショップやイベントに協賛するなど、公私ともにこのテーマに関わっています。
地元の長居植物園にも、大阪の植生の歴史を再現した「歴史の森」や「長居の里山」エリアがあります。世界中から珍しい植物を集めるのではなく、その土地にもともとあった植物を見つめ直す。これは近代植物園の発想とは、正反対のアプローチです。
遠くから運ばれてきた珍しい花ではなく、足元にある植物に目を向けること。その行為は、もしかしたら小さな「脱植民地化」なのかもしれません。
「この植物はどこから来たのか」「誰がどのように関わってきたのか」と意識してみること。それだけで、植物の見え方が少し変わるかもしれません。
【参考文献・参照資料】 川島昭夫『植物園の世紀——イギリス帝国の植物政策』共和国、2020年 澁澤龍彦『バビロンの架空園』河出書房新社(河出文庫)、2017年 村田麻里子 講演「脱植民地化とコミュニティ・エンゲージメント——いま世界のミュージアムで起きていること」大阪公立大学梅田サテライト、2026年4月23日
