第5部古墳時代(2)部民(べのたみ)の暮らし―氏姓制度ー
#4 秦氏(はたうじ) ― 絹を織る指先の誇り
朝の光が竪穴住居の入口から差し込み、細い糸がきらりと光った。
タチは囲炉裏の前で、おばばの語りに耳を澄ませる。おばばは糸をつまむような仕草をして語り始めた。
■ 渡来の民・秦氏
「今日は“秦氏(はたうじ)”の話じゃ。海の向こうから技術を持ってきた渡来の民で、
絹を織る名人たちじゃった」秦氏のムラには、朝から機織りの音が響いていた。
トントン、トントン――規則正しい音は、まるで祈りのようだった。
若い織り手・ハタノは、細い絹糸を指先でつまみ、慎重に機に通していく。絹は気まぐれだ。
湿気にも、温度にも、指の力加減にも敏感。「糸は生き物だよ」と、母はよく言った。
■ 絹は“光を織る”仕事
ハタノは、織り上がった布を光にかざした。絹は光を吸い、また返す。
白い布が、朝の光を受けて淡く輝いた。「わしらの布は、ただの布ではない。
光を織り、風を織り、人の願いを織るんじゃ」母の言葉が胸に響く。
秦氏の絹は、豪族の衣として重宝された。祭りの日、神に捧げる布も秦氏の仕事だった。
だが、彼らは豪族のために織っていたのではない。「わしらは、布に“誇り”を織り込むんじゃ」
それが秦氏の心だった。
■ 差別と誇りの狭間で
渡来の民である秦氏は、時に“よそ者”と呼ばれた。漢に滅ぼされた秦の残党だなどという流言も流れた。だが、彼らは技術でムラに貢献し、やがて欠かせない存在となった。ある日、ハタノはムラの子どもに言われた。
「お前らは海の向こうの人だろ。なんで日本に来たんだ?」ハタノは静かに答えた。
「布を織るためだよ。どこにいても、布を織ることがわしらの生きる道じゃ」
子どもは不思議そうにうなずいた。
■ 布は人をつなぐ
秦氏の布は、ムラとムラをつなぎ、豪族と庶民をつなぎ、海の向こうの文化と日本をつないだ。
ハタノは布を折りたたみながら思った。「わしの布が、誰かの人生を温めるなら、
それで十分じゃ」タチは息をのむ。「布を織るって、すごい仕事なんだな」おばばは微笑んだ。
「そうよ。布は人の暮らしを包む。秦氏は、その“包む力”を作ったんじゃ」(つづく)
