アイシングは本当に不要なのか?
―「冷やす・冷やさない」という議論に、私は違和感を持っています。
「最近はアイシングをしない方がいいらしい。」
ここ数年、このような話を耳にする機会が増えました。
PEACE & LOVEの登場や、炎症反応を過度に抑制することへの懸念から、「アイシングは組織修復を遅らせる可能性がある」という考え方が広く知られるようになりました。
もちろん、この考え方には重要な示唆があります。
炎症は、生体が損傷組織を修復するために備えている正常な生理学的反応です。これを必要以上に抑制することが、必ずしも望ましいとは言えません。
しかし、私はこの議論を見ていて、ずっと違和感を持っていました。
それは、
「冷やすか、冷やさないか」という二択になってしまっていることです。
私はこの問い自体が、本質から少し外れているように感じています。
私が学会で発表した理由

数年前、私は「アイシング再考」というテーマで学会発表を行いました。
テーマは、「皮膚温変化における過去の研究データの有用性」です。
この研究を始めた理由は、とてもシンプルでした。
「現在行われているアイシングは、本当に適切なのだろうか。」
臨床では毎日のように寒冷療法を行います。しかし、文献を読み進めると、多くの研究は健常者を対象にしたものです。
一方、私たちが日々診ている患者は、靱帯が損傷し、血腫が形成され、炎症反応が進行している人たちです。同じ身体でも、そこでは全く異なる環境が存在しています。
そのため、健常者の研究結果を、そのまま臨床へ適用してよいのだろうか。
そんな疑問が、この研究の出発点でした。
私は「アイシング推進派」でも「反対派」でもありません

このテーマについて質問を受けると、「先生はアイシング賛成なんですか?」
と聞かれることがあります。
私の答えは、いつも同じです。
どちらでもありません。
なぜなら、私が見ているのはアイシングではなく、
病態
だからです。
熱感はあるのか。
発赤はあるのか。
腫脹は進行しているのか。
血腫は形成されているのか。
どの組織が損傷しているのか。
これらを評価した結果として、「寒冷療法を行う」という判断になります。
つまり、アイシングは目的ではありません。
病態に応じて選択される一つの生理学的手段に過ぎないのです。
「傷病名」は病態を表していない
例えば「足関節捻挫」。
この傷病名だけでは、実際に何が起きているのかは分かりません。
ATFLだけなのか。
CFLまで損傷しているのか。
関節包はどうか。
血腫はどこにあるのか。
滑膜炎は起きているのか。
これらを確認しないまま「捻挫だから冷やす」、あるいは「PEACE & LOVEだから冷やさない」という判断には、私は慎重であるべきだと考えています。
超音波画像観察が変えた私の臨床

私の臨床で大きく変わったことがあります。それが、超音波画像観察(エコー)です。
組織を直接観察できるようになると、「思っていた病態」と「実際の病態」が一致しないことを何度も経験しました。
疼痛が強いのに軽度損傷だった症例。逆に、痛みは軽いのに広範囲の血腫を伴っていた症例。傷病名だけでは見えない情報が、そこにはあります。
だから私は、「何をするか」よりも、「何が起きているのか」を重視するようになりました。
施術とは「組織修復環境」を整えること

私は、施術とは組織を修復することではないと思っています。組織を修復するのは、生体そのものです。
私たち柔道整復師にできることは、その修復が円滑に進む環境を整えることです。
寒冷療法。
固定。
物理療法。
運動療法。
栄養管理。
これらはすべて、組織修復環境をマネジメントするための手段です。どれか一つが正解なのではありません。病態に応じて適切に組み合わせることが重要です。
おわりに
SNSでは、
「○○は間違っている」
「○○はもう古い」
という言葉が目を引きます。
しかし、臨床はそれほど単純ではありません。一人ひとり、損傷している組織も違えば、炎症の程度も違います。だからこそ私は、今日もまず病態を評価します。
傷病名ではなく、
画像だけでもなく、
教科書だけでもなく、
目の前の患者さんの組織で、今、何が起きているのか。
その答えを探し続けることが、急性外傷をみる柔道整復師として最も重要な姿勢だと考えています。
